むべやまかぜを 2
ルサンチマンが多すぎる
毎年五月のゴールデンウィーク中にWCAの入会試験が行われる。場所は東京の国際貿易センタービル。丸山花世も案内を貰って、試験を受けに行った。それが十四歳の時のことである。ちなみに、テストの前に委員から講習があった。
物語作家としていったいどういう立ち居振るまいが求められるのか。いったい何を基準として作品を作っていけばいいのか。丸山花世は居眠りをしていて講師殿が何を言ったかまったく聞いておらず、気がついたら試験が始まっていた。ちなみに丸山花世が受けた試験はたった一問あるきり。
Q 物語の作り手が文学作品の賞を受賞することにおいてもっとも重要なファクターは何か。簡潔に述べよ。
丸山花世の答えは以下のようなもの。
A 一パーセントの学歴と一パーセントの金。一パーセントの運。残りの九十七パーセントは……まあ、コネだろうな。
そして、試験を終えて何日かするとスカラベのペンダントが送られてきたのである。残念賞ではない。会員証とセットで合格の通知。もっとも、WCAという組織は変なところで、会員費を取られるわけでもなければ会報があるわけでもない。何かの会合があるということもない。ただ『おまえは会員だ』という認定があるだけ。それだけなのだ。利益もないが不利益もない。役員が誰なのか、会長が誰なのか、そのようなことも丸山花世は知らない。相当偉い作家連が理事をやっているということは少女も聞いて知っている。だが、それが誰なのかまでは分からない。調べれば何か分かるかもしれないが、丸山花世自身にそのようなものを調べる意思がないのだ。
――どうでもいいわな。
事実を知ったところでどうということもない。得にもならないし損にもならない。やりたければやらせておけばよい。ただそれだけ。
だから少女の胸には今日もスカラベが水晶を押している奇妙な形の安物のペンダントが輝いている――。
その日は奇妙な天気であった。
五月だというのに妙に風が冷たく、青空が広がっているのに遠くで雷が鳴っているというちぐはぐな風まわり。
そして丸山花世は、午後の秋葉原で待ちぼうけ。
待ち合わせの時刻は十六時。だが……肝心の交渉相手がなかなかに現れない。