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Wish  ~ Afterwards ~

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「確かに、弾けないけどさ……」
「声も音も二人分の方がええやん。……買わへん?」
 キラキラ光る航の瞳を見て、慎太郎が溜息をつく。これは、どう踏ん張っても否定しきれそうにない。元々、航の押しには勝てなかったのに、喋れるようになった航はなんだかんだと尤もな事を並べ立てる才に長けていた。運良く、それを躱した所で“切り札”には敵わないし……。
 でも、一応、抵抗を試みる。
「やだ! って言……」
「一緒にやろ!!」
 そして、やっぱり溜息をつく。
「……そんなに嫌なん?」
 哀しそうな表情(かお)で覗き込んでくる航に、
(……そうそう、この表情(かお)に弱いんだよな、俺……)
 と、苦笑い。
「……なんでお前には勝てねーんだろうな……」
「……?……」
「高いのは無理だぞ! 母子家庭は財政が苦しいんだから」
「うん。分かってる。目ぼしいのは、チェック済み。後は、シンタロとの相性だけ」
 既に調査済みの航に、
「侮れねー奴」
 慎太郎がクスクスと笑い出す。
 ……商店街のバス停。ようやく到着したバスに、二人は乗り込むのだった。


 そして、三日後。今日は金曜日。合格者の受験番号が貼り出されている掲示板の前で、
「おうっ! 合格、合格!」
 慎太郎が携帯片手に通話中である。
「いいよ、来なくて!」
 相手は勿論、
「聞いてっか? 航!?」
 ……だ。
「……は? 何? ……“嘘”って……?」
 失礼な奴だな! とちょっとムッとした途端、“プチッ”。
「航っ!? ……切りやがった、あいつ……」
 仕事中の母には、既にメール済みだ。とりあえず、学校に戻って“合格”の報告を担任にしないといけない。慎太郎は携帯を閉じると、バス停へと歩き始めた。
 先日、恥ずかしい思いをした公園を抜けると大きな歩道橋があり、その向こうがバス停のある商店街である。年末に参考書を買った書店を通り過ぎ、例のジュエリーショップの前を……。
「あれ?」
 通り過ぎようとしたその瞬間、
「……うっそ……」
 ペンダントとイヤリングが……。
「……ない……」
 三日前には、まだ飾られていた筈だ。だから、“三割引”だと……。
 航に知らせなきゃ! と、ポケットにしまった携帯を急いで取り出し、リダイヤルする。と同時に、
“♪♪♪♪♪”
 携帯が鳴った。航からだ!
「航? 今、電話しようとしてたとこ! ……大変だよ!」
『ペンダントが売れてしもてるっ!!』
「は?」
『シンタロ、聞いてる!? あのペンダント、なくなってる!!』
「ちょっと待て! お前、今、どこに……」
 言った途端、目の前の自動ドアが開き、中から、
「航!?」
 が出てきた。
「シンタロ!!」
 持っていた携帯をパタと閉じる。
「ひとつも残ってないって!」
「確認してたの、お前?」
 慎太郎の言葉に航が頷いた。
「シンタロ迎えに来たついでに、ちょっと覗いたら、ウインドウから消えてるから、店内に下げられたんかな? って思って……」
「そしたら、“ない”って?」
「うん。全部売れました。って……。ありがとうございます。って……」
 俺、買(こ)うてへんのに……。と項垂れる。
「……ま、無いんだったら、諦めるしかないな……」
 ガックリと肩を落とす航に、慎太郎が微笑む。
「あれ、絶対に似合うと思てたのに……。プレゼント、“歌”だけになってしまうやん……」
「落ち込むなよ」
「“歌”だけって、ショボくない?」
 溜息をつく航。
「でも、本人の希望だぜ」
「……そうやけど……」
「その分も気持ち込めて歌えばいいじゃん。俺も、腹くくるからさ」
「うん。……そやな……」
 ウインドウを振り返り、航が小さく笑った。
「あ、ついでに楽器屋行かへん?」
 思い出したように慎太郎の服を引っ張る。
 余りの切替え早さに驚きつつも呆れる慎太郎。
「ダメ!」
「なんで!?」
「俺は、今から学校に報告しに戻らなきゃならないの!」
 一緒に発表を見に来たみんなは、既に戻ってしまった。
「チェッ……」
 “チェッ”じゃねーよ! と、航の頭を軽くコツンと叩く。
「てか、お前、なんでこっちまで出て来てんの!?」
「学校終わったから」
「そーじゃなくて!」
 笑いながら、慎太郎が自分を指差す。
「そんなに心配っスか、俺……」
「心配してたわけや無いんやけど……」
「けど?」
「……」
「航くん?」
「……心配でした」
 すんません。と航が頭を下げる。
「でも、良かったーっ! 一緒に行けるな、高校」
 振り返る笑顔が本当に無邪気だ。
「戻って、とりあえず、いつがいいか木綿花に聞かなきゃ」
 “プレゼント”する日を決めないと練習のしようがない。
「で、ついでに、音楽室を借りれるかどうか聞かんと……。まだ、一・二年生は授業あるやん?」
「あ、そっか……」
「とりあえずは、放課後かな……」
「ダメって言われたらどうするよ?」
 到着したバスに乗り込み、空(あ)いてる座席に座る。
「んー……。多分、大丈夫!」
 慎太郎の隣に腰掛けてニッと笑う。
「また何か企んでやんな?」
「“企む”って……」
 人聞き悪いなー。と今度はクスクス。
「“策を用意してある”って言うてーな」
「はいはい。“策”ね」
 ――― バスは“公園前”を後にした。


