Wish ~ Afterwards ~
そう、木綿花の母と慎太郎の母は正真正銘“姉妹”なのだ。木綿花の母は、慎太郎の母の五歳上の姉であった。
「それに、堀越さんが巻き込まれたって事だな」
気の毒に……。と首を振る木綿花父に、
「いや。あそこのお祖母さんも好きそうだから……」
慎太郎が言う。
「巻き込まれたのは“お祖父さん”と“伯父さん”と“俺”?」
木綿花父が「その通りだ」と笑う。
「あら、航くんは?」
「あいつも好きそうじゃん!」
そうね。と木綿花が頷き、航の性格を伯父に説明しつつ、一行は堀越宅へとむかうのだった。
ぞろぞろと辿り着いた堀越宅では、お祖母さんがにこやかに玄関まで出迎えていてくれた。
「こんなに賑やかな年末なんて、何年ぶりかしらねぇ」
広い居間も、三家族・八人も集まるといっぱいいっぱいだ。慎太郎達が到着して間もなく、ピザやら寿司やらが続々と届いた。
「あら?」
頼んでいないのに……。と首を傾げるお祖母さんに、慎太郎母と木綿花母が微笑む。
「手ぶらじゃ申し訳なくて……」
「余ったら、みんなで分ければいい事ですしね」
ピザに寿司にお祖母さんの手料理……。大きなテーブルが、あっという間に隙間なく埋まっていく。
「俺の好きなんばっかりや♪」
航はお子様モード全開だ。
「伊倉さん、こっちの方は?」
航の祖父が木綿花父に、人差し指と親指でおちょこをクイッと上げる仕草を見せる。
「好きです、けど……」
対応に戸惑っている伯父を見かねて、
「底なしですよ、伯父さん」
慎太郎が援護すると、その言葉に祖父が嬉しそうに席を立った。伯父が困った様に慎太郎を見る。
「俺達じゃ“相手”は務まらないから、伯父さんに任せます」
「歩けなくなったら、慎太郎が連れて帰ってくれるって!」
伯父の後ろから、木綿花が「責任持ちなさいよ」と睨んでくる。
「いやいや。そうなったら、泊まっていけばいいさ」
いつの間にやら戻って来たお祖父さんが、木綿花父を手招き。ちゃっかり、自分の隣に座らせる。ふと見ると、母達とお祖母さんも何やら盛り上がっている様子だ。とりあえず、慎太郎も目の前の皿にピザを一切れキープする。
「なーんか、行き場がないわね」
伯父がいなくなった場所、慎太郎の隣にチョコンと木綿花が座る。皿の上にはちゃっかり、寿司が乗っている。
「小食じゃん?」
控え目のキープ量に慎太郎が突っ込む。が、
「最後に出てくる“ケーキ”の為!」
ご尤もな答えに、
「はいはい」
と呆れる。と、今度は、
「ずっこい!!」
木綿花とは反対側の隣に航がペタン! と座った。皿の上には、盛り沢山の食料。
「何? “ずっこい”?」
首を傾げる木綿花に“ずるい”って事だよ、と説明しつつ
「何、拗ねてんだ!?」
膨れっ面の航に声を掛ける。
「“そんなんじゃねーよ”って、ゆーてたくせに……」
めっちゃ仲いいやん! と、目の前の皿のピザの具をつまむ。
「何が“そんなんじゃない”の?」
再び首を傾げながら、木綿花もひとつまみ。
「二人して寄って来んなよ!」
「……そやかて……」
更にひとつまみしつつ、なおも拗ねる。
「そこの……」
と、話し込んでいる母達を指差す慎太郎。
「そこのおばさま方の話をよーっく聞いてみろ」
………………
「……って映画があるの」
「やだ! そういうストーリー、大好き! 観たの?」
「ううん、まだ。一人だとなかなか出掛ける所まで動けなくて……」
「堀越さん。映画ってお好きですか?」
「そうねぇ。もう、随分観てないかしら……」
「お姉ちゃん、明日、暇?」
「予定はないけど」
