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ソラノコトノハ~Hello World~

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◆5章「Another World〜志津香と穂乃香〜」




 私の名前は、只野志津香。
 私には、只野穂乃香という双子の片割れがいる。
 なんで片割れという曖昧な言い方をすると、私と穂乃香はどちらが“姉”で“妹”なのかが分からないからだ。
 幼い頃に亡くなった母親の遺言みたいなもので、たった一分二分の差で双子なのに姉と妹に分類するのはオカシイというので、あえてどっちが姉・妹なのかは教えないで育てたいという意向だったらしい。
 確かに、幼い時はどっちが姉で妹なんか関係無かった。
 双子だから穂乃香は私に似ている。私は穂乃香に似ている。ただ、それだけだった。
 だけどそれは、見た目だけのこと。
 中身……性格は、全然違っていた。
 私は率直というか正直すぎるというか、少々男勝りな部分――気が強いところがあり、あまりグループとかに属すのが好きでは無い性格だった。それがトラブルの種となり、前の小学校では、ことある事にある女子グループと揉めたことがあった。女同士の醜い闘いは、いつの時代にもあるものだ。
 しかし、穂乃香は私が羨むほどに、誰にでも優しく淑やかな女の子で、私と仲が悪かった女子達とは上手くやっていた。八方美人で世渡り上手いというのか、穂乃香は良い言い方をすれば、素直な子。悪い言い方をすれば……ズルイ子。
 穂乃香は、自分の武器が何であるかを把握しているようだった。
 あれが私の分身だと思うと、神様はなんで双子なのにこうも区別したのだろうかと嘆いたこともあった。
 私は、一人の方が良かったと何度も思った。だけど、その思いは叶うことは無い。なぜなら、穂乃香がいるからだ。
 私が孤独を感じ無かったのは、穂乃香がいたからだと。それに気付くには、それなりの時間と別れが必要だった。


 私達が三歳の頃だったか……。私達の実の母が亡くなったのは。
 元々、母は体が弱かったらしく、よく床に伏していたのが記憶にある。
 母は、いつも優しい笑顔で私達にほほ笑んでくれていた事を忘れない。しかし、母の死により、父はショックで人が変わったかのように、落ち込んで生気を失くしていた。
 私と穂乃香は父を励ましたが、父は何をする気力も沸かず、しまいには仕事にすら行かなくなったダメ親父と化していた。
 そんな状況を見かねて、私達は一時的に、父の実家へと預けられることになった。そこには、父の妹である静瑠さんがいた。
 父の両親……私から言うならば、私のお婆ちゃんやお爺ちゃんは既に他界しており、実家には静瑠さんが一人暮らしをしていた。その静瑠さんが、私達の面倒を見てくれた。
 静瑠さんは、清楚で大人しく、物腰の柔らかい人だった。それに、どこか実の母と似ていたからもあったが、私達が五歳になる頃には、静瑠さんを本当の母だと思うようになっていた。
 穂乃香は、静瑠さんの事をママと呼んでいたが、私は静瑠さんと呼んでいた。私は照れて静瑠さんの事を“ママ”とは言えなかったのだ。
 静瑠さんが私達の面倒を見てくれるお陰で、父がいなくても実の母がいなくても、私たちは気兼ねなく暮らしていた。
 そして、五年が過ぎ。静瑠さんとの暮らしが、もはや普通になっていた頃。母の死から徐々に立ち直りを見せていた父が、再婚することになった。
 再婚相手は、父の幼馴染だった人らしく、子供の頃から父のことが好きだったようだ。しかし、父が実の母と恋に落ちた事で、その人はそっと身を引いたのらしい。
 そんな話しを、静瑠さんはポロっと私達に溢してくれた。
 時が過ぎて、悲しい別れがあったからこそ皮肉にも人の恋が成就する運命というのもロマンスがある。と、なんか羨ましがっていたようだった。
 しかし、私達は父の幸せを祝う気持ちにはなれなかった。
 それは再婚することによって、私達は実の父の元へ返されるという事。それによって、静瑠さんと別れてしまうことが嫌だったからだ。
 穂乃香は泣きじゃくった。
 ママとは離れたくない、ママとは離れたくないと。
 私はそんな穂乃香に反発してか、あるがままに泣くことも、ママと呼ぶことも出来なかった。
 それが決め手になったのだろう。
 穂乃香は静瑠さんの所に残り、あまつさえ静瑠さんの養子となり、穂乃香にとって静瑠さんは本当のママになった。
 その事で生まれて初めて穂乃香とケンカをした。

 再婚によって、父は新しい生活の為に新しい家を借りた。家といっても公営団地。その場所は同じ市内だったけど、実家からかなり離れた場所だった。
 その結果、小学校も転校する羽目になった。
 一学期の終業式の日にクラスの皆に別れの挨拶を行った。私だけが家庭の都合で引っ越すことになった事に、クラスの連中は不思議そうな表情をしていたのが、今でも思い出す。
 転校先の学校が始まるまで……夏休みの間だけは、実家に残っても良かったのだが、穂乃香と一緒にいるのが嫌だった。静瑠さんの優しさが辛かったから。
 引越しで離れる時も穂乃香とは一口も一言も話さないままで別れた。
 そして、私は独りになった。

     ***

 新しい土地に友達などいなく、私は団地の隣にある小さな公園で時間を潰すことが多かった。二学期の始業式が始まるまで、九月の一日になるまで、知り合いが出来る訳が無い。この時の良い思い出なんて、夏休みの宿題をやらなくていいって、ぐらいだったかな。
 公園のベンチとかに座ったり、ブランコを漕いだりして、時間が過ぎるのを待っていた。
――いつも何をしていたっけ?
――ああ、穂乃香と話しをしていたっけ……。
 穂乃香の事は思い出したく無かった。
――他に何をしていた?
――ヒロとは遊んでいたけど、そんなに毎日遊んでいた訳じゃなかったか……
 子供の時ほど時間は長く感じる。物思いにふける時間は一杯あった。
 そんな風にいつもの通りに一人でいたら、足元にサッカーボールが転がってきた。
 そしてすぐに、自分より僅かに背が低い少年が、そのボールを取りにやってきた。その少年こそ村上勇哉だったのだ。

「なによ?」
「そのボール、取ってくれよ」
 自分の足元にあるサッカーボールに視線を移し、面倒と思いながらも軽く蹴って、ボールを少年の元に送り届けた。
 しかし、目的を成し遂げたのに少年は、その場から立ち去らない。
「なによ?」
「いや、見ない奴だな〜って。どっから来たんだ?」
「あんたには関係無いでしょう」
「ここで一人で、何やってるんだよ?」
「別に、何も……」
 不躾な少年の態度に、志津香の苛立ちが増す。
「なんだ遊び相手がいないのか? だったら、一緒に遊ぼうぜ。ケンちゃんが田舎に行って、遊び相手がいないんだよ」
「なんで、見ず知らずのアンタと遊ばないといけないのよ」
「そういや名前を言ってなかったな。おれ、村上勇哉。君は?」
 志津香は何も言わず立ち上がり、前へと歩き出した。
「お、おい。待てよ!」
 特に何処に行くあてはなく、ただ道を歩いた。ついさっき知り合った少年から遠ざかるように。だが、少年はサッカーボールを脇に抱え、あとを追いかけてくる。
「なぁったら。名前は何て言うんだよ? こっちはちゃんと名乗ったのによ。てかっ、何処に行くんだよ? 面白い場所を知っているのか?」