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ある勇者と邪王と魔王の話

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 ふん、と不機嫌そうに勇者が言い捨てる。
「魔王倒した所で、世界は良くならないだろうしね」
「ぶっちゃけたなお前……」
「更に言えば、このまま自分達もこの町で暮らしたいとこなんだけどねー」
「お前が住んでて送り出された国はどうした」
「正直帰りたくはないね。報告義務はあるだろうけど、あそこに帰る家は無いし、家族も居ない。勇者として自分を鍛えたのは自分自身だし、魔王倒して来いって外に放り出されただけだもん。…うちの娘達はそこから選ばれた訳だから、まあそこは感謝するけど」
「…実は自分とこの国嫌いか」
「実際バックアップ無かったよ?特に、その国から派遣されたってんで、敵対関係にあった国の連中に暗殺されそーにもなったしね」
「………馬鹿か」
「魔王だの魔物だのって、正直個人レベルで恨みは買ってるけど、国レベルとなるとなかなか無いよねー」
「しかも国の連中に利用されるのが殆どだったな。てめーらの仕業だってのに、魔の者の所為にするなんざザラだったぜ?」
「救えないね」
「この町も、元々賊の支配受けてたからな。魔王軍から仕掛けなくても勝手に戦争しくさって、どーしよーもなくなって賊に落ちぶれる連中がわんさかと。賊量産してんのは人間だっていうな。…一応共通の敵出たっつーのに一致団結出来ないとかアホじゃね?あ、これこの町に果物買いに来た時に愚痴った内容だ」
「同意得たでしょ、それ」
「まーな」
「下手な国の騎士団とかより、よっぽど頼りになるしねえ、ここ」
「魔王軍の支配下に置かれた時点で、魔王軍のモノだからな。それを守るのは当然だし、支配した連中の安全を保障をするのも当然だ。他の勢力が攻めてくりゃあ守るさ。刃向かえば殺すけどな。けど、過度な恐怖政治なんざ後々問題が出てくるし、死体の処理なんざ面倒だ。基本放置だったな。まぁ、月一程度に貢物は寄越せっつってたけど。正直、賊の支配受けてた頃より楽になったって喜んでたぞ」
「あー、聞いた聞いた。大体、邪王のとこの人達って、魔に属する感じしないもんねー。人間のイメージで悪いものになってるけど、人間の方がよっぽどアレな感じ。初めてここ来た時、邪王に言われてるからって魔の住処の場所は教えてもらったけど、歓迎されてない感が凄まじかったし」
「もう支配して長いからなー、ここも。うちの面子も変わってないから、馴染んじまって、うちのデカブツなんてガキ共のオモチャ扱いだぜ?」
「邪王のとこは、実は強いのに変に好戦的だったり残虐なタイプいないからいいよねー。広い目で見ればいるんだろうけど、この町にいると錯覚しちゃうよね」
「まーな。近くの魔の森には理性持ってない獣に近い魔物も生息してるんで、立ち入りは禁止されてるしそれを守ってもいるから、そこらは解ってると思うが」
「そーかー。でも、やっぱり邪王のとこの人達には好意的だよねー」
「それなりにな」
「ピンクさんとの結婚式とか派手にやってくれそうだよね!!」
「また何故そっちへ飛んだ!!」
「やろうぜ結婚式!!」
「爽やかに言うな!!」
「ついでに魔王様のも!!」
「ついでかよ!!お前がやれよ!!ハーレム鬼畜王の一歩を踏み出しやがれ!!」
「世界の男子諸君の敵になっちゃうじゃないか!!」
「なっちまえ!!」
 そんなこんなと。
 色々とどーしよーもない事でぎゃんぎゃん言い合う勇者と邪王の様子に。
「若いのー」
「元気だねー」
「結婚式かぁ…。派手にやりたいねえ!!」
「いいじゃないか、やろうぜ!!」
 町の人の反応は、概ね好意的だった。



 魔の住処の近くにある町。
 そこはかつて、盗賊達に支配された町だった。
 しかし、その町に邪王達が訪れた際、盗賊達は血祭りに上げられ。
 ………そして、今。


 大歓声の中。
 出店が立ち並び、活気に満ちた町の大通りのど真ん中。
「なんだこれ!!なんだこれー!!」
「…超カオス」
「………い、いいんですか私等まで………」
 邪王、勇者、魔王の腹心。
「ああっ、これで身も心も邪王様のものにっ…!!まずは初夜!!誠心誠意頑張ります邪王様っ!!」
「周囲に認められるのは、気分が良いものですわね」
「やっぱり既成事実ってのは必要だねえ」
「主と共に居られるのならばそれで良かったのだが…まあ、形式も大事だな」
「………何故人間達に祝福される流れにっ!?」
 ピンクに勇者の仲間に魔王(見た目幼女)達が。
「おお、犯罪犯罪!!」
「魔王様が幼女だったとは…お天道様でもっ!!」
「しかしまぁ、めでたい!!」
「細けぇこたぁいいんだよ!!」
「勇者様も憎いねぇ!!爆発しろ!!」
「邪王様も、嫁さん泣かすんじゃありませんよー!!」
 町の住人見守る中、祝福されながら、一部には呪われながら。
 旅の途中に立ち寄った連中、合同結婚式の噂を聞きつけて集まった方々を置いてけぼりにしつつ。
「汝らは病める時も健やかなる時も、死が貴様等を別とうとも!!」
「共に生きる事を誓うかっ!!」
 なんだかハイテンションな、牧師に扮した魔物達の言葉へと。
「色々と突っ込み所が多すぎる!!誓うけどな!!」
「逃げられると思う?まぁ、誓うけど」
「………何故そんな人の真似事などを…誓いますが」
 まずは男共が答え。
「誓いますともっ!!邪王様は私の全てですよ!!」
「誓いますわ。私は勇者様の所有物ですもの」
「誓うよ。アタシは離れたりしない」
「愚問だな。誓おう、主よ…」
「………ち、誓う、けどっ!!あやつが我のモノなのは未来永劫不変なのだからっ、こんなわざわざっ………」
  女達も応える。
 …若干一名、ぶつくさ言っている様だが、照れ隠しなので気にしない。
「よっしゃあ!!ならばっ!!」
「誓いのキスだっ!!ぶっちゅーっと一発かましたれいっ!!」
 牧師役の魔物達がテンションマックスで先を促した。
 大騒ぎをしながら、祝福と呪いと野次を浴びながら、それを終えていく他の面子を余所に。
「………え、ええーっと!?」
「………ま、魔王様、ここは私等も、その…」
「え、いや、だって、あうぅっ!?」
 魔王と腹心がわたわたあうあうしていた。
 あらやだわぁ、何この子達初心だわぁ、初々しいわぁ、なんてオバチャンの声が聞こえてくる様な挙動だった。


 ともあれ、この町は今この時より。
 魔王軍所有にて、全てにおいての中立地帯として生まれ変わった。
 この先に何があるかは解らないが。
 今のこの時、この町が幸せに満ち溢れているのは、間違い無い。