小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

むべやまかぜを 2

INDEX|17ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

 「私を呼んだのはオカジーで、それは有限会社グラップラーの依頼があったからだけれど、でもそうじゃない。作品の神様がいて、そいつが私に何かをさせたいからあの場に私を呼んだ」
 「大井さんもそんなことを昔、言ってたの聞いたことあります」
 「だったら、まあ、できる限りのことをやってみようかと、そんなことを思うんだよね。何か意味があることだと思うから。その意味が今はよく分からないんだけれど」
 丸山花世は迷いながらも自らの道を模索している。一方の編集殿は暗い顔をしている。
 ――どんどん人が死んでいく、そういう話、そういう話にしましょうよ! ね、ね!
 岡島たちが帰る直前の三重野。無邪気に、何の考えもなく喚く中年男の姿を岡島は思っている。三十過ぎて四捨五入で四十。同年代の人間の中には外資で敏腕トレーダーになっている者がいて、大手商社で役職についているものがいて、自分で事業を起こすものがいる。社長と呼ばれ、先生と呼ばれ、子供が産まれればパパと呼ばれている。だが三重野は……。
 「バルディオスですか。アホですよね。そんなアニメのことを得々と語られましても、ねえ」
 岡島は疲れ果てたようにして言った。
 「うん、そうだね。アホだね、あいつ」
 丸山花世はぼんやりとした表情のまま頷いた。
 「ま、でも、うん」
 物書きヤクザには物書きヤクザの算段というものがある。
 「ま、いろいろと考えてからだね」
 花世は急いでいない。そして、悲惨な結末が見えすぎている現場に留まろうとしている少女のことを編集者は不安げに見ている。と、ヤクザ者は言った。
 「あのさ、オカジー、ひとつ頼まれてくんないかな?」
 「なんでしょう?」
 「連中のプロフィール。スタッフ一人一人の情報、知りたいんよ。年齢、性別、出身地、経歴……」
 「そんなものを調べてどうするんですか?」
 「うん。なんとなくね。知っておいたほうがいいような気がしてさ」
 「まあ、それだったら調べて見ますけれど」
 「うん。お願いするわ」
 丸山花世には丸山花世のやり方、というものがあるのだ。
  
 その日の夜――。
 自室に篭る少女は編集殿から送られてきたメールを眺めている。
 「ふむ。三重野……か」
 少女は椅子の上に胡坐をかいた姿でつぶやいた。
作品名:むべやまかぜを 2 作家名:黄支亮