笑顔の拒絶[Fantastic Fantasia]
「史間さん」
次の日もレンは店に来ていた。
「史間さんはなんでこの店をやっているんですか?」
昨日は結局お昼も御馳走になってしまった。
「望月様はなぜこの店に来られるのですか?」
「……居心地が良いから。好きだから」
「僕もですよ」
史間は相変わらずにこにこと愛相が良い。
「望月様、何か買われないのですか」
買わないといけなかったのかな、とレンの笑顔が少し引き攣る。
「そんなに一生懸命見られているのに手元に置きたいとは思わないのですか? お代なら相談に乗りますが」
「あー、そういう訳じゃあ……」
「部屋の片付けがまだ終わっていないとか?」
片付けどころか引っ越しすらしていない。まだホテル暮らしである。いや、それは理由にはならないか。そんなレンを青年がにやにやと見ている。
「んー、どれも好きで一つには決められないって感じですね」
「おや、それはこの子たちも喜びます」
史間は商品の一つを撫でた。金色がきゃいきゃいと史間の周りを泳ぐ。
青年はそんな二人のやり取りを聞くと口をへの字に曲げた。気に入らなかったらしい。確かに今の会話は核心を故意に外した。しかし先に其処に触れるべきなのは史間でありレンではない、とレンは考える。レンから触れた所で今の史間ははぐらかすだろう。
青年は史間の心を表わしているのではないか、とレンは思った。史間は恐らく踏み込んでレンとの関係を変えたいのだ。しかし踏み込むためには何かが足りない。それは恐らく青年である。けれどそれだけではない。青年は史間ではありえない。
それじゃあ、と史間は口を開く。
「望月様が全ての商品を見てどれか一つ決められたら、僕からプレゼントしましょう」
「え、そんな悪いですよ。商売道具じゃないですか」
レンは慌てて手を振る。
「「良いんですよ。趣味みたいなものですから」」
レンはおや、と思う。史間は何時も通り笑顔だが、今は少し強引である。史間の後ろで青年がにやりと笑った。
「そういえば望月様はどちらからいらしたのですか?」
史間からレンの個人に言及するのは初めてだ。
「……南の方からです。旅をしていて、余り一所には留まりません」
「それではこの店のものを見終わる前にまた旅立たれてしまわれるかもしれませんね」
「急ぎの用事では無いので時間の制約はありませんよ」
少し寂しそうに言った史間をフォローするつもりでレンは言い、言った後で史間の目が光ったのを見て少し後悔した。
「この家、部屋が余っているのですよ。好きに使って貰って大丈夫ですから」
にこにこと微笑む笑顔が今は怖い。史間と云うより青年の様な印象を受ける。
「頼みごと、きいてもらえますよね」
レンは史間の周りに渦巻く金色を見た。
作品名:笑顔の拒絶[Fantastic Fantasia] 作家名:幻夜