 学校に戻り急いで担任に報告を済ませると、二人は木綿花に連絡をとった。
『え? いつがいいって? ……うーん……そーだなー……。ねぇ、今どこ? 学校!?じゃ、急いで戻って!! ……航くん? 一緒でいいよ! 早くねっ!!』
 と言う事で、これまた急ぐ羽目になった。
「あー、やっと着いたぁ!」
 木綿花の家の前、上着を手に掛け「暑いわー」と手で扇ぎながら航が肩で息をしている。その横で同じく肩で息をしながら、
“ピンポーン♪”
 慎太郎が伊倉家の呼び鈴を押す。
「あれ?」
 誰も出て来ない。
「急げって言うてたんやろ?」
「聞き間違えようが無いと思うんだけど……」
 首を傾げつつ、もう一度押してみる。
“ピンポーン♪”
 ……やっぱり、出ない。
「っかしいな?」
 かと言って、ここで待っていてもどうしようもない。
「ひとまず、俺んちで待ってみる?」
 隣の自分の家のドアに鍵を入れて回……。
“カチャ”
 す前に、突然ドアが開き、
“ゴンッ!”
 慎太郎が額を強打し、
「痛てて……」
 その場にしゃがみ込んだ。
「シンタロ! ……大丈夫か!?」
 航も屈み込み、慎太郎を覗き込む。
 痛いながらも、慎太郎が何事かとドアを見ると、
「慎太郎!?」
 木綿花が心配そうな驚いた様な微妙な顔で笑っていた。
「香澄さーん! 帰って来たわよーっ!」
 ……って、ちょっと待て!
「母さん、仕事じゃ……」
「おっかえりなさーいっ!!」
「……いるし……。てか、何やってんの?」
 額を押さえて立ち上がる慎太郎に問われて、「いらっしゃい、航くん」と航に微笑みつつ、
「息子が“合格しました”って連絡くれたのよ、帰るでしょ、普通!」
 母の“普通”に慎太郎が困惑する。
「木綿花も航くんも合格してるし、みんなで食事にでも行きましょうか?」
「え?」
「俺も?」
 きょとんと自分を指差す航に、
「勿論よ」
 と微笑む。
作品名:Wish  ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