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Wish  ~ Afterwards ~

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高校合格



 時は二月末。
「あー、終わった! 今度こそ、終わった!!」
 公立一般入試の終わった校門で、迎えに来ていた航に抱き付いて慎太郎が声を上げた。
 ……そう、“一般入試”。結局、“推薦入試”は玉砕した。勿論、今日“迎えに来ている”航は“推薦入試”で合格を決めている。
 二月の初め、
「……な……無い……」
 張り出された合格者番号の中に慎太郎の受験番号が無かった。そうとう落ち込んだが、それも束の間。
「“一般入試”で頑張ればいいわよ。そっちの方が受かりそうなんでしょ?」
 と言う母に対し、
「明日っから、休みなし!!」
 とは、航の言葉。そして、その言葉通り、翌日から個人指導状態で放課後もみっちり勉強三昧の日々が続いた。マイペースな母よりも一途な航の方がよっぽど怖い。
「だって、俺、一緒の高校行きたいのに!!」
 この一言が、なによりのプレッシャーだったとは当人には言えない。
「どうやった?」
 抱き付いて来た慎太郎を受け止めつつ、航が心配そうに問い掛ける。
「この前よりは出来たと思う」
 倍率が四倍と低い分、前回より出来たという思いは“合格”へと繋がる。
「発表って、また三日後?」
「金曜日だから、そうだな」
「……そっか……。それまでは、ジタバタしてもしゃーないな……」
 フッと息をつく航。
「何、お前、それ?」
 ふと、慎太郎が航がギターケースを背負ってる事に気付く。
「買い物帰り」
「は?」
「待ってる間、落ち着かへんから、楽器屋に行ってた」
 高校はちょっと離れた所にある。分かりやすく言うと、少し街の方にあるのだ。だから、専門店なども多々ある訳で、航はギターのグッズを補充しにそこへ行ったというのだ。
「ギター持って?」
「だって、落ち着かへんねんもん!」
「受けたの、俺だぜ?」
 呆れる慎太郎に、航が呟くように言う。
「そやかて……! ……一緒に、行きたいんやもん……」
 おや?今日は遠慮がち??
「いっつも言うてるから……」
 項垂れながら、上目遣いで様子を窺うように続ける。
「シンタロの負担になってるのは分かってるんやけど。でも、ホンマに一緒に行きたいから、だから……」
(あ、気付いてたのね、プレッシャーになってる事)
 仕様のない奴だな。と、慎太郎が航の頭をポン! 即座に笑顔が返ってくる。
「あ!」
 思い出した様に、手に提げているビニールを差し出す。
「これ、昼飯」
 ファストフードの袋だ。そう言えば、ここにくる途中にあったのを思い出す。
「ここで!?」
 笑いながら問い掛ける慎太郎に、
「んな訳ないやん!」
 あっち! と来た道を振り返り指差す。
「公園があったから、そこで食えるかなって」
「お前、どんだけうろついてたんだ?」
 笑う慎太郎に、
「暇やってんもん」
 公園へと歩きながら言い捨てる。
「“暇”って……。いつからいるんだよ」
「学校終わってすぐ」
「え!?」
 慎太郎が驚くのも無理は無い。今日は公立校の試験日だから、既に入学が決まっている生徒は登校後、出欠を確認したら、即、下校なのだ。登校して、出席を取って……。きっと九時には終わっている。……って事は、そこから着替えて、バスに乗って……。
「十時にはここにいたかな?」
 ……やっぱり……。と、溜息をつき、
「そんなに心配っスか、俺……?」
 と航を見る。
「どの道、“弦”買わなあかんかったから、どうせこ高こ校まで来るんやったらついでに楽器屋に行こうかなって……。でも、思ったよりは早よ買い物終わったから、時間が余ってしもて、それで……」
