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Wish  ~ Afterwards ~

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 慎太郎の声に、航がその下から覗き込む。
「あれ?」
 慎太郎の下で、航も首を傾げた。
(……あれ?)
(……木綿花ちゃんだけ?)
 ドアを開け、二人で中へ入る。
「遅い!!」
 入ってきた二人を見て、木綿花が笑った。
「木綿花ちゃん……ひとり……?」
「うん。先生は、まだみたいよ」
 二人で顔を見合わせる。
(……思い過ごし……?)
「なぁに、二人して?」
「いや、なんも!」
「ギター、取ってくる」
 ホッとしつつ、揃って準備室へと向かう。
 準備室の扉を開けると、一番手前に二人のギターが置いてあった。ヒョイと取り、ピアノの前に並べてある椅子に腰掛け……。
“ガタガタ”
 航が椅子を少し引いた。
「何してんの?」
 慎太郎の問い掛けに、
「横に並ぶと、シンタロ、見えへんから……」
 航がずらした椅子に座って笑う。
「え?」
「こうすると、見えるやん?」
「何、それ?」
「“自信過剰”に肖(あやか)ろうと思て♪」
 ……『俺がいるから、大丈夫じゃね?』
 思い出して、航がクスクス。
「けっ!」
 息を吐く慎太郎の頬が少し赤くなる。
「チューニングは?」
 航がケースからギターを出しながら、慎太郎を見た。
「大丈夫だと思う……」
 出したギターを軽く爪弾く。慎太郎のギターに合わせて、航も爪弾く。慎太郎の“音”に航の“音”が違和感なく重なる。
「ん、大丈夫!」
 ニッコリ笑って、航が頷いた。
「後は先生だけやな」
「だな」
 そんな二人を見て、
「わざわざ、ギター、持ってきたの!?」
 木綿花が驚く。
「ここでやるの、きっと最後やから」
「最後くらいは“自分の音”でって」
「航くんが言ったんだ?」
 そういう事! と頷く慎太郎に木綿花が微笑む。
「航くんには従順よねー」
「一理あるなと思っただけだよ」
 うるせーな、と慎太郎が木綿花を睨んだ。
「……にしても、先生、遅いな……」
 そんな視線をスルーして木綿花が入口を見つめて呟く。
「マイペースやから、あの先生」
 そうなの? と驚く二人に、以外とな。と航が返したところで、
「ごめーん! 先生が遅刻だよねー!!」
 音楽教諭が入室してきた。
 音が漏れないように戸締りをチェックし、木綿花の隣に座る。
「他の先生方を振り切ってくるのに、苦戦しちゃって……」
 何故なら、先生達にも内緒のライブだから。
「あら? 飯島くんもギター弾くの?」
 “お隣さん”の木綿花は何度か目にしている慎太郎のギター。先生は“初”である。
「堀越の強引な説得で……」
 ヘヘヘッと笑う慎太郎に、
「“熱心な勧め”!」
 航が言い直し、
「ほな……」
 ギターを構えた航が慎太郎を見る。
「1(ワン)・2(ツー)……」
 航のカウントと共に、観客二人・演奏曲二曲のミニライブが始まった。

  ♪ 隣にいた筈の ただの同級生

 慎太郎の声が、低く優しく響く。二週間の歌い込みで、切ないまでの声の起伏も上々だ。普段、話している時は、低くて聞き取り辛い時もある程なのに、“歌”となると妙に張りのある声に変わる慎太郎の声。
 そして、

