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Wish  ~ Afterwards ~

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「試しに一回やってみようぜ」
 拗ねてんじゃねーよ! と航の頭をポフポフ叩く慎太郎。
「“ケイスケ”のパート、教えてくれよ。なっ?」
 航が上目遣いに慎太郎を見る。
(……ほら、すぐにそーやって笑う。シンタロ、ずっこい……)
「航?」
 首を傾げつつ覗き込んでくる慎太郎に、
(……でも……)
 航が渋々頷いた。
「分かった……」
(……でも……安心すんのは、なんでやろ……?)
 まだ少し膨れつつ、航がサビの部分の“ケイスケ”のパートを爪弾く。……やがて、黙って聴いていた慎太郎が口ずさみ出す。
「っし! 覚えた。ほら、歌うぞ!」
 妙に張切る慎太郎。
「……サビからでええ?」
「おうっ!」
 そして“せーの”で歌いだす。
 航の通る声に慎太郎の低い声が重なり、いつもとは一味違うハーモニーが教室に響き渡る。
(あれ? ……俺の声、うるさくない……?……)
 不安そうに横目で見てくる航に、慎太郎が微笑み、歌が終わった。
「航、感想は?」
 終わったまま黙り込んでいる航に慎太郎が微笑みかける。
「うるさかったか?」
 黙って首を振る。
(……シンタロの声が、オブラートみたいやった……)
「だから言ったろ。お前が歌えよ!」
 笑顔の慎太郎に、
「……うん……」
 航が頷いた。
「でも、シンタロ……」
「ん?」
「……なんでも……ない……」
 首を振り、俯く。
「まーたお前は、そうやって飲み込む!」
 言いたい事あるなら、ちゃんと言えよ。と航の頭をクシャクシャしながら微笑む慎太郎に、
「……タロ……って……た……」
 小さな声で航が言う。まるで小さな子供が“いけない事”を親に確認するかのように……。
「え?」
「“うるさい声”じゃなかったのかよ!?」
「……そやかて……」
 ギターを抱えたまま、拗ねたように睨み上げて来る。
「シンタロ、さっき、“やだから”って……言うた……」
「あん?」
「ギター……。“やんねー”って……」
 ボソリボソリと慎太郎をチラチラみながら話す。
「あ……」
 思い出し、両手を顔の前で合わせて、
「悪ぃ……」
 ごめんな! とバツが悪そうに慎太郎が笑った。
「“売り言葉に買い言葉”で、つい……」
 謝る慎太郎をジッと見る。が、
「……嫌やったら、無理にやらんでもええよ……」
 そう言ってすぐに視線を下に戻してしまう。
 やれやれ、と思いつつも航にとって“嫌”な事を言ってしまった自分に対して少し自己嫌悪を感じる慎太郎。
「嫌じゃねーよ」
 下に向けられた視線を遮るように覗き込む。
「こうやって練習してんのだって、面白ぇなって思ってんだからさ」
「……ホンマ……?」
「俺の性格、知ってるっしょ? 本当にやだったら、来ねぇよ」
「……俺の“わがまま”を聞いたんやなくて?」
 ま、そこいら辺は微妙なとこだけどさ……。と、これは胸にしまって、
「ちゃんとコードだって練習して来ただろ?」
 航に笑顔を向ける。
「……うん……」
「拗ねてんだったら、帰るぞ!」
「ややっ!! やるっ!!」
「で、“Graduation”はお前な!」
「えーっ!?!!」
「お前、この期に及んで!」
 笑いながら拳を振り上げる慎太郎に、
「歌うってば!!」
 両手で庇いながら航がエヘヘと笑い返した。
 どうやら、一曲ずつ歌う事になりそうである。


