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ソラノコトノハ~Hello World~

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 ルーラに同じ質問を投げかけたようだが、すぐに「そうだよな……」と、また力無く言葉を漏らした。
 どうやら、返ってきた答えは自分と同じものだと、琴葉は感じ取った。
 それと同時にチャイムが鳴り響き、二人は不意を付かれたのか、思わずビクッと身体を震わせた。
 窓から見える校舎に設置されている時計の針は、午後六時を刺していた。そして、下校の時刻になった事を報せる音楽と生徒達に下校を促すアナンスが流れる。
 時の経つ事も忘れて、すっかり話し込んでいた。こんなにも誰かと話していたのは、琴葉にとって初めてだった。
 自分にはルーラの声が直接聴こえなくても、男子と介してでも、もっと話していたかったが……。
「とりあえず、一度ここらでお開きにしますか……。突拍子も無く理解不能の事ばかりだったから、脳みそが疲れたよ」
 男子は、そうではなかったようだ。
「そ、そうですか……」
 名残惜しそうに、呟く。
―――これで終わり?―――
 琴葉は心に不安がよぎった。
 このまま終わったら、もしかして二度とこうやって話すことは無いのかも知れない。
 今日限りの対談になるかも知れない。
 そう考えると、より一層の不安が心に圧し掛かる。
―――また独りぼっちになる―――
 孤独の恐怖が蝕んでいく気持ちを振り切るかのように、自分の小さな勇気を振り絞った。
「あ、あの……。よければ、明日も、昼休みとかで、話し……に、付き合って、くれますか?」
 小さな勇気に見合った小さな声だった。
 その小さな勇気は―――
「ああ、いいよ」
 彼に届いた。
 男子は、その一言のみを発して、その場を立ち去って行く。
 あまりにも素っ気無く、さり気無い返答だったために、琴葉は安堵するよりも呆気に取られてしまった。
 そして用が済んだと、さっさと立ち去っていく男子。
 琴葉が呆然と男子の後ろ姿を見つめていると、もう一つ大切な事に気付き、慌てながら。
「あ、あの……待って、ください!」
 ついさっきよりも大きな声で呼び止めた。
「もう一つ……もう一つ、訊いても良いですか?」
「なんだ、ルーラにか?」
 琴葉は静かに首を横に振り、口を開いた。
 ルーラではなく、名も知らぬ男子に対して知りたかった事を訊ねた。
「あ、貴方の……名前は?」

     ***

「村上……勇哉、くんか……」
 いつもよりも夕闇が広がる帰り道。電信柱に備え付けられている街路灯が暗い道を照らし出していた。
 琴葉は、先ほど知ったことを復唱していた。
 自分から他人の名前を訊いたのは久しぶりだった。その所為なのだろうか、何となく慣れないザラつく感覚が、琴葉の心を覆っていた。
 そして、“ルーラ”という宇宙人であろう人物のことを思えば思うほど、いつに無くテンションが高くなっている事に気付いていた。
 今まで感じていた寂しい思いは、心の何処にも無い。
 自分が望んだ素晴らしい世界が始まったような気がした。
 そして琴葉は、歩きながら手をかざし、いつもの言葉をいつもより楽しく念じた。


 ハロー、ハロー……聞こえますか?
 ルーラさん。村上勇哉くん。
 私は、ココに居ます。
 アナタ達は、どこに居ますか?
 ハロー、ハロー……
 私の名前は、小此木琴葉と言います。
 聞こえますか?
 私の声が聞こえているのなら……。

 “ソラノコトノハ”と―――