小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ソラノコトノハ~Hello World~

INDEX|4ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 

 グルグルと疑問が勇哉の頭の中を駆け巡った所為で、“不思議”が不思議とバラバラになって、不思議という字がこんな字だったのかと不思議にこんがらかってしまうゲシュタルト崩壊を起こし、六時間目の授業内容がまったく頭に入らなかった。

   ***

 そして六時間目が終了し、掃除の時間。

 勇哉は箒を手に持ち、教室の床を掃きながら不思議な声と脳内会話をしていた。
 不思議な声に対して訝しげに感じた思いは既に薄れていた。声が聞こえてくるだけで、勇哉自身に危害は無いと解ってきたからだった。

(それで“コトハ、オコノギ”以外に、何か心当たりになるようなのは無いのか?)
『私に話しけてくる声は、誰かに呼びかけてくる内容でした。さっき言った、はろー、聞こえますかとか、その声の主の日々の出来事に関することや秘密の言葉とかですかね』
(出来事? 秘密の言葉? それは、どういった事だ?)
『それは、ディルベラントに関わるから、駄目ですよ』
(ディ、ディル? まぁ、別にいいか)
 訳分からない単語が出てきたが、それよりも気になっていた事を訊いてみた。
(そういや、どうして、こんな事ができるんだ?)
『こんな事って?』
(こうやって…テレパシーというのかな。直接、頭の中に声が響いて、こうやって会話している事だよ)
『さぁ……そのことについても、私も解かりません……』
(理屈不明のまま会話できているってか……)
『あ、でも……』
(でも?)
『こうやって、会話する前に手をね。こうやって伸ばして、そして言葉を念じると……』
(声だけだから、何やっているか分からないぞ)
『ああ、そうですね。えっとね。こう両手を……』

「うひゃっ!」

 突然、勇哉の首筋に冷たい何かが触れ、思わず情けない驚き声をあげてしまった。

 勇哉が後ろを振り返ると、活動的な髪型……いわゆるショートカットで、手には濡れた雑巾を持ち、ツンッとした目で勇哉を見据える女子が立っていた。

 あの雑巾で自分の首筋を触ってきたのだろうと勇哉は把握し、少女に睨み返した。だが、少女は臆することは無く、

「何、ボーとしているのよ。さっさと掃わきなさいよ。掃除が終わらないじゃない」

 女子は言いたい事を言うと、自分の作業へと戻っていった。

「アイツめ…」
『どうしたんですか? 私の声が聞こえてますか?』

 勇哉の話しの途中で途切れたため、勇哉を案じて声を掛けてきた。

「あ、いや……おっと」
 勇哉は自然に発言しようとたが、これだと自分の声が伝わらなかったんだと気付き、すぐさま口に手を当てて塞ぎ、言葉を思い浮かべた。

(いや、何でも無い)

 あの女子から注意されないように、手を動かしつつ話しを続けた。

(それで?)
『はい?』
(何か言いかけていただろう?)
『ああ、はいはい。えっとですね。両手を空に向かって伸ばして、私もハロー、ハローと言ってから。あなたに話しかけたように聞こえますか、聞こえますかと言葉を思い浮かべたの。そうしたら今日、あなたに私の声が聞こえたみたいで、こうして話しているんです』
(両手を空に……って、あれ?)

 不思議の声が語った内容に、勇哉は思い当たることがあった。ついさっき、そういった行動をしている人物を見たのだから。

 思い浮かべたのは中庭にいた女子……電波ちゃん。

 ただの偶然か、それとも……。
 勇哉は悩むよりも、答えを聞いた方が早いと行動に出る。

(ちょっと待ってろ。少し、心当たりがある)
『ほ、本当ですか! それって、どういう事なんですか!』

 驚きの声をあげる不思議な声を聞き流しつつ、教室内をグルッと見回し、ある人物を探す。そして見つけた。昼休み、勇哉に話しかけきた男子を。

 その男子に呼びかけようとしたが、名前を知らないことに気付き、言葉に詰まってしまったが、名前を呼ばなくても、

「な、なぁ!」
 と、呼びかけて男子の肩を軽く叩いた。

「ん、なんだ?」

 男子は机を運んでいる最中だったが、勇哉の呼び止めに返事してくれた。

「あの、ほら。電波ちゃん。 の電波ちゃんと一緒の中学だった奴、知らね?」
「いきなり、なんだよ。それに一緒の中学だった奴なんて……ああ。確か、委員長が電波ちゃんと話している所を見たことがあるから、委員長に訊いてみれば?」

「そうなのか。分かった、そうする。サンキュー!」

 軽く手を上げ感謝を表し、再び教室を見回した。そして、ちり取りを持ってゴミを集めている委員長を見つける。

 委員長の元に近づき呼びかけようとした時、足を止めた。
 それは顔は覚えていたが、先ほどの男子と同じで名前は覚えて無かったからである。

 勇哉は、今度からちゃんと人の名前を覚えようと誓ったが、今は誓ったり、躊躇していても仕方ないので「委員長」と呼びかけた。すると、委員長である人物が、眼鏡の奥の瞳は優しくオレの方を向いた。

「なんだい……えーと、村上くん」

 流石は委員長。もうクラスメートの名前と顔を覚えてますかと、感心するも……いや、そんな事に感心している場合じゃなかった。

「ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ん、何?」
「ほら、電波ちゃんと知り合いみたいだからさぁ。もしかして、一緒の中学校出身かなと……」
「電波ちゃん?」

 委員長は首を傾げた。

「ほ、ほら。昼休みに中庭でオカシナ事をしている女子のことなんだけど」
「ああ……そうだけど。それが?」

 やっと委員長も電波ちゃんが誰の事を指しているのかを理解した。

「それだったらさぁ、そのさぁ、名前とか知ってたりする?」
「名前? 知ってるけど……なんで?」

 委員長の表情が少し訝しげる。
 勇哉の突然の問いに不審がられても仕方は無いが、今勇哉にその事を気に留める余裕も無かった。

「あ、いや。ちょっと、気になったからさぁ……」
「まぁ、気になるのは分かるけどね……。んー……名前ぐらいなら良いか。えっとね。 あの子の名前は小此木琴葉さん」
「小此木、琴葉……」

 その名前に思い当たりがあった。

 委員長は話しを続けていたが、用は済んだとして、勇哉は自分のことに専念し始めた
 そう、不思議の声が言っていた言葉“コトハ、オコノギ”だ。

 そして勇哉は、頭の中で不思議の声との会話を思い出しながら、答えを導くためじっくりと思案した。

(小此木、琴葉……オコノギ、コトハ……“コトハ、オコノギ”……ビンゴ!)

『なに、どうしたのですか? びんごって何ですか? “コトハ、オコノギ”が何の意味が分かったんですか?』

 勇哉の頭の中の考えが不思議の声の主に伝わっていたらしく、すかさず不思議の声が聞いてきた。

(多分だけど、多分……)

「村上くん?」

 不思議の声に対して答えを言おうとした時、話しを聞いてなさそうな勇哉に対して、委員長が呼びかけてきた。

「どうしたの?」

「あ、いや。なんでもない。ありがとう、助かったよ」

 なぜ“ありがとう”といわれたのか意味が分からない的な顔をした委員長に向かって、勇哉は手を振り、そそくさと立ち去った。
 掃除に戻り、箒で掃わいていると不思議な声が呼びかけてきた。