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ソラノコトノハ~Hello World~

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 そう言う本宮は残っていたご飯やオカズを急いで口の中に掻き込んだ。勇哉も大きく口を開けて、三口でメロンパンを消し去った所為で、ほっぺが冬眠にそなえるリスのように膨らんでいた。
 志津香と穂乃香は全て食べ終えていなかったが、弁当箱の蓋を閉じ、その場を片付け始めた。
 来た時よりも美しく、ゴミを残さずに。
「あ、これは……」
 そして穂乃香は、その場に残された弁当袋を手に取った。おそらく琴葉のものだろう。
「これは私が届けておくわ」
 あらかた片付けが終わり、他の生徒と共に勇哉達も、自分達の教室へと目指した。


 穂乃香と別れ間際に、穂乃香が勇哉を呼び止めた。
「勇哉くん。私からこう言うのもアレなんだけど。小此木さんと仲良くしてくださいね。やっぱり独りでいるよりも、友達とか皆でいる方が楽しいですから……それじゃ、ね」
 そう言って、穂乃香は自分の教室へ向かって行った。そして、隣を歩く本宮からも。
「それじゃ僕からも、よろしくっと言っておこうかな」
「ん、なんで?」
「小此木さんとは、それなりの付き合いだからね。気にはなっていたから」
「気になっているんなら、オマエが話相手になってくれても良かったんじゃねぇのか?」
 本宮は少し困った顔で、
「話相手になろうとしたさ。ほのちゃんと共にだけど……。なかなか話をしてくれなかったんだよ村上くん。本当にどうやって、あの小此木さんの心を開いたんだ?」
「だから言っただろう。天の声に導かれたんだよ」
 またまた、と立つ瀬が無いなと苦笑する本宮。その後、本宮の視線は志津香の方に移していた。
 勇哉はその事に気づいておらず、その志津香は何も言わず、ただ前を向かって歩いていく。
 そして何事も無く、自分達の教室に辿り着いた。次の授業は歴史。
 落ち着いて考えられる時間だ。
 勇哉は、少し整理したかった。
 今は小此木のことよりも、志津香に穂乃香という双子がいるということの方が、整理リストの重要案件として大半を占めていたのだった。

     ***

 帰りのHR(ホームルーム)。窓から差し込む太陽の光が少し赤みを帯びていた。
 担任が来週の月曜日にゴールデンウィーク直前実力テストがあるからと、土日はしっかり勉強しとけよとの注意と来週の予定事項をズラズラと述べる。
 HR(ホームルーム)が終わると、教室の端々で教室は土日をどう過ごそうか、宿題出し過ぎだよとか、テストどうするよと賑わっていた。
 その賑わいを他所に、勇哉は琴葉の教室へ行こうと席を立ったところ、志津香に呼び止められた。
「どこに行くの?」
「ん〜、あ〜、え〜と……」
「あの、小此木さんの所?」
 まるで獲物を狙い撃つ狩人のような視線で、勇哉を捉える。勇哉はその視線に負けて、正直に口を開いてしまう。
「まぁ、そんな所……」
「ふ〜ん」と、まるで最初から興味が有りませんでしたという素振りを見せる志津香。
「なんだ、何か用があるのか?」
「用が無いと言えば無いし、有ると言えば有るし……」
 歯切れの悪い返答に、業を煮やした勇哉は、頭の中で、先ほどからルーラが『早く、コトハに会いに行ってくださいよ』と急かされている事もあり、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと、急いでるから」
「あ、ちょっと、ユウ!」
 立ち去ろうとする勇哉を止めるべく、勇哉肩にを志津香の右手を置いたと同時に、ルーラの声が響く。
『キョロスケ、早くコトハの元へ』
 すると志津香は、思わず肩から手を離した。
「え! 今の……」
「ど、どうした?」
「え、声が聞こえた、というか……」
 声?
 まさかと思い。
「声が、どうした? 何か声が聞こえたのか?」
 志津香は、いま自分は何を話そうとしていたのか、思い出すように考え込む。
 そして。
「うんん、別に何でも無い。多分、気のせいよね。それじゃ……」
 何も無かった様に話しを打ち切り、そそくさと勇哉の元から志津香は立ち去っていった。
「お、おい、志津香!」
 志津香のおかしな態度に、勇哉は一つの可能性が頭に浮かんだ。
「もしかして、ルーラの声が聞こえたんじゃないのか?」
 だけど、もう一回確認しようにも、すでに志津香は鞄を持って教室を出て行ってしまった。
「まぁ……いいか」
 勇哉は、さっきの事を気になりつつ、琴葉の教室へと向かった。


 一年七組の教室に辿り着くも、琴葉は既に教室にはいなかった。
 もう帰ってしまったのかと、ルーラに伝えると『探して!追いかけて!さっさと行ってください!』と叱咤激励の命令言葉が返ってきた。
 大人しくルーラに従い、その付近をウロチョロしていると、
「あれは……」
 志津香の妹“穂乃香”と遭遇。そこで、琴葉を見かけなかったと訪ねた。
「ごめんなさい。小此木さんは見ませんでした」
「そうか……」と、引き続き琴葉を探すため駆け出そうとすると、穂乃香から呼び止められた。
「あ、勇哉くん。小此木さんと仲良くするのも良いけど、お姉ちゃんも仲良くしてくださいね」
「ああ。そりゃ幼馴染だから仲良くしているけど……」
「そうか……そうですよね。ちょっと気が強くて素直ですけど、今後とも宜しくお願いしますね」
「ちょっとどころじゃ無いけどな……。あの、おろい性格は」
 “おろい”とはこの地方の方言で、“恐ろしい”という意味である。
 志津香の悪評価に対して、笑いがこぼれる穂乃香。
「ああ、それとね。もしかしたらなんだけど、小此木さんは……」

     ***

 体育館の裏側。
 陽が当らず、ヒンヤリしていたその場所は、日の当らない世界の住人である日陰者にとっては、すこぶる心地よく、人目が付かない場所だった。
 人目が付かないという事は、それだけ人が立ち寄らない場所でもある。
 そんな場所に、小此木琴葉は居た。
 五段程度の短い階段の中段に座り、何を考えているか……いや、考えていなさそうな表情でボーとしていた。
「おい、小此木!」
 呼びかけると、ボーとした表情はあっと言う間に驚きの表情となり、いつも以上に慌てふためく。
「む、村上くん! ど、どうして、ここが? あ、ここに?」
「只野穂乃香に教えて貰ったんだよ。なんでも中学の時、よく体育館の裏に行ってたから、もしかしてってな……」
 ふと穂乃香との会話の内容を思い返す。

     〜〜〜
「体育館の裏?」
「小此木さん、中学生の時に馬鹿にされたら、よくそこに行っていたから……。多分、そこに居るんじゃないかなと」
「そうか……。じゃ、まぁ行ってみるか。あんがと、そんじゃ」
「あ、勇哉くん……」
 立ち去ろうとする勇哉を呼び止めたが、
「ううん……やっぱり、なんでも無い。また明日ね。さよなら」
 呼び止めようとした手を振り、穂乃香と別れた。
     〜〜〜

「そう、なの……」と呟いた後、俯き、何も言葉を発しない琴葉。
 さて、この後、何を話せば良いのかと考える前に、ルーラに発見報告をした。
『見つけたのですか!』
(ああ。それで、これからどうするんだ)
『コトハと話したいの。私の言葉をコトハに伝えて欲しいのです』
 さて、いつも通りに通訳者モードに切り替えて、ルーラの言葉を伝えようとする。