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僕は美夜子ちゃんが嫌いです。

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「・・・美夜子ちゃんが別に僕が美夜子ちゃんのこと嫌いでもいいみたいなこと言うから。」
「何?あんた、そんなんで拗ねちゃったわけ?美夜子も可哀想に・・・。」
 百合さんはまるで全然たいしたこと無いみたいに呆れ返った声で僕がぐちゃぐちゃにしちゃったババロアを流し台に持ってた。
「拗ねてなんかないし、しかもなんでみんな僕が悪いみたいに言うの?美夜子ちゃんが僕のこと嫌いだって言ったようなもんじゃん。」
「あんただって口喧嘩してるとき美夜子にさんざん言ったんでしょ?しかも間接的にじゃなくてストレートに。」
 とりあえず、百合さんには何言っても言い返せない正論しか返ってこないから手元に残ったプラスチックのスプーンをがじがじと噛みくわえた。
「おや?そこにいるのは龍太郎か?」
妙な癖のあるしゃべり方とこの高いのか低いのかよくわかんない声は・・・。
「仁さん!!」
 リビングの入口でたった今帰ってきた風の仁さんに僕は目の前に転がってた自分のランドセルを蹴っ飛ばして抱きついた。
「お帰り!仁さんってこんなに早く帰ってくるの?」
「いや、今日はたまたま仕事が速く終わってな。しかし、龍太郎がいるのに美夜子の姿が見えないようだが?」
 そう言って仁さんはきょろきょろとあたりを見まわした。最悪、仁さんってば僕と美夜子ちゃんを二人で一つみたいに考えてるわけ?たいした距離でもないんだからここまでなら一人でもこれるって・・・。
「別に美夜子ちゃんと一緒にいなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「まあそれはそうだが、ここにいることをちゃんと伝えてきたんだろう?」
 まるで答えはひとつに決まってるみたいに確認されて僕は潰れたカエルみたいな顔をする。
「なんで僕が美夜子ちゃんにそんなこと一々言ってこなきゃいけないのさ。」
「なんだ、伝えてきてないのか。なら、美夜子が心配するから今日は速めに帰るんだぞ。」
まるで幼稚園の子どもに言うみたいな言い方で言われてほっぺ一杯に空気を詰めて仁さんを睨んだ。
「嫌だよ。別に美夜子ちゃんだって僕のことなんてどうでもいいだろうし、僕だって美夜子ちゃんなんて嫌いだもん。」
「龍太郎。」
 僕は体がちっちゃくなる気がした。今まで一度だって怒ったのを見たことない仁さんが、すごい低い声で僕を呼んだ。
「龍太郎。お前は他の誰を軽んじてもいいが、美夜子だけは愚弄してはだめだ。」
「なんでさ。美夜子ちゃんだって僕のことどうでもいいって思ってるもん。」
 なんで仁さんがそんなに怒るのか全然解んない。愚弄って言われてもただあるがままの今の状況を言っただけじゃん。
「そんなことは天と地がひっくり返っても起こりえないだろうな。龍太郎、母とは偉大なものだぞ。男には解りえぬほど偉大な存在だ。私の言葉が信じられないというのなら今一度美夜子の言ったことや、やったことを省みてみるといい。自らが間違えていたと心の底から痛感するだろう。」
「決め付けないでよ。」
 仁さんが言ってたことはつまり、何を美夜子ちゃんのやったこと全部を見てみたら、全体的に僕が百パーセント悪いって事じゃない。なんで本当にみんな僕が悪いって決め付けるんだ。
「僕は悪いことしてないもん。なのにみんなしてなんで僕が悪いって決め付けて話するわけ?」
「龍太郎?別に私はお前が悪いと決め付けてしゃべったわけではないぞ?」
「じゃあなんで美夜子ちゃんが悪くないって言い切れるのさ。なんで自分が間違ってたって心の底から思うはずだって言い切ったのさ。」
 口を一文字に噛み締めて、眼が痛くなるほど力をこめて仁さんを睨んだ。そしたらちょっと困った顔をした仁さんが頬を掻いた。
「はい、そこでお終い。」
 百合さんが腕を組んで仁王立ちになって、小百合ちゃんと背中合わせで僕と仁さんの間に入った。
「仁。二階堂さんからの連絡で別件の書類が見付かったそうなので、龍太郎の事は私に任せて一回会社に戻りなさい。」
百合さんにそう言われて仁さんは、一度僕を振り返った。
「龍太郎。私にお前を嫌わせないでくれ。」
仁さんはすごく寂しそうな顔をしてたけど、僕はどうしたらいいのか全然解んなかった。
「じゃあ、龍太郎。あんたにはあたしが昔の話したげるからよおっく聞きな。」