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ソラノコトノハ~Hello World~

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 それが、こうして普通に話している。話すことの大切さを表しているようだった。
(だけど、あれだな。オレたちが遊んでいるのに、ただ聞いているだけってのは、なんかツマラナイだろう?)
『私のことは気にしないでください。私はキョロスケ達の楽しい声を聞けるだけで十分ですよ』
(それは、それで如何なものか……)
 まるで遠足を休んでいけなかった子が、みんなの土産話しを期待している様だった。
 しかし遠い場所(星)に居て、誘うにもどうしようもないという事に、勇哉もルーラも解かっていた。

     ***

「うぇ〜〜〜」
 勇哉はぐったりとしていた。
 着いた早々、真っ先に向ったのは本遊園地の目玉木製ジェットコースター『ジュピター』。
「これに乗らないと始まらないでしょう」と、志津香に率先して連れて行かれた。
 ジュピターは最高時速九十km、基本構造はキャメルバックで構成されており、360度一回転するループなどの今ではコースター界の常識の構造は採用されていない。一見、平凡なコースターと思われるが、米松でくみ上げられたレーンだからコースを曲がる度に“ミシミシ”“ギシギシ”といった“きしみ”が走り、それがより恐怖を扇がせる。
「何よ、情けないわね」
 勇哉とは正反対に、高揚した表情で志津香が声をかけた。
「志津香さん……知らなかったんでしたっけ。ワタクシが、絶叫系が苦手だということ……」
「もちろん、ご存知でしたわよ。でも高校生になって、まだジェットコースターとか苦手なのね」
「慣れないんだよ。ああいうのは……」
「たくっ……。まぁ、あっちもアンタと同じような感じみたいね。流石は、波長は合う同士……」
 志津香の横目には勇哉ほどでは無いが、青ざめた琴葉が項垂れていた。
「だ、大丈夫、小此木さん?」
 穂乃香が背中を軽く擦りながら気遣う。
「う……うん」
 見た目からして琴葉が絶叫系アトラクションは苦手なんだろうなと思っていたが……イメージ通りに納得してしまう。
 勇哉と琴葉を除いた三人は平気のようだ。
「本宮は、ジェットコースターとかは大丈夫なのか?」
「好きという訳じゃ無いけど、宇宙飛行士になるんなら、こういったものは慣れていた方が良いからね」
「あれ? 宇宙飛行士になりたいのか?」
「技術者でも宇宙飛行士でも、要は宇宙関係の仕事に就きたいんだよ。だから可能性を高めていた方が良いだろう」
「大きな野望なことで」
「目標は大きく多く持った方が生きがいがあるよ」
 ある意味、本宮に尊敬の念を贈りたい。勇哉には現時点で、そこまでやりたいというものが無かったからだ。
『じぇっとこーすたーというのは、怖いものなんですか? さっき、コトハから悲鳴のような声が聞こえてきたのですが……』
(怖いちゃ、怖いな。凄いスピードで曲がったり上がったり下がったり……あれを面白いと感じる奴の気が知れん)
 ルーラに今の気持ちを伝えつつ、志津香をチラ見。
「何よ?」
「別に〜」
「それじゃ、もう一回乗ろうか! ユウは一番前に乗りなさいよ」
「ちょっと待て! 少しは気を使ってくださいな! 志津香さん!」
「そうよ、シヅちゃん。小此木さんも、ああだし。もっと優しい乗り物にしましょうよ」
 穂乃香の意見に「む〜」と、むくれ面を浮かべつつ、
「それじゃドラゴンに乗りましょうか」
 ドラゴンとは、大きな振り子の先に船の乗り物が付けられて、前後に揺れるアトラクションの名前である。他の遊園地ではバイキングといった名称が付けられている場合がある。ここ木星遊園地では船がドラゴンの形にしているので、ドラゴンという名が付けられている。
「志津香さん。それも結構高ランクの絶叫系ですよ!」
 勇哉と穂乃香で必死に志津香の暴虐を止めた。


 ドラゴンに乗って声をあげている志津香と本宮を眺めつつ、アトラクションの近くに備えられているベンチに座り待つ、勇哉と琴葉、そして穂乃香。
「よくあんなものを楽しく乗れるよな」
 勇哉の呟きが穂乃香に聞こえたらしく、
「シヅちゃん、昔から好きだったから」
「穂乃香は、ああいうのは好きじゃないのか?」
「私は、どっちかと言うと苦手なのよ」
 そういうところは、双子でも違うんだなと関心を寄せる。
「でも、さっきは嫌な顔をせずに乗ったよな。ジュピターに」
「あれね……。シヅちゃん……私たちが幼い時……確か小学校二年生の時かな。ここに遊び来た事があるんだけど。シヅちゃんが、ジュピターに乗ろうとしたんだけど、身長が足りなくて乗れなかったの」
「ああ、あれな」
 大抵の絶叫系アトラクションには身長規制があり、ドラゴンにも身長確認の看板―百二十センチの男の子の絵が描かれている―が立て掛けられていた。
「でも、無理強いをして強引に乗ろうとしていたのよね」
「うわ〜、イメージできるわ」
 初めて志津香と会った時の姿で、従業員に静止されている状況が浮かぶ。
「もちろん、規則だから乗れなかったけどね。で、いつか身長が伸びたら、あれに一緒に乗ろうと約束したのだけど。ほら、親の再婚でね。私たち離れ離れになったから……今、こうしてシヅちゃんの我侭に付き合ってるの」
 勇哉はその話しに思わず笑みがこぼれてしまう。
「仲が良いんだな」
「今はね。昔は……色んな事があったけどね」
 物憂げな穂乃香。双子が別々に離れて暮らすという、その色んな事に対しては、あえて口を挟まない方が良いだろうと判断した時、
『どうですか、キョロスケ?』
 いつも唐突にルーラが呼びかけてくる。
(あー楽しんでいるよ……特に志津香が……)
『そうですか。所で、コトハは?』
(小此木?)
 琴葉は、気分がまだ優れないようで、俯き黙って座っていた。
「小此木、大丈夫か?」
「う、うん……」
(ジェットコースターで少し酔ったみたいだけど、だいぶ良くなってきたみたいだな)
『そうなんですか。だから、コトハはさっきから私に話しかけてくれていないんですね』
(かもな)
 そうこうしている内に、
「おーい、ホノ!」
 志津香と本宮がやって来た。
「さてと。次は何処に行こうか。みんなでバードマンなんてどう?」
 相も変らずに絶叫系アトラクションをご所望する志津香に穂乃香が、ある提案をする。
「シヅちゃん。もうお昼だし、そろそろご飯にしない?」
「え、もうそんな時間? そんなに乗っていないのにな〜」
 志津香は自分の携帯電話を取り出し、時間を確認する。
「人が多いから、並んでいる時間の方がかかっていたからね」
 本宮が園内マップを取り出しながら、お得意の推測を行う。
 流石はゴールデンウィーク。通常の日も、これだけの人入りがあれば世の不景気なんて、どこ吹く風の如しなのだが。
 志津香は自分のお腹の減り具合と、これだけの人の入りならば、食べるまでにも時間がかかると判断し、
「そうね……。小腹も空いたし、近い所でご飯にしましょう。小此木さんも、それで良い」
「う、うん」
「それじゃ、近くのフードスポットに行こうか」
 今度は本宮を先導に、人込みを縫って進み行く。
「そういえば小此木。ルーラに話しかけているか?」
「え……は、はい。さっきもルーラさんに声を、届けましたよ……」
「届けた?」