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ソラノコトノハ~Hello World~

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 勇哉は息を切らしながら七組の教室に辿り着くと、息を落ち着かせること無く、直ぐに教室の中を覗いた。

 教室には数人の生徒が残っていた。

 放課後のお喋りタイムを満喫している生徒達から離れた席に、何をすることもなく、ボーと窓の方を向いている電波ちゃんこと、毎回遠目で眺めていた小此木琴葉が座っているのを見つけた。

(いた!)

 勇哉が、ふと頭の中でそう思うと、すかさずルーラが声をあげる。

『本当ですか!』

 その声に勇哉は返答すること無く、これからどうするかを考えた。

(だけど、どうする? どうするオレ?)

『なにやっているんですか。いるのなら、声をかければ良いじゃないんですか?』

(こっちにも都合というものがあるんだよ)

――学校で一番……可笑しな奴に声を掛ける事は、自分自身も可笑しな奴だと思われてしまう恐れがある。かといって、このまま教室の前をウロチョロしていると、可笑しい奴では無く怪しい奴だと思われてしまう。

 ここは、あのお喋りしている生徒達が帰るのを待つか、電波ちゃんが帰るのを待った方が――

 と考えていると、お喋りグループの生徒達が帰り支度をし始めた。
 そのグループの一人が、電波ちゃんに向かって話しかけた。

「小此木さん。それじゃ、戸締りをよろしくね」

 そう言われた小此木琴葉は、返事することなく、静かに頷いた。
 グループが教室を出ようとすると、勇哉は慌てて身を隠そうとしたが、隠れる場所は無かった。

 しかたなく、窓の外の景色を見るように背を向けて、グループが去っていくまで息を潜めた。

(ハタから見れば、充分怪しい人物だよな……)と、自分で自分にツッコミを入れているると、

『キョロスケ、なに怪しい事をしているんですか?』

 ルーラが訊いてくる。

(いや……別に……)と、答える言葉に詰まっている間に、グループが遠くへ去っていくのを確認した。

(よし、行ったな。さてと……)

 勇哉は電波ちゃんしかいない教室に入ろうとした時、一歩手前で足を止めた。

(声を掛ける? なんと言って? 実はオレ、不思議の声が聞こえるようになったんだ。君は、何か知らない? とか言ったら、間違いなくオレは電波ちゃんよりも可笑しい奴じゃないのか?)

 土壇場になって、今の状況に対して自問自答をしてしまう。
 そして小此木琴葉は、そんな躊躇している勇哉に気付き、勇哉と琴葉の目と目が合ってしまう。

(ヤバイ!)

 何がどうヤバイのか分からないが、勇哉はヤバイと直感した。
 混乱している勇哉に不思議な声が語りかけてくる。

『普通に、この事を言えば良いと思いますよ。嘘じゃないですし』

 嘘ではないが、嘘のような出来事なのだがと内心思ったが、その言葉に背中を押されたのか、勇哉は覚悟を決めて電波ちゃんに声を掛けることにした。
(ええい! なんとかなるだろう!)
「よ、よお!」

 勇哉の気さくな一言で、電波ちゃんは一瞬ビクッと体を震わせた。

「え、あ〜と……小此木、琴葉さんだよな?」

 電波ちゃんこと小此木琴葉は、うんともすんとも、頷きもしない。

(あれ?オレ、本当に怪しい人?)とその場に漂う異様な空気を感じとる勇哉。

『ですから、本当のことを言えばいいんですって』

 ルーラが助言を述べてくれるが、どれだけこの声が小此木琴葉に直接聴こえてくればと、勇哉は気を落としてしまう。

「あ、あのさぁ……君に聞きたい事があって。ほら昼休みに、その中庭でさぁ……」

 琴葉は“中庭”という言葉に反応し、怪訝な表情を浮かべる。すると聞かれたくない話題なのか、琴葉は急いで身支度を整え始める。そして、カバンを手に持ち席を立った。

「え、ちょっ!」

 帰る準備が整った琴葉に対して驚きの声をあげてしまった。

(帰られる!)
『帰られるって! どうしてですか?』
(怪しい人物だと思われたんだろう)
『怪しい事をしていたんですか?』
「してないわ!」

 思わず言葉が口に出てしまい、それがより琴葉の立ち去ろうとする足の速さを加速させる。

『と、とにかく。よ、呼び止めてください!』
(呼び止めろって、どうやって?)

 琴葉は静かで無駄の無い早歩きで、勇哉の横を通り過ぎる。
 徐々に勇哉からの距離は拡がっていく。
 その時、ルーラが“ある言葉”を勇哉に呟いた。

(なんだそれ?)
『いいですから、それを言ってください。早く!』

 勇哉がそれに問い訊かす間も無く、その言葉を発言しろと命令する。
 勇哉は遠ざかっていく琴葉に聞こえるように大声で、

「ソラノコトノハ!」

 ルーラに言われた通りに、その言葉を意味も分からずに叫んだ。

 廊下にいた数人の生徒が勇哉を見ている。
 そして琴葉は足を止めて、恐る恐るこちらを振り返った。
 効果は絶大だ。

(一体、何の言葉だ? さっきの……ソラノ、コトノハだっけ?)
『秘密の言葉です』
(秘密の言葉?)

 ああ、そんな事を言ってたなと思い返していると、電波ちゃんこと琴葉が、ゆっくりとそして警戒するかのように、勇哉の元へと近づいてきた。

 そして、しどろみどろの口調で訊ねてきた。

「な、なぜ、その言葉を……あなたが、し、知っているんですか?」

 その声は、琴葉の見た目通りの、か弱い声だった。

 そんな事より琴葉の問いにどう答えるかと悩んでいた。“不思議な声のルーラさん”に教えて貰ったと正直に言うべきか……いや、言うべきだと、すぐに結論に至った。
 今の選択肢は、それしかなかったからだ。

「なぜって……。それは……不思議な声に教えて貰ったからで……」
「不思議な声?」

 キョトンとする琴葉。

「あ、信じるか信じないかは置いといて聞いてくれ。ある日……と言っても、今日の五時間目の授業の時に、突然聞こえたんだよ。不思議な声が……。その声の話しを聞く限り、あんたと関係があるようなんだよ……」

 言えば言うほど、嘘のような話しをしているなと、勇哉自身が実感してしまう。だが、

「その声は、何て?」

 電波ちゃんの瞳に輝きが溢れ、一歩踏み出し、勇哉に近づいてきた。

「何て……えっと、小此木琴葉……。あんたの名前とか、ハローハローとかの呼びかけとか、さっき言った“ソラノ、コトノハ”だっけ? そんな事……」

「わ、私の声を……聞いて、くれる……人がいた……」

 輝き溢れていた小此木の瞳に、今度は涙が溢れていた。
 そんな突然の涙に勇哉は慌てふためくしかない。

「ちょ、何泣いてるんだよ。なんか、オレが泣かしているみたいじゃないか!」
「嬉しくて……」
「嬉しい?」
「ずっと、ずっと、私が呼びかけていた声を、聞こえる人がいてくれたから……」

 琴葉は右手の人差し指で自分の涙をふき取りながら見せた笑顔に、勇哉は不意にドキッとしてしまった。

『ねぇ、キョロスケさん。どうでしたか? どうしたの?』

 そして、唐突にルーラの声に呼びかけられて、またドキッとしまった。

(ある意味、ちょっと付いていけてないんだが……。あんたの事を話したら、ちょっと泣かれている)
『泣かれている?』