むべやまかぜを 2
電気店はそろそろ店じまい。ぎらぎらしたネオンを無視して野良猫のような小娘は駅前の青果市場跡地に立つビルに向かう。グラップラーの連中はすでに宴会を始めているはず……。
「アルバイトの歓迎、ねえ。そんなもんに私を呼ぶ意味あんのか?」
少女はビルを見上げながらつぶやいた。そういう内々のことは会社の中でやれば良いと思うのだが。
「ま、いいか……」
丸山花世は丸山花世で確かめておきたいことがある。で、あればこれは絶好機。
「まあいいや行ってみりゃ分かるか」
果たして、エレベーターに乗って向かった先、洋風居酒屋には……。
「……あれ?
丸山花世はつぶやいた。自分が場所を間違えたかとも思ったのだ。居酒屋に集まっている連中は、ぱっと見ただけで四十人……いや、もっといるか。
「こいつらは、違うよな」
あまりにも多すぎる人数。パーティー会場のような有様になった居酒屋に集っているのは……背広姿のサラリーマンではない。
――ゴッグよりもアッガイが……。
――エヴァの劇場版は……。
――リーフは……。
よく分からないが、別の意味でカタギとは思えぬその一団は、彼らだけが分かる謎の言語で会話をしている。
「いや、これか?」
丸山花世はぼんやりとし……やがて、ぼーっと突っ立っている少女のそばに斉藤女史が現れる。
「ああ、丸山さん」
綺麗なライムグリーンのジャケットを着たイラスト担当は、アルコールが入っているのか、頬がほんのりと赤い。
「ああ、どうも……って、やっぱりここでいいのか」
「いいのかって?」
「いや、だから、なんか、会社の人の食事会だって聞いてたから。こんなに人がいるとは思わんかったっていうか」
花世は思っていたことを素直に言い、斉藤女史はちょっと苦い顔をして沈黙する。
「なんかあったん?」
「まあ、ね……」
「……」
「最初は、ね、社長が、内々でって言ってたんだけれど。アルバイトの新人が入ったから……」
「ああ、そんなこと言ってたな。三重野のおっさんが。私もそう思ってて……」
べれった殿はなんともいえない憂鬱な顔を作った。騒ぎまくっている人の輪から見慣れた顔が出てくる。
「いやー、丸山さん! 遅かったですね!」