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ソラノコトノハ~Hello World~

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「今は、秘密にして置くわ。それじゃ」

 そう言うと、志津香は自分の席へと向かって行った。

「なんだ、あいつ……」

『キョロスケ』

「うおっ!」

 突然の勇哉の驚きの声に対して、また何事かとクラスメートの視線が集まる。
 その視線を掻き消すように、勇哉は何でもないですよ、両手を顔の前で振るポーズを取った。

(な、なんだ?)

『あ、いえ。そろそろ学校に着いているかと思ったので……』

(ああ、着いたけど……。とりあえず小此木に会うのは、昼休みだな)

『えっ……。それまで待たないといけないんですか?』

(会う機会がないんだよ。それまで待ってくれ)

『分かりました……四時間後ぐらいですか?』

 名残惜しそうなルーラの声に、勇哉は時計をチラ見で現時刻を確認する。

(それぐらいだな)

『それじゃ、四時間後に声をかけますね』

 昼休みになったら、あの小此木に話しかけないといけないのか……と、今のうちに気苦労を負いつつ、いつもだったら待ち遠しい昼休みの時間は、今回ばかりは出来る限り訪れないで欲しいと願った。



 そして、昼休み。
 最近、時の流れが短く感じるようになってしまっている事に、自分は大人になってしまっているんだなと、勇哉はここぞとばかりに感慨してしまった。

 とりあえず、中庭に小此木琴葉がいるかを窓から様子を伺うと、そこには小此木の姿はなかった。

「おかしいな、いつもならこの時間には来るのに……」
 と、思っていると、昨日も勇哉に話かけてきた名も無き生徒が話しかけてきた。

「電波ちゃん、いないな。どうしてだと思う?」

「オレに訊かれても知るかよ」

「だよな。あ〜あ、電波ちゃんの、こう両手をガーっと挙げる姿を見るのを日課にしていたのにな」

「そんなのを日課にするなよ」

『キョロスケ』

 また不意に声を掛けられたが、今度は驚きの声を上げなかった。

(なんだ?)

『あの。先ほどから、私に呼びかけられているので……』

(オレは呼びかけてないぞ)

『キョロスケじゃなくて。多分、オコノギという方からだと思います』

(なんで?)

『なんでと言われても。今までも私の方に声が聞こえてきたからです。それでですね。オコノギさんが、“私の声が聞こえますか。聞こえるのなら、ミナミグチに来て下さい”って、言ってますよ』

(ミナミグチ……南口の事か?)

 勇哉が唯一思い当たった場所……南口は、高校の第一グランドの端にある裏口。校舎から一番遠くに離れているから、行く機会が滅多にない場所である。

 面倒臭いと感じつつも勇哉は仕方ないと諦めて、ルーラに言われた通りに、南口へ向かうべく教室を出ることにした。

 出入り口付近で幼馴染の志津香が声を掛けてきた。

「あ、どっかに行くの?」

「ちょっと、ヤボ用でな」

「だったらコーヒー牛乳を買ってきてくれない。買い忘れちゃって」

 そう言いながら、志津香は財布から百円玉を取り出し、勇哉に差し出す。この百円をく
 れるのなら遠慮無く受け取っているところだが、パシリにさせられ、あまつさえ見返りが無いようなので、当然の如く無視をする事に決めた。それに、

「いや、そっち方面に行かないし」

「え〜」としかめっ面をする志津香。その時、委員長が声をかけてきた。

「それじゃ、僕がついでに買ってこようか。これから購買に行こうと思ってから」

 志津香は委員長の方に振り返り、先ほどのしかめっ面は何処へやら、笑顔に変わっていた。

「流石はヒロ君。どこかのバカとは違うわ」

「なんでパシリを拒否しただけで、バカ呼ばりされないといけないんだよ……」

 志津香の悪態にすかさず突っ込みを入れるが、志津香は手馴れたようにハイハイと軽くあしらう。

 そんなコントを横目で見て、ハハっと軽く笑っている委員長に、志津香は百円玉をポイッと投げ渡すと、勇哉は委員長と共に教室を出た。

 肩を並べて歩いているので無言なのは気まずいと思い、勇哉から話しかけた。

「そういや、妙に親しいみたいだけど。もう、アイツと仲良しになったのか?」

「アイツ? ああ、シヅちゃんとね」

 シヅ……。幼馴染のフルネームは、只野志津香。誰に紹介するべもなく、勇哉は確認の
 ために志津香の名前を思い返す。それをよそに委員長は話を続ける。

「シヅちゃんとは、小学生からの知り合いなんだよ」

「小学生? あれ? オレの小学生の記憶に委員長の姿は見当たらないんだが?」

「ああ。もしかして村上くんは、シヅちゃんの転校先の小学校?」

「転校……ああ!」

 勇哉は何かを思い出したようで、思わずポンっと手を打った。

「そういや、オレが小学四年の時に転校して来たんだっけ、アイツ」

 小学四年の二学期が始まった時に、只野志津香は転校してきた。正確に言えば、夏休みの時に引っ越してきたのだ。

 志津香の家が、勇哉と同じ公営団地ビルだったので、それが縁でよく遊んでいた。というか、勇哉から遊びに誘っていた。

 誘った理由は、夏休みの最中に引っ越してきたものだから、その時の志津香には友達がいなかったからでもある。団地の近くにある小さな公園のベンチに独りぼっちで座って志津香を見かけた勇哉が、声を掛けたのが始まりだった。

 それから勇哉と志津香は、世間一般的に幼馴染と呼んでも言い関係になった。「シヅちゃんが転校する前は、僕達と一緒に遊んでいたんだよ」

 僕達?

 委員長の他にも、志津香と一緒に遊んでいた誰かがいるのかと思ったが、まぁ普通に考えれば他にも友達がいたのだろう。

「でもまぁ。転校しても、ちょくちょく会ってたりしてたけどね」

「へ〜」と、相づちを打つ勇哉。

「そういえば、シヅちゃんからちょこちょこ聞いていたよ。転校先でも遊んでくれる人が一応いるって」

 自分が知らない相手が、自分の事を知っている事に、少し心がこそばゆくなる。

「でも、こうやって、一度離れ離れになっても高校で一緒になるなんて奇跡だな〜」

 とある漫画で覚え知った台詞を引用してみた。
 それよりも大きな奇跡……というか、呪いが今自分に降りかかっている訳だけど、と内心付け足した。

「奇跡でも無いよ。そんなに広くない市だから、高校が一緒になる確率は高い訳だし。それに、事前に知っていたからね。シヅちゃんがここを受けるのを……」

 委員長が話している最中に、その呪い元凶が話かけてくる。

『着きましたか、キョロスケさん』

(まだ、着いていないよ)

 ルーラの声に気を取られ、委員長が話していた最後の部分が、よく聞き取れなかった。
 聞き直すのもメンドイし時間も無かったので、相づちを打っておいた。
 そして靴箱に着くと、そこで委員長と別れ、真っ黒な通学靴(ローファー)を履いた勇哉は、南口へ駆け足で向かった。

     ***

 南口周辺は雑草が生茂り、数本の木が植樹されていた。

 そんな木々の間に身を隠すように立っている、小此木琴葉の姿を見つけた。
 あちらも勇哉の姿に気付くと、昨日と同じようにビクッと身をすくわせる。