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ある勇者と邪王と魔王の話

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 その出会いは偶然であり、必然であったのだろう。
「ん?」
「お?」
 勇者と邪王は、初めて会った時。
「……賊退治か?」
「あぁ、うん。……ストレス解消も兼ねて」
「……俺もだ」
 仲間を見つけた気持ちで。
 共犯者だとでも言う様に。
 年相応の子供っぽく、しかし少し悪そうな。
 そんな、とてもよく似た笑みで、笑い合った。
 それが、勇者が齢十の頃。


 再会の時。勇者として、邪王として対面し、戦う事になったのが、その二年後。
 二人して引き攣った笑みを浮かべてしまったのは仕方の無い事だろう。


 そして彼等二人、兄弟だという事を知ったのが、それより更に一年後。
 幾度も殺し合いをしながら。
 奇妙な、明確ではなくとも、認めてしまってはいけないと思いながらも、何かしらの情を持ち始め、命のやり取りと共に交わす会話の最中に。
 家族話に移行し、共通項に気付いたのがきっかけ。
 結局その時は痛み分けに終わり、傷も癒えぬ内、ふらりと立ち寄った酒場でかち合い。

「……そういう事か」
「……だろーねー……」

 確信を得て、双方共に溜息吐いて。

「……それでもそっちにいるんだ?」
「……道は分かたれたって事だな」

 その頃にはもう、それぞれに大事なものがあった為に。
 それは、もう。
 口にする事は無かったのだけれど。


 共通項は、母親の名。
 彼女はもう、この世の住人ではなくなってしまっていて、それを確かめる術は無く、確証は得られなかった。
 それでも解ってしまったのは、その身に流れる同じ血の所為か。


 そして、この二年後に。
 彼等は第三者、魔王の腹心から、それを確たるものとする言葉を聞く事になった。



 ………それから。



 蛇足という名の後日談。

 町の食堂で、顔を突き合わせながらの会話。
「………腹心さん、魔王さんとくっついたんだって?」
 定食を口に運びながら勇者。
「あぁ。で、闇の世界に帰るとかほざいてやがる。ここまで事をでかくしといて、許されると思うか?」
 溜息を零しながら邪王。こちらは既に食べ終え、食後のお茶を啜っている。
「えー…でも、そしたらどーすんの?」
「お前、魔王倒した事にしろ」
「バレない?」
「この世界からいなくなるんだから、同じ事だろ。問題は、な…」
「あぁ…魔の力、この世界からなくなっちゃうから…」
「……魔王からの魔力供給で賄ってた器維持ができなくなる」
「……ピンクさんも?」
「何故あいつがピンポイントで出てくる」
 半眼で睨んでくる邪王に、軽く、気の抜けた感じで、揶揄う様に。
「ヤッちゃってるくせにー」
「ギャアァ!!言うなぁ!!」
 邪王のいい反応に楽しそうに笑い、勇者は言葉を続ける。
「もういーじゃん。幸せそうだったよー、ピンクさん」
「おのれ…まぁ、いい。で、だ。俺もこんなんだが、魔の側だ」
「……人間の身体で、魔に侵されきってもいないのに?」
「そこは仕方ねーな。中途半端なんだよ、俺は。殆ど魔の力で生きてきたから、そーいう事になっちまうと、やっぱり俺の身体は衰弱していく」
「………つまり、魔の力がなくなると、近く死ぬ、と」
「だな。まー別に、そこはいいんだが」
「いいんだ!?」
「生物は死ぬからな。それが早いか遅いかの違いだろう」
「ドライだぁー…」
 呆れた様に勇者が呟く。
 シリアスな題材の筈だが、双方声にも態度にも、沈んだ様子は見られない。
 共にそれなりの不幸や地獄は体験済みだし、他人のそれらを目にした事も少なくはないのだ。
 無駄に暗くなっても仕方無い事を知っているし、今更だという思いがある。
 それは哀しい事なのかもしれないが、悠長に浸っている時間は無い。
 実際そこらへんは割り切っている感のある邪王が、本題に入った。
「で、だ。結局の所、闇の世界とやらの行き方を探してみようと思う。手伝え」
「そうきたか!!………って、ピンクさんに連れて行ってもらうとかできないの?」
「どうだろうな…。可能かもしれんが、無理かもしれん。あいつは普段は邪王様邪王様うっせえ癖に、俺が人の身だから、人の中で生きていった方が幸せなんじゃないか、とか思ってる節がある。…あそこまでヤッといて、ふざけんなって感じだが」
「………邪王、実は凄くピンクさん好きだよね。愛してるよね。言ってあげればいいのにー」
「フハハ!!だが断るわこの阿呆が!!こっぱずかしい上にあいつ調子乗んだろが!!めんどくせ!!」
「否定はしないんですねわかります」
「うっせーよ!!惚れてなきゃ犯られてねーよ実際!!てめーこそ修羅場とか大丈夫なのかよハーレム王」
「やめて!!結局ローテーションで犯ろうね協定結ばれた種馬野郎になんて事言うの!!」
「種馬扱いか!!流石勇者!!パネェ!!」
「やめて!!!皆愛してるけど体力と精子には限界が!!」
「一気に下世話な話になったな…今更だが。いや、話戻すがマジでどーよ?闇の世界の情報とか持ってねぇ?俺には何も教えよーとしねーんだ、うちの連中」
 邪王の言葉に眉根を寄せ、思案しながら勇者が口を開く。
「…そう言われてもなぁ…。実際、伝説とか伝承とか、そういう怪しげであやふやで眉唾なの位しか…。もういっそ、魔王様に聞いてみれば?」
「あんな色ボケ腑抜けに訊いても何も返ってこねーよ。腹心の人とラブってんのはいーが、口を開けば惚気の嵐だぜ?勇者の系統とかどーでもよくなってんのは有難いけどな」
「色ボケ上司ってキツイよね」
「上司って感じじゃねーけどな、もう」
 魔王にとって邪王は憎悪の対象だった訳だし、魔の住処から理由も無く離れ、遠くへ行く事は禁じられていたし、実は直接会った事も無いのだから、元々上司という感じも無かったのだが。
「あーしかしめんどくせ。俺も死んだら闇の世界とやらに行けりゃいーのによー。死後の世界だの器の定義だの解明されてない事多すぎるだろこの世界!!どーにかしろよファンタジー!!」
「言っちゃったよメタな事を!!」
「ご都合主義って便利だよな!!」
「同意はするけど口にしちゃダメでしょそれは!!」
「お約束のハッピーエンドとやっすい奇跡も大歓迎だぞ俺は」
「当人にしてみれば当然だよね。…ってそれでも言っちゃダメ!!」
 …グダグダになってきた。なんだかとっても身も蓋も無い。
 暫くそんな感じでうだうだ言って、愚痴やら文句やらを一通り吐き出して。
 深い溜息を吐いて、双方食後の茶を啜って、人心地ついて。
「もうこの町に住んじゃえば?魔王様も面割れてないんだし、他にバレなきゃ問題無いでしょ。町の人達は邪王達も受け入れてんだし、いっそ人間と魔物の中立地帯にしてさー」
「そうは言うがな…。魔王倒さんと立場無いだろ、お前の方は」
「良いんじゃないかな。魔とも手を取り合って世界を平和に導くとか、いかにもな勇者様で。表立って反対意見出せる人もそんな居ないだろうし。どうせ今も国同士人間同士で戦争してる位だし、そんな連中が何言ってきた所で、国民の賛同得られる訳無いからね。正直、邪王達に支配されてるとか言ってるこの町の方が、旅してきた道中に見てきたトコよりよっぽど平和だよ」