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ソラノコトノハ~Hello World~

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 そう言うと、先生は教壇に戻っていく。教室には笑いが響き、勇哉の頭には叩かれた痛みが響いている。
 ありきたりの現実確認方法だったが、どうやら起きているようだ。

 本日のクラスの主役になってしまった勇哉が顔を赤くしている時にも。

『聞こえますか……』

 不思議な声は聞こえる。
 勇哉は半分諦めつつ、不思議な声に呼びかけるように頭の中で念じてみた。

(あー、聞こえますよ。それが何か?)
 と、答えてみる。

 何やってるんだかと、自分自身に呆れようとした時――

『聞こえているんですか! 私の声が!』

 声が上ずって返事が返ってきた。
 お互いに驚いた感じだった。不思議な声は、驚き混じりに話しかけてくる。

『やっぱり聞こえているんですね。そんな……こんな事が……』
(オレも驚いているよ。なんで、オレにしかこの声が聞こえてないんだと。いや、なんで声が聞こえるんだと。一体何だ? 幽霊か? ただ単に幻聴か?)
『幽霊? まだ私は死んでいないですよ』
(幽霊は、そうやって死んでいる事に気付かないから、幽霊をしているって、ネットで見たぜ)
『ねっと? あ、でも、ちゃんと体は有りますよ。足だって有ります』
(西洋とか外国の幽霊には、足が有るとかは言うけど……いや、そんなトリビアは置いといて。あんた何者だ? なんで、声が聞こえるんだ? 幽霊なら、さっさと成仏してくれ)
『だから、私は幽霊じゃないですよ……』

 不思議な声との会話に割ってはいるかのように、

「そんじゃ、ここからは……おい、寝ていた村上」
 勇哉の苗字が呼ばれた。

「……あ、はい!」
「教科書の十ページから十五ページまで読みなさい」
「ちょっと、待ってください。え〜と…」

 勇哉は教科書を開き、言われたページ先を探す最中でも、遠慮なく不思議な声が声をかけてくる。

『それに最初に呼びかけて来たのは、あなたじゃないですか?』
(ちょっと静かにしてくれ? 今、授業中なんだ。せめて授業が終わった後に話しかけてくれないか?)
『授業? あなた、学生さんなんですか?』
「そうだよ。霊感も無い、ただの普通の高校生だ」

 思わず言葉を口に出してしまい、
「何、言っとるか。村上は?」
 勇哉が不思議の声に対しての発言を古典の先生に向けられたと勘違いされてしまった。

「あ、いえ。何でもないです」
『それじゃ…』
「どうした、村上? 十ページからだぞ」

 自分の中で不思議の声が、外では古典の先生の声が同時に攻めてくる。きっと、これに対応できるのは聖徳太子とお昼番組のグラサンをかけた司会者ぐらいなものだろう。

「あ、はい。十ページですね……」
 外の声の人に対応しつつ、

(とりあえず、三十分後に話しかけてくれ)
『……三十分後ですね。分かりました……』

 それから不思議な声が聞こえてくる事は無く、勇哉は無事に竹取物語を読み上げる事ができた。
 着席したあと、勇哉は当然のようにあの声が気になり、あの声が何だったのか考えていた。

 誰かにこの事を話したとしても、笑い話になるだけで自慢にもならないし、きっとこういった不思議な体験は二度と起こることはないだろうと、勝手に締め括った。

 そして古典の授業が終わり、次の授業の準備をしていると、また不思議な声が聞こえた。

『もしもーし? 聞こえますか?』
(幻聴じゃなかったのか……)
 勇哉は、この身空で遂にオカシクなってしまったのだろうかと頭を抱えた。

『幻聴じゃないですよ。私は、ちゃんと存在しています』
(それで、なんでオレは、この幽霊の声が聞こえるんだ?)
『だから、私は幽霊じゃないって、何度言ったら……。それに、私に呼びかけてきたのは、あなたじゃないのですか?』
「はぁ?」

 誰もいない方向を向きながら、思わず言葉が漏れてしまう。
 その奇怪な発言に周辺にいたクラスメート達の視線が、先ほどの古典の授業と同様に勇哉に集まる。

 勇哉は、何事も無くそれらの視線をかわすかのように無視をする。
 これ以上、変な行動をしていると、当に変な人だと認定されてしまう。いや、もうされているかも知れないが……と、勇哉は諦めかけていた。

『もしもーし? 聞こえてますか?』
 再び呼びかけてくる。

(ああ。そうだ……。って、呼びかけたって、オレが? 残念ながら呼びかけてはいないぜ。そんな、イタコみたいに幽霊を召喚させるような、技法や秘術は行っていないし……)
『そ、そうなんですか? それじゃ……一体誰なんですか? 私に呼びかけてくれたのは?』
(いや、オレに訊かれても……解かんないし……。ついさっき、あんたの声が聞こえてくるようになったんだよ)
『そうですか……。私の方も、ある日から何処からともなく声が聞こえてきたんです。最初は、私も幻聴かと思ったんですけど……その声は段々大きくなって、つい最近、ハッキリと聞こえるようになったんですよ』
(今のオレと同じようにか……)
『それで、冗談半分で私も聞こえてくる声に呼びかけてみたんです。そうしたら……』
(それで、オレが声を聞こえるようになったのか? 話しは戻るけど、声の主はオレじゃないし。心当たりは無いぞ)
『そうですか……あっ! 心当たりになるかどうか分からないですけど……。私に聞こえてきた声で、"コトハ、オコノギ”というのをよく言っていました』
(コトハ、オコノギ? なんだ、それは?)
『私にも分からないんです。あとは、"はろー”とか、"聞こえますか?”とかですかかね』
(はろー? ハローは、英語のハローの事かな?)
『えいご?』

 少し間の抜けた返答だったのが気にかかった。

(いや、英語ぐらい知っているだろう)
『まぁ、何かの言語というのは分かりますけど……』
(なんだ、この幽霊は江戸時代の幽霊か?)
『だから、幽霊ではないです……』
(で。それで、オレはどうすれば良いんだ)
『そうですね……私はこうやって、あなたと話せているだけでも凄く嬉しいんですけど……。出来れば、私に呼びかけてくれた声の主さんと話したいですね……』
(話したいって……)
『私を呼びかけてくれた声が、凄く寂しくて、凄く誰かの助けみたいなものを求めている感じだったの……。今、私はその気持ちが凄く分かるから、何とかしたいし、話し相手になりたいのです』

 話しの途中で、予鈴のチャイム音が鳴り響く。

(おっと、これから次の授業なんだ。また、後にしてくれ)
『今度は、何分後に話かければいいんですか?』

 極端な時間を言おうとしたが、せっかく待ってくれていると思うと気を遣い、正直に答えることにした。

(そうだな……五十分後くらいで)
『分かりました。時間になったら呼びかけますので、よろしくお願いします』

 そう言われた後、勇哉は少し息を吐いた。
 おかしな出来事を自分は経験しているのだなと実感する中、感動めいた想いがあった。

 だが、なんで不思議な声が聞こえているのだろうと。そして、あの不思議の声の正体は何だろうと。

 その不思議の声に話かけた不思議の不思議な声の誰なのかと。