  ♪ たった一言 なのに 告げた瞬間
    二人の距離が 離れる気がして
    そっと胸に しまい込む

 サビに入り、航の声が寄り添うように重なる。聞き慣れている筈の二人の声が、まるで別人の声のようだ。

  ♪ 届かない想い
    さし伸ばした 手の向こう
    君の笑顔が 眩しくて

 最後のフレーズ

  ♪ 言えない一言 胸の奥に

 歌っている慎太郎に、航が視線を合わせる。

  ♪ ……ずっと……

 二人の声が重なったまま、静かに曲が終わった。
 観客二人の小さな拍手が響く。ホッとして右隣りやや後方を見る慎太郎。そこには、ギターを見つめたまま固まる航の姿があった。ゴクリと唾を飲み込み……やっぱり、また固まる。
(……アカン……、心臓、バクバクしてきた……)
 そのまま、ギュッと目を閉じる航。と、
“ぽふ”
 頭の上に、いつもの感触。慎太郎の手だ。途端にバクバクが治まりだす。
「大丈夫か?」
「うん」
(大丈夫。シンタロが一緒やから……)
 確かめ合うように互いに頷き、
「1(ワン)・2(ツー)……」
 二曲目“Graduation”が始まる。

  ♪ 振り返れば いつも……

 イントロを弾いていた航の声が響き、観客二人が息を飲む。慎太郎の声とは対照的に、いつもうるさい位に響く航の声とは違い、なんと透明感のある事か……。オリジナル本人の声に決して負けていない。

  ♪ 君と過ごした日々は
    かけがえのない宝物

 フレーズの端々に時々重なっていた慎太郎の声が、

  ♪ 季節がいくつ 過ぎ去っても
    瞳を閉じれば すぐそこに

 サビに入り、高音で響き渡る航の声を包み込むように重なる。下手をすると耳につく高い音を慎太郎の低音が相殺しているかのようだ。

  ♪ 足早に過ぎゆく 冬 見送って
    ボクらは 少し 大人になる

 二人の声が静かに消え、続いてギターの音が重なりながら……消えた。
 帰ってこない反応に、閉じていた瞳をそっと開ける航。
「……木綿花、ちゃん……?」
 微笑む音楽教諭の横で、木綿花が大きな瞳から涙を流していた。
「ほら!」
 慎太郎が、今朝ポケットに突っ込んできたハンカチを差し出す。
「ごめんね」
 ハンカチを受け取った木綿花が、
「さっき散々泣いたから、もう涙は出ないと思ったんだけどな……」
 鼻をスンとすすって航に笑いかけ、パチパチと手を叩く。その笑顔に安心したように顔を見合わせ、二人が笑った。
 と、木綿花と教諭がなにやら目配せ。首を傾げる二人を横目に、教諭が席を立ち、締め切っていた窓、グランド側のそれを開けた。
 途端に響く、歓声と拍手。
 二人が驚いて窓に寄る。
「……嘘……」「マジかよ……」
 見下ろしたグランドには、同級生の人だかり。
「木綿花ちゃん……何したん?」
 木綿花の仕業だと確信した航が恐る恐る振り返る。
「んーとね……」
 睨みつける二人に、肩を竦めながら木綿花が種明かし。
「放送部に事情を説明して、音楽室(ここ)にマイクを引いてもらったの♪」
「“事情”!?」
「“もらったの♪”じゃねーよ!」
「だって、みんな“聴きたい”って言うんだもん」
「“みんな”!?」
 真っ赤になった航に、木綿花がグランドを指差す。
「信じられへん……!」
 思わず、窓の下にしゃがみこむ航。
「……で……」
 クルリと窓に背を向けて慎太郎が木綿花を睨み付ける。
「いつから聴いてんだ……?」
「“ほな……”からかな」
「最初からやん!! ……何がなんでも、急過ぎや……」
 窓の下で頭を抱え込む航。
「航、大丈夫か?」
 慎太郎が、屈み込んだままの航を心配そうに見下ろす。そんな慎太郎を見上げて、航が頷いた。
「今更、やし……」
 大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すと、
「……航くん……」
 申し訳無さそうに覗き込む木綿花に、
「怒ってへんよ。びっくりしただけ……。いい予行練習やと思てるし……」
 微笑む航。そんな航の隣で、
「“予行練習”?」
 慎太郎が首を傾げる。
作品名:Wish  ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