 一気にまくし立てて、慎太郎をチラ見する。
「信用してないのとはちゃうねん!」
「はいはい」
「ちゃうからなっ!」
 否定の仕方があまりに一生懸命で、思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ。お前、付きっ切りで教えてくれたじゃん」
「……うん……」
「こないだよりは、全然出来たから」
「うん」
 そして、木立の間、芝生の上のベンチを見つける。二人掛けのベンチが二脚、小さな木製のテーブルを挟んで、ポツンと…。まるで二人を呼んでいるかの様だ。早速腰掛け、昼食。
「航、“お飲み物”が見当たんねー」
 ビニールの中の紙袋から、ガサゴソとハンバーガーとポテトを取り出し慎太郎が言う。
「あ、氷が溶けたら嫌やから、それだけはペットでこ買うてきた」
「気が利くじゃん!」
 まぁね! と鼻を鳴らす航を
「どんな“自慢”だか」
 慎太郎が笑う。と、
「あ……」
 ハンバーガーを手にした航が、嫌そうに声を上げた。
「何?」
「抜いてもらうの、忘れてた……」
 嫌そうな航の視線の先には、ピクルス。
「食やいいじゃん」
「……戻すもん……」
「汚ねーな!」
「あーぁ……。どーしょー……」
 嫌そうに二本の指でつまんでプラプラと揺らす。
「お前、そうやって好き嫌いばっかしてっから、身長が伸びないんだぞ!」
「余計なお世話や!」
「すぐに泣くし」
「関係ないやん!!」
 怒る航の手首を掴んで、慎太郎がプラプラのピクルスをパクッ!
「よー食えんな」
「美味いじゃん。肉と食うと絶妙よ!」
「“絶妙”過ぎて、食われへん!」
 笑う慎太郎に、ウエッ! と眉をしかめて航が言う。
「だから、チビなん……」
「うっさいな!! 高校入ったら伸びんの!! すぐに追いつくんやから!」
 ポテトを食べながら、コーラをグイッと飲む。その様子を笑いながら、慎太郎が二個目のハンバーガーに手を伸ばして、
「あれ、お前、一個?」
 首を傾げる。
「ぁ……、えーと……」
 ポテトで汚れた手を拭き、
「二個……」
 ギターケースを開ける。
「って、一個じゃん?」
 指差す慎太郎に、エヘヘと笑って、
「待ち時間が長(なご)うて、腹減ったから……。……待ちきれずに食いました。バーガーとアップルパイ……」
「公園(ここ)で?」
「ううん、校門の前で……」
 取り出したギターを爪弾きながら、
「流石に、ちょっとマズかったかなって……」
 航がクスクス笑い出す。
「でも、食ったんだろ?」
「うん。完食!」
 ジャカジャン♪
「効果音はいらねーよっ!!」
 バーガー片手にコーラを飲みながら慎太郎が笑った。
「食い始めてから視線に気付いたんやけど、途中でや止めるの嫌やってん!」
「変なとこで意地張んなよ」
「そこは、ほら! 男の子やから」
 クスクスと笑いながら、ギターが曲を奏で始める。
「俺、まだ食ってるぞ」
 BGMやん♪
「約束したのに、全然練習してへんかったやん?」
「あー、AMIの曲?」
 すみませんね。“推薦”落ちて……。とペコリと首を振る慎太郎を笑いながら、
「これで、シンタロが受かろうが落ちようが、今度は歌う事になるやん?」
 航が言う。
「今、何つった? “受かろうが落ちようが”って聞こえましたけど!?」
「あれ?」
 そうやった? とペロリと舌を出す。
「ピクルス、口ん中に突っ込んでやろうか!?」
 と、手にしたハンバーガーの中からピクルスをつまみ出す慎太郎。途端に航がビクッと反応する。
「なんなら、二枚いっぺんに!」
 航の顔がウエッと歪み、慎太郎が笑い出す。
「マジ、嫌いなんだ!?」
 その問い掛けに頷く航。
作品名:Wish  ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