「ねぇねぇ!」
 翌日、音楽室へ向かおうとした二人に木綿花が寄ってきた。
「当日のライブなんだけどぉ……」
 木綿花が語尾を延ばしながら、上目遣いに二人を見る。
「なんか企んでる?」
 航が笑った。
「“企んでる”って、ヒドクない?」
「お前が語尾を延ばす時って、大概そうじゃん」
 堀越くん、正解! と、男子二人で握手を交わす。
「で?」
 振り返る慎太郎に、木綿花が膨れていた頬を戻す。
「あのね、サーヤも呼んじゃダメかな?」
 “サーヤ”というのは、木綿花の一番の友人であり、ふたりのクラスメートでもある。あまりの突然の申し入れに、
「音楽室に!?」
 航が声を上げた。
「ダメ!!」
 同時に慎太郎が睨みつける。
「だめ?」
 慎太郎に拒否され、航に目を向ける木綿花。
「うん。……ダメ」
 が、航も拒否。
「俺が“人前”に出るの苦手だって知ってるだろ? 航だって、人見知り激しいのに……」
 慎太郎の言葉に頷きながら、
「人前で歌うのって、まだ慣れてないから、めっちゃ恥ずかしいし……」
 ごめんな、木綿花ちゃん。と航が両手を合わせる。
「ホンマにごめんな」
「……いいよ! そんなに気にしないで! ダメだろうなって、半分は分かってたから」
 木綿花が笑いながら振り返り、目線の先にいる女子に両手で×を送る。
「杉山にも“ごめん”って伝えといて」
 木綿花の肩越しに見える女子をチラリと見て慎太郎が顔をしかめた。
「ん。……言っとく」
 ごめんね、無理言って……。ニッコリ微笑み、木綿花は友人の所へと戻って行った。
「……諦めたと思う?」
 航が鞄を肩にかけながら呟いた。
「あいつにしちゃ、あっさり引いたもんなー」
「……やんな……」
「でも、どうしようもないんじゃね? 室内だから、いたら一目瞭然だもん」
「そやな」
 出ようとした教室の扉の前、振り向いた先にさっきの女子が目に入った。その子の向かい側で木綿花が手を合わせている。
「考え過ぎかなぁ……?」
 首を傾げる航の向こうから、
「置いてくぞ!」
 慎太郎の声がして、慌てて駆け出す。
「“ケイスケ”のパート、覚えてきた?」
「おうよ!!」
 二人は“音楽室”への階段を上がって行った。


 ――― 二週間は瞬く間に過ぎ、気が付けば卒業式当日になっていた。
「あら、シンちゃん、早起き! ……式は九時からでしょ?」
 時計に目をやり慎太郎母が笑った。
「登校はいつも通りだけど、今日は“荷物”があるから」
 そう言って、テレビをON! そして、画面上の時間を見る。
「あと10分で行くから!」
「えぇー!? 10分?」
 母があたふたと慌てる。
「おにぎりでいい?」
「面倒くせぇから、いいよ!」
 上着に手を通しながら言う慎太郎に、
「ダメよ、食べなきゃ!」
 サッと腕まくりをして、炊飯器を開ける母。
「で、“荷物”って?」
「これ!」
 上着を着終わり、その上から背負ったギターケースを顎でさす。
「ホントにやるんだ?」
 おにぎりを握りながら、母がクスクスと笑った。
「“アガリ症”じゃなかった?」
「ガキの頃ほど酷くねーよ!」
 イヤはイヤだけど……。と、テーブルの上のハンカチをポケットに押し込む。
「だけど……、やるんだ?」
「“約束”だからな」
「偉い、偉い! はい、特大おにぎり!」
「じゃ、いってきまーす!」
 飛び出したドアの内側で送り出す母の声を聞きながら、慎太郎は学校へ向かうのだった。
 ――― 家を出て五分もしない内に、堀越宅の前に差し掛かる。と、同時に駆け寄ってくる影……。航だ。肩にはギターケース。片手にカバン。そして、もう片方の手には……。
「お前もおにぎり!?」
「祖母ちゃんが歩きながらでもええから、食べなさいって。まーな、式の最中にお腹が鳴ったら、恥ずかしいし……」
作品名:Wish  ~ Afterwards ~ 作家名:竹本 緒