Wish ~ Afterwards ~
今度は“キー”を落とす。首を傾げる木綿花の前、航が慎太郎の足を蹴る。「しかたねーな……」と首を掻き、軽く息を吸い込むと、
♪ 隣にいた筈の……
慎太郎が歌いだした。そう、“キー”を慎太郎用に変えたのだ。驚く木綿花の前で、慎太郎が歌う。少しペースを落とした事で慎太郎の声と相俟って、とても切なく聴こえる。更にサビで航の声が加算され、あたかも自分が告白されているかの様な錯覚に陥りそうになる。
「……ホーゥ……」
聴き終わった木綿花が、溜息をついた。
「俺等からのクリスマスプレゼント……」
気に入ってくれた? と航が微笑み、木綿花が頷く。
「良かったーっ!!」
「良かねーよ……」
木綿花とは逆に慎太郎は不機嫌である。机に手を伸ばし、手に掴んだ下敷きでパタパタと扇ぎだした。その様子に航がクスリと笑う。
「初めて歌ったにしては、上出来やったやん?」
なぁ? と木綿花を見る。
「初めて歌ったの、この歌!?」
驚く木綿花に二人して頷く。
「ここ来て、いきなりだぜ」
と航を睨むが、
「何とかなったやん」
当人は涼しい顔だ。
「だって、声とかピッタリ合ってたじゃない」
「そーかな?」
二人揃って首を傾げる。どうやら、不満があるようだ。
「じゃ、もう少し歌い込んだら、また聴かせてよ。……今度は、“合格祝い”かな?」
「え?」
男二人、顔を見合わせる。“他に用意が……”とは、口が裂けても言えない。
「あ、でも、すぐ後に二人が入試だっけ……」
私立校の二週間後が、公立推薦の入試である。
「二人の合格が決まってからでいいよ」
木綿花が微笑む。
「二ヶ月後?」
「推薦で受かればな……」
やれやれと溜息をつく慎太郎の横で、
「CD、もう一回聴きたいな……」
木綿花が余韻に浸りつつ、航に声をかける。
“AMI”の曲と共に、クリスマスの夜は更けていくのだった。
“祭り”の後は日が経つのが嘘の様に早かった。ちゃんとあった筈の“冬休み”は瞬く間に“新学期”になってしまった。新学期が始まって、ものの一週間で私立校の入試が始まる。私立校の推薦枠は、まず、落ちる事はない。案の定、木綿花は楽勝で合格を手に入れた。
「二週間後は二人だね」
いつもの笑顔ですら、余裕の笑みに見えてしまう。公立校は二週間後に試験、その三日後に発表だ。
「結局、ギリギリなんだよな……」
肩を落とす慎太郎。成績は上がっているのだが、なにしろ、今年の推薦枠の倍率が十倍である。先生に言わせると、受かっても落ちても頷ける状態らしい。
「大丈夫やって!」
航に肩を叩かれ、図書館への道を歩く。
泣いても笑っても、“二週間後”は変わらない。
作品名:Wish ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