むべやまかぜを 2
上に着ているのはスウェット。下はパンツ一枚。とても他人に見せられる姿ではないが、物書きヤクザは気にしない。なぜならば彼女は上がいることを知っているからである。アネキ分の大井弘子は時々であるが、服を着るのを忘れたままパソコンに向かっている。
作り手というものはどんな格好でもかまわない。やりやすければそれでいいのだ。
「えーと何々……」
――三重野保。三十九歳。
「三十九。デブ、チビ、馬鹿。三重苦だよね」
三重野のプロフィールを花世は見ている。職務経歴書、である。岡島がそれをどのようにして三重野たちから取ったか、丸山花世は知らない。まあ、あまり頭のよさそうな連中ではなかったから、編集殿に適当に丸め込まれたのではないか。
「えーと……大手ゲームメーカーに営業として入社。四年後退職。中堅ゲームメーカーに入社。二年で退社。で、Aポイント……か」
丸山花世は経歴を見ている。三重野保。転職をするたびに会社の規模が小さくなっている。転げるような人生、である。
「……なんだ、あのオッサン、ただの社員なのか」
花世は腹のあたりを掻きながらぼそりと言った。
ただの社員。もしかしたら、会社に資本参加をしているとか、土地や建物を担保物権として差し出しているとか、そういう金銭的な保証を三重野がしているのではないか。丸山花世はそんなことを疑っていたのだ。
――金を出しているんだから口も出す。
それは当然のこと。金を出しているのであればそいつがプロデューサーを名乗っても決しておかしくない。小娘はそう考えている。
「金か、才能か。人に指示を出していいのは、そのどっちかだよ」
だが三重野は違う。金は出さないし、才能もないが、プロデューサーを気取っている。それを許す会社はやはり天意が無い。
「あのオッサン、筋金入りの馬鹿だな」
女子高生は鼻で笑った。
「ええと、で、高原。高原浩二。こいつは……某専門学校卒。で、アニメの製作会社を経て、エロゲーメーカー、クロイツに入社。それからAポイント、と。製作実績は『こいみず』十年も前の作品か。そんなの知らんよな。私、五歳ぐらいだったわけだし」
花世は物心がつくかつかないかという時分の作品には興味が無い。