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ソラノコトノハ~Hello World~

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(なぁ、ルーラ。なんでそこまで小此木に構ってやるんだ。見ず知らず……とは、もう言わないが……他人。ましてや別の星の住人なのに)
『……独りの寂しさを知っているからよ』
(独り?)
『そう。コトハが今まで、どれだけ独りぼっちで過ごしてきたかは、痛いほど伝わったから。今は良いわ。私がいるし、キョロスケもいる。だけど……もし、私の声がキョロスケに届かなくなって、あなたを介してコトハと話せることが出来なくなったら……あの子は、また独りになるでしょう』
(ルーラの声が聞こえなくなったら、か……。個人的には、さっさと声が聞こえなくなって欲しいんだけどな)
『あら、キョロスケ。冷たいのね』
(突然、自分の望まぬ声が聞こえるようになったんだ。そう思うのが普通だろう?)
『望まぬ、ね……。私は望んだけどね』
 終わりの部分は、小さい声だった。その為、勇哉はよく聞き取れなかった。だが、勇哉は気にすることなく、下り坂は終わり、上り坂が始まると、再びペダルを漕ぎ出し家を目指した。

     ***

 土曜日、日曜日――休みという日の時間の流れは不思議だ。
 平日、学校に行っている時は、あれほど昼になるまでの時間の流れの遅さは一体何だろうか?
 それが休みの日は、気が付けば昼が過ぎている事が多い。まぁ、昼まで寝ていたからというのが大きな理由なのだが……。
 それでも夜まで、まだ時間はある。まだ慌てるような時間ではないのだ。
 そう……その余裕という油断が命取りになる。
 ちょっと暇だからと、本屋に立ち読みに行き。家に帰っては、録り溜めていたビデオを見ては、週刊マンガ雑誌を読む。
 覚悟を決めて勉強をするかといきり立てば、午後七時になっている事に青ざめる。
 慌てて勉強しようと立ち上がるも、腹が減っては戦は出来ぬ状態。そして、タイミング良く夕飯の時間だった。
 さぁ、お腹一杯になった所で、食後の休憩。ご飯を食べている時に見ていたテレビが面白く、そのまま居間に居座る。
 笑い終えて、時間を確認すると午後十時。
「なん……だと……」
 冷や汗たらりとしたたり落ちる。現状のヤバさに気付き、自分の部屋に戻り勉強の開始。
 しかし三十分後には、本棚にしまっていた漫画本を取り出し、勉強時間よりも長い休憩時間に突入。
 己の愚かさに気付いた時は、土曜日が日曜日に変わろうとしていた。
「あれーーー?」
『なに叫んでいるんですか?』
 勇哉の心の声がルーラに届いてたらしく、何事かと訊ねてきた。
(あ、ありのまま話すぜ。俺は勉強しようと思っていたのに、いつのまにか勉強をしていなかった……。幻想とか……)
『思いっきり自業自得ですね。コトハは、しっかり勉強しているのに』
(なんか、言ってたのか?)
『コトハは、自分の様子をよく話してくれます。今、机に向かって勉強しているけど、眠たいとかですね』
(そうですかい)
 話しから察するには、琴葉は意外と優秀な子みたいだ。
『そうだ、キョロスケ。なんなら、お勉強のお手伝いをしてあげても良いですよ』
(はぁ? 手伝うって、どうやって?)
『キョロスケが、さぼっていると思ったら、注意してあげますよ。勉強しろ〜、勉強しろ〜ってね』
 “勉強しろ〜”の部分だけ、おどろおどろしい声色だった。
(やめい! 恐いわ! そんな事をしなくても、俺はやる時はやる男なんだぜ。だてに、市内で二番目に良い高校に受かった訳じゃない!)
 そう自分を奮い立たせ、中学生時代から愛用しているシャーペンを手に取り、教科書とノートに向き合った。

 三十分後――
『キョロスケ。ちゃんと勉強していますか?』
 ルーラの呼びかけに、高校合格祝いとして買ってもらったノートパソコンでインターネットラジオに没頭していた勇哉は我を取り戻す。
「お……お、オレは何をしていたんだ……」
 勇哉の心の声の震えにルーラは察した。
『勉強をしていなかったんですね……』
 グゥの音も出ない。
『良いんですか? 試験で悪い点を取っちゃいますよ』
(ぐぬぬぬ……)
 今度こそと教科書を手に取り、マーカーを引いている箇所を読み始めた。その最中にルーラは語りかける。
『そうだ、キョロスケ。今、暗記しようとしている文章などを私に伝えてください』
(なんで?)
『それを私がキョロスケに、語りあげてあげますよ。復唱学習ですね』
(復唱学習?)
『覚えたいことを常に聞く勉強方法です。自分が勉強している時に、隣で友達に覚えておきたいとか覚えにくい単語とかを、ずっと喋って貰うの』
(なんだ、そのイジメみたいな勉強方法は?)
『私の世界では、普通の勉強方法ですよ。もっとも、とても仲が良い友達とかでしかできませんが……』
(そうだろうな。てかっ、ボイスレコーダーとかで、声を録れば良いんじゃねぇのか?)
『ぼいす、れこーだー?』
(声を録音できる機械みたいなもんだよ。MP3プレイヤーとかに備え付けられている機能にでもあるけどな)
 勇哉は、手持ちぶさたな左手で、机の隅に置いていた自分のMP3プレイヤーを取り出す。
『確か、音楽を聴いたりする機械のことでしたね。すごいですね。そういう機能もあるんですか。私の世界では、そういったものは無いですからね』
(音楽を録音ができる機械とか装置は無かったんだっけ?)
『有ることは有りますけど……私たち庶民では、とても手に入りませんよ』
(そうか……)
 話を聞く限りでは、ルーラの世界は地球と比べて、かなり発展が遅れていると判断できる。
(って、なに勉強をそっちのけで話しをしているんだ、オレは)
『あ、ごめんなさい。なんか邪魔したみたいで』
 まったくだ、と体勢を整えて勉強を再開しようとしたが、次の試練として眠気が襲いかかり「ふぁ〜あ」と、大きな欠伸が出る。
 勇哉の睡眠我慢レベルは、限界に達していた。
 今日は、これぐらいにして眠ろう。まだ、明日(日曜日)があるからと、ノートと教科書を閉じた。
(ルーラ。今日は、もう寝る)
『あれ、勉強はよろしいんですか?』
(人間は眠気に勝てないんだよ。そういうルーラは、眠くないのか?)
『ええ、大丈夫です。しっかりと寝てますから』
(それは羨ましいことで……。それじゃ、オレはもう寝るからな)
『ちょ、ちょっとキョロスケ。勉強は?』
(明日から本気を出す!)
 宣言した所でベッドへ倒れ込み、そのまま眠り込んだ。歯を磨かず、風呂に入らず、電気は点けっぱなしで。
 たった一日、歯を磨かなくても死にはしないという、若気の油断が虫歯という悪魔が人間の玄関口に住み込むという事を招くのだが……それは、別の話し。
『キョロスケ……キョロスケ……』
 あっという間に勇哉は眠りつについたらしく、返答は無かった。
 しかし、ルーラは気にせず、
『寝ましたか……私は、あなたと話す以外には、寝ることしかないから……寂しいんですよ……』
 その言葉は、勇哉の頭の中で響いただけで誰に届くことは無かった。
 そして、普段よりもルーラの声の大きさが少し小さくなっていた事も―――

     ***

 そして、実力テストとルーラの事を志津香たちに教える日が訪れた。
 ひとまずテストの方を最優先。それはルーラも同意してくれた。