むべやまかぜを 2
中年男は意気揚々と四半世紀前のマイナーアニメについて語りだそうとする。
「見ていた視聴者に衝撃を与えたわけですよね、バルディオスは。人生変わるぐらいの……」
「そんなもんで変わる人生なんて生きねーほうが良いんじゃないの?」
花世は侮蔑のまなざしを中年男に送った。
「丸山さん、貴女もバルディオスは見たほうが良いですよ」
「いいよ。時間の無駄でしょ。どう考えても」
小娘は即座に言い、一方、ハゲの高原が興奮して言った。
「そうそう、バルディオス! エンディングテーマが暗くていいんですよねー。あの時代のアニメはエンディング暗いのが多くて……」
年上の二人が局地的に盛り上がっているのに対して、神田はぜんまいが切れた人形のように硬直し、ゲイ雨宮は所在なさそうにしている。年齢的に、三重野と高原は同世代で四十近く。ゲイ雨宮は二十代後半。神田は二十代前半ということで、世代間のギャップがあるのだろう。
――オタク、か。
花世はばらばらのモザイクになったスタッフを見ながらそんなことを思っている。
「とにかくですね、そういうことでね、バルディオスのような作品を是非ね、お願いいたします!」
三重野は意気軒昂に言った。
「バルディオスのような作品って、なんじゃそりゃ」
小娘はヒゲデブの中年男を哀れむようにして見るばかり。
全てが終わる頃には街は夕暮れ時。
編集殿はぐったりとなり、一方、丸山花世は図太いので平気な顔をしている。
「あの……丸山さん?」
「なに?」
「このお話、下りても良かったんですよ……」
あまりに拙い。あまりに愚かしい。グラップラーのスタッフは、どこの世界でも通用しない低劣なものである。
「オタク上がりで業界人って、あんまりまともな人っていないんですよね」
「うん。そーだね」
丸山花世は曖昧に言った。だが。物書きヤクザは、
――この仕事、パスだわ。
とは言わない。
「……請けるんですか?」
「うん。そう……」
丸山花世はべれったこと斉藤女史の嫌な視線を思い出している。
「オカジー。これは、アネキの受け売りなんだけれど……作品が人を呼ぶんだって。現場がそいつを呼ぶ」
「……」