「堀越さんは? 明日、出掛けられます?」
「あら、私も誘って下さるの?」
………………
「“お姉ちゃん”って……。おばさん達、姉妹!?」
はい、そうです。と慎太郎が頷く。
「“従兄弟”!?」
慎太郎と木綿花を指差し、航が驚く。
「戸籍上、歴とした“従兄弟”。納得したか?」
「うん……。……ごめん……」
そして、またもや、ひとつまみ。
「“従兄弟”だと、“ごめん”なの?」
変なの! と、木綿花が皿に手を伸ばしつつ笑った。
「そーゆー訳ちゃうけど……」
口ごもるくせに、手は伸びる。
伸びる……伸び……。
「ちょっと、待て!」
右手で木綿花の腕を左手で航の腕を掴んで、慎太郎が声を上げた。
「何よ?」
「何なん?」
睨んでくる二人を睨み返し、慎太郎が顎で皿を指す。
「これは、“ピザ”って言わないっ!!」
皿の上には、綺麗に具のなくなった“元ピザ”……。
「ソースは残ってるやん」
気持ぉち。と航。
「耳にチーズも入ってるし」
大丈夫、食べれるわよ! と木綿花。
「お前等なぁ!!」
怒る慎太郎。それを見かねて、
「……しゃーないな……」
航が寿司に乗っていたイカを乗せ、
「わがままなんだから……」
木綿花が、煮物のタコを乗せた。
「何、これ?」
「見て分かんない?」
「“シーフード”やん!」
笑う二人に挟まれて、慎太郎の眉がピクピクと動く。
「あ! ゆ、木綿花ちゃん、CD聴かへん?」
「そ、そうね。聴きたいな!」
立とうとする航の首に左腕を回し、木綿花の肩を右手で押さえつける慎太郎。
「逃がすか!」
食え! と皿を差し出されて、渋々、イカとタコをそれぞれ片付ける二人。
「……ったく!」
新しいピザを取り、今度は何かされる前に口に入れる。
「でな。ホンマにCD聴かへん?」
寿司をひとつ頬張り、航が言った。
「新しいの買うてん」
「誰の?」
慎太郎も寿司をひとつ、パクリと口に入れる。
「“AMI”のと、もう一枚はインディーズの……」
“AMI”と言うのは、秋あたりから売れてきたシンガーだ。
「“AMI”!? 聴く! 聴く!!」
名前を聞いて木綿花が身を乗り出す。
「インディーズのって、また掘り出してきた?」
コーラを飲みながら慎太郎が聞くと、航の瞳がキラッと光った。
「もーな、凄いねん! ハンパちゃうねん! エレキやねんけどな……」
語り出すと航は止まらない。
「分かった、分かった! 聞いてやるから、お前の部屋行こ!」
各々が食料とペットに入ったジュースを確保し、
「部屋、行くね」
聞いているやら分からない保護者達に告げると、三人そろって居間を後にした。
部屋に少しテンポのあるバラードが響き渡る。“AMI”の新曲だ。男の子の片想いの詞を十七歳の“AMI”が歌っている。
♪ ……届かない想い
さし伸ばした手の向こう
君の笑顔が……
その透き通る凛とした声に聴き入っている木綿花の横で、
「……やねん。でな……」
「……いや、出来んくはないけど……」
航が慎太郎とコソコソお喋り。
「うるさいよ、航くん! 慎太郎!」
木綿花に一喝され、二人が首を竦める。
「で、何をコソコソと話してるのよ!?」
CDが終わり、木綿花がちょっぴり怒り口調で言う。
「……あのな……」
航が、自分の後ろに置いてあるギターに手を伸ばし、爪弾き始めた。
「それ、今の“AMI”の……」
聴いたばかりの曲だけに、すぐにそれと分かる。
「これをもう少しスローにして……」
航がペースを落とす。
「更に……」
作品名:Wish ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