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ソラノコトノハ~Hello World~

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 志津香は、これ以上は訊かないでよと、嫌そうな顔をしているのに勇哉は気付いた。
 長年の付き合いの所為なのか、
「そ、そうか……」
 余所様の家庭事情にあまり深く関わらない方が良いかも知れないなと、勇哉は口を閉じる事にした。
 とりあえず、その事は置いといて、穂乃香の方へ顔を向ける。
「そういえば、ちゃんと自己紹介をしていなかったけ。オレは……」
「大丈夫ですよ。昔からシヅちゃんに聞いてますから、ある程度は知ってますよ」
 委員長の本宮の時と同様に、自分が知らない相手が自分の事を知っている事に、妙に照れてしまう。
「それは、どうも……。そ、それは……その何というか……」
「電話でシヅちゃんと話す時、いつも勇哉くんの事が話しになっ……もがっ」
 穂乃香の話しの途中で、瞬時に志津香の手で穂乃香の口を塞ぎ妨害した。
「余計な事を言わないで良いの!」
「む〜ん、む〜ん」
 口を塞がれ、もがく穂乃香。
 よほど聞かれてはマズイ話をしていたのかと、勇哉は勘繰りながらも、この話しは終わらせる事にした。
 粗暴な志津香。
 温和な穂乃香。
 勇哉は、その二人を交互に見比べて、その他に異なる部分を探してみる。
 髪が長いと短い。しかし眼鏡を掛けているからか、穂乃香の方が賢そうに見える。しかし志津香は、見た目以上に勉強が出来る部類の種族。
 志津香は、この間の高校最初の実力テストで、全科目を八十点以上だった事をふと思い返した。ちなみに勇哉は……平均五十点ぐらいだった。
 という事は、穂乃香の方も出来るんだろうな〜と、勝手に推断した。
「しかし……双子と言うからには、確かに似ているんだけど……微妙に違うな。二卵性か?」
「一卵性よ」
 間髪入れずに志津香が答える。
 そして、本宮がそれについて補足的に話しを入れた。
「それは僕も久しぶりにシヅちゃんと会った時に思ったよ。でも、小学生の時は本当にそっくりだったよ」
 へ〜と感心を寄せつつ、再び見比べた。
「それが、なんで……こうなっ、ぶへっ!」
 まだ発言の途中で、志津香に軽く速く優雅に右の頬をはたかれた。
 これは左の頬も差し出さないといけないのか。
「生活環境が変化したからじゃないの。別々に暮らすまでは、ホノといつも同じ格好していたからね」
 志津香はそう言った後は話しの輪に加らず、こちらの様子を伺っている穂乃香に話しを振る。
「でっ。ホノは、何か無いの?」
「え?」
「ユウに何か聞きたい事とか話したいとか。折角、こうやって会っているんだから」
「ん〜。でも、大体の事は、シヅちゃんから聞いていたから……特には」
「聞いていた? おい、志津香。何を話した!」
 志津香は悪っぽい顔で、
「えー。 中学の時、あんたがクラスの女子と揉めて、怒りの矛先に壁を殴って、拳を骨折したとか」
「ちょ、おまぁぁぁぁぁ! 消し去りたい過去ベストスリーに入る出来事を!」
 悪戯っぽく笑う志津香。それにつられて苦笑する穂乃香。そんな事があったのかと、関心を示す本宮。
 勇哉は歯痒い顔で、
「他には、どんな事を言ったんだ?」
「えーと……これ以上、あんたの心の傷のカサブタを剥がす様な事したくないから、黙秘権を行使するわ」
「おまえ……」
 勇哉がチラっと穂乃香の方に視線を向けると、その視線を逸らすように顔を逸らした。
「本当に何を話した!」
 志津香が穂乃香に他に何を吹き込んだのか気になりつつ、購買で買ったメロンパンを口にしようとすると、ルーラの声が響いてきた。
『あ、キョロスケ。ついさっき、コトハから声が聞こえてきて“さっきの事は、気にしないでください”と、ムラカミに伝えておいてくださいと言われました』
(ん、ああ、了解)
 気に留める事なく、メロンパンをほお張る。
『気にしないでって……何が有ったの?』
(ちょっと話しの時に、小此木に……対してではないけど、少し小馬鹿にされた事を言われた後、その場を去っていったんだよ)
『小馬鹿って?』
(オレがルーラの声が聞こえるようになって、それが小此木と話すキッカケになったと言ったら、案の定ツッコまれてな……)
『そう……。ねぇ、キョロスケ。今から……じゃなくても良いけど、今日この後、必ずコトハに会ってくださいね』
 妙に真剣な口調だった。
(なんで?)
『コトハに、言っておきたい……うんん、伝えたい事があるから』
 ルーラの声は寂しくも、何かが込もっていた。
『所で、キョロスケ』
(ん?)
『ムラカミって、誰の事ですか?』
(ああ、俺の本名……)
『本名? 貴方はキョロスケという名では無いのですか?』
(あっ……)
 ルーラに言われて気付いた。勇哉はキョロスケという名前でルーラに伝えていたことを。
『あっ! て、何ですか? もしかして、キョロスケという名前は嘘だったのですか?』
(あ、いや、その……まぁ何というか……)
 勇哉の歯切れの悪い言葉が、ルーラは確信する。
『ひどい……偽名を使っていたなんて……』
(普通の思考の持ち主だったら、謎の声の正体は悪魔で。名前を教えたら命を奪われるんじゃないかと考えるだろう!)
 逆ギレになりながら言い訳をする勇哉。
『神様とかの声だったと思わないんですか?』
(無宗教だからな)
『なんという人……。なぜ、貴方みたいな人に私の声が聞こえているのかしら……』
(俺が知りたいわ!)
 ルーラと論争する中、
「てか、ユウ。なにさっきから黙っているのよ?」
 志津香が、黙々とメロンパンを咥えたままの勇哉に声を掛けた。
 思わず勇哉は、ビクっと体を震わせる。
「え、あっ、その……」
 頭の中では会話しているので、黙っているという意識は無かった。志津香に何か言おうとするが、頭の中で、
『聞いてますか、キョロスケ? 良いですか、人に名前を訊ねられたら……』
 ルーラが喋り続けているので、志津香の方に集中出来ないでいた。このまま頭の中で騒ぎ立てられては、志津香と話しが出来ない。そこで、
(あ〜〜。ルーラさん。大変申し訳ないが、この件に関しては後でじっくり、話しませんか? ちょっと、こちらの今の様子を気遣ってくれません?)
『む〜〜。ふぅ……。解かりました。後で、じっくり話し合いましょう。だけど、絶対忘れませんからね。偽名を使ったことを。これからずっと、私が死ぬまで“キョロスケ”って言いますからね』
 ああ、それぐらいなら構わないと、半分聞き流すかのように、いい加減に返した。
 別にキョロスケと言われても、自分には何も痛い思いをする訳ではないので。
『それじゃ……、それはひとまず置いといて……。コトハの事、よろしくお願いしますね』
(ああ、放課後にでも会いに行ってくるよ)
「ユウ?」
 押し黙る勇哉に、再度志津香が声をかける。
 ルーラとの話しがひと段落したので、志津香に何かを言おうとすると、昼休みの終了を報せるチャイムが鳴り響いた。
「あれ、もう終わり?」
 話の方を優先していた為に、全員弁当を食べ終わってはいなかった。
「ここに来るのが、少し遅かったからね」