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ソラノコトノハ~Hello World~

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 お互い姿を確認した後、しばし無言だったが、顔をほんのり赤らめていた小此木の方からしどろみどろに話かけてきた。

「あ、あの。ここに、来てという事は、やっぱり、私の声が聞こえて、いるんですね?」

「ああ、そうだけど……。あ、いや、正確には……」

「本当、なんですね……」
 昨日と同じ様に、小此木の瞳に涙が浮かぶ。

「だ、だから、なんで泣く!」

「だ、だって……。ずっと、ずっと…小学生の時から、呼びかけて、いたから。それが……叶ったから……」

 小学生の時から、あの変な行いをしていたのか……と、勇哉は密かに頭の隅で思った。
「昨日も、本当にドキドキしたんです。けど、もしかしたら、嘘……かも知れないと思って、嫌だったの。それに本当だったら、本当で……恥ずかしかったから……」

 だから昨日、逃げたのか……。小此木の小さな声で語る事々に昨日の逃亡の理由が解ったことに、少し気分が和らいだ。

 逃げる?

 勇哉は琴葉が、また逃げられてしまう前に、本当の事を話した方が良いと判断する。いや今回はあちらが呼び出してきたんだし、逃げられる事は無いと思うが、それでも万が一に備えて、先駆けて事の真相を話す事にした。

「あのさぁ。たしかに声が聞こえたけど、それは多分、君の声じゃないと思う。オレが聞こえたのは、別の誰かのもので……」

 明らかに琴葉の頭の上に「?マーク」が浮かんでそうな顔をする。それもそのはず。なぜなら、勇哉の方も「?マーク」を頭の上に浮かべながら、話しているのだから。

「ああ、なんて言えば……」
 発言したままに、不思議な声の主(ルーラ)に呼びかけるように、言葉を思い浮かべた。
(なんて言えば良いんだ?)

 その呼びかけに、ルーラが答える。

『え、あ。もしかして、オコノギさんに会えているんですか?』

(ああ、そうだよ。それで、どうやってアンタの事を説明しようかと悩んでいる最中だ)

『だから、ありのままの事を話せば良いんですよ。嘘じゃないし』

(嘘のような話だから、困っているんだが……)

 勇哉は小さく息を吐き、

「まぁいいか……」
 と、覚悟を決めた。

「とりあえず、オレの話しを黙って聞いてくれ。その後に、逃げるなり、笑うなりしてくれ」

 琴葉は、うんともすんとも言わない。そんなのは関係なく、勇哉は言葉を続けた。

「昨日、突然。オレの頭の中で声が聞こえてきたんだ。その声は、え〜と、ルーラという名前で……」

 勇哉は、第三者―小此木琴葉―に理解して伝わるように、昨日の出来事、現状の状態を精一杯説明した。

 一気に一通り話し終ったが、琴葉は困惑していた。

 そりゃ、そうだろうと勇哉は納得していた。話した本人も困惑しているのだから。
 琴葉は勇哉の話をまとめ、

「え、えっと……〜。私の声を聞いたのは、アナタではなくて……。その、ルーラさんという人。それで、そのルーラさんの声がアナタに聞こえて……という事、なんですか?」

「概ね、その通り……」

 勇哉の話の内容がある程度伝わってくれているようだが、琴葉の頭の上には未だ「?マーク」が沢山浮かんでそうな顔をしている。

「で、でも。それでも私の声は、そのルーラさんという方に聞こえているんですね」

「そうみたいだな」と肯定すると、琴葉の顔は幾分かは晴れた。

 勇哉は、見えもしない声の主がいるであろう天に指先を差し、言葉を続ける。

「そうじゃないと、その声から小此木琴葉とか、ソラのなんとかというのも知らないし。第一、ここにも来てないしな……」

「そ、その声は。他に何か言ってましたか? そ、その……」

 琴葉は勇哉との距離を詰めて、琴葉の顔と勇哉の顔が、どちらの吐いた息が掛かるまでに近づく。

 勇哉は、思わず後ずさりをしつつ、

「ちょ、ちょと待ってくれ。訊いてみる」

 そう言い、ルーラに問いかけてみた。

(で?)

『はい? なんですか』

(えっと……小此木琴葉とか、ソラのなんとか以外に、聞こえた言葉とかあるか?)

『そうですね……。あ、好きな食べ物とかで良いですかね?』

「好きな食べ物?」

 勇哉の口から言葉が漏れると、小此木はまたビクッと体を震わせ、右へ左へ上へ下へと瞳を泳がせる。

『確か……好きな食べ物は、カツ、サンド……ですかね。そんな事を言ってたような』

「カツサンド? なぁ、カツサンドが好き……」

 事の真偽を確認しようと、琴葉の方を見ると、顔を真っ赤にして、その顔の前で両手をバタバタと振っていた。
 そのバタバタは肯定なのか否定なのかと問われれば、前者ということだろう。
「なんだな」

 琴葉の意外な好物に、そして子供っぽい動作に、心が和んでしまった。

 さて、これから何を話そうかと思った時、チャイムが鳴り響く。

「もう休み時間が終わりか……。ひとまず、ここらで切り上げて。後日に、もう一回話すか?」

 琴葉はいまだ顔を真っ赤にしたまま、静かに頷く。
 思わず、次会う約束を取り付けてしまったが、「別にいいか……」と締めくくった。

(……という訳だから、ひとまずこれで切り上げるぞ)

 一応、ルーラにも伝える。

『え、もうですか。私、話してないですよ。もっと話したいです!』

 頭の中でギャーギャーと騒ぎ訴えるが、勇哉は両手の人差し指で耳栓をする。しかし、

『聞いていますか?』

 効果は無かった。

(次回にしてくれ)

『次回って、何時ですか?』

(あー、そうだな)

「なぁ、次はいつ話す?」

 突然、話しを振られたからか、またビクッと体を震わせる琴葉。いい加減、慣れてくれと言わんばかりに勇哉は顔を顰める。

「えっと、その……すぐに、話したいです……。まだ私、話したいですから……」

 ルーラと同じ事を言う琴葉。ここまで同調しているのに、ルーラの声が琴葉に聴こえないのはナゼだろうと、勇哉は首を傾げた。

「それじゃ、今日の放課後にもう一回話すか? まだ完全に理解していないだろうし」

「あ、はい!」

 今日一番のハッキリとして大きな声だった。

「じゃぁ、放課後に」
 続けて、ルーラに報告。
(という訳で、放課後にまた会って話すことにしたよ)

『放課後ですか……。放課後というのは何時間後ですか?』

(えーと……三時間後かな)

 勇哉はルーラと会話しながら、次の授業が厳しいことで恐れられている川田先生の英語なので、駆け足で教室へ向かった。そんな走り去って行く勇哉に向かって、琴葉は“呟いた”が、その声は勇哉に届かなかった。

『あ、キョロスケ』

 数メートル走った所で、ルーラが声を掛けてきた。

(ん、なんだ?)

『オコノギに“これからも、よろしく”と言ってくださいね』

(そんなのは自分で言えば……って、そうね。直接、聞こえなかったんだな……)

 勇哉は立ち止まり、振り返ると、まだその場に立ち尽くしている琴葉に聞こえるように、大声で叫んだ。

「小此木! “これからも、よろしく!”な」

 遠く離れていた為に、勇哉は琴葉の表情がよく分からなかったが、多分驚いているような表情をしていたのには気付いた。