むべやまかぜを 2
作品は人生。作品こそは人生。そして、作品の神様に導かれてアホ集団グラップラーと物書きヤクザが出会ったのもまた運命。
「たっつん達と会ったときみたいな心のときめきがないのはなんでなのかなー」
花世は渋い顔を作って頭をかきむしった。
「あん時は、作品作るのがスゲー楽しくてわくわくしてたのに……」
どんよりと霧がかかったような現場。どうしてもっとすっきりいかないのだろう?
「もうちっといろいろと調べてみて、それから打ち合わせして……でも、あんな連中だからなー。どうせろくな案もないだろうし」
実力の劣る隊長に率いられた分隊はたいてい全滅の憂き目を見るのだ。
「さて、どうなることかね」
そして翌日。
丸山花世は再び秋葉原の駅前広場を訪れることとなった。
時刻は十九時を十分ほど過ぎようとしている。
もともと物書きヤクザには連日秋葉原に出張る義理も予定も無かったのだが、それは突然の召集であった。招集をかけてきたのは、グラップラーの自称プロデューサー三重野保。
――えーとですね、丸山さん、今日、お時間よろしいでしょうか。
物書きヤクザがヒゲデブの電話を受けたのはちょうど昼休み。学食てラーメンをすすっていた小娘は突然電話をかけてきた三重野に、
――あんたさー、こっちは高校生なんだからさ、その辺、考えてよ。だいたい私、あんたの部下じゃないんだからさ。
と悪態をついたのだが、愚鈍なプロデューサーは、花世が腹を立てているということすら理解していないようすであった。
――今日はですね、社員、みんなで集まって、食事会でもしようかと、そう思いましてね。新しいアルバイトが入ったもので。それにみんな、いろいろとストレスもありますからね、鬱憤晴らしなどもしてもらおうかと。丸山さんもいかがですか?
食事会。鬱憤晴らし。何の仕事もしていないのに鬱憤も何も無いだろうに。物書きヤクザはそう言いかけてやめにした。かわりに生意気な小娘はこう尋ねたのだ。
――斉藤さんは来るの?
それはもう。当然です。べれったはね、うちの看板ですから。三重野はそのように答え、そこで花世は、こう三重野に伝えたのだ。
――気が向いたら行くわ。
そして、約束の時間に遅れること十分。丸山花世は日の暮れた秋葉原にやってきた。