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ソラノコトノハ~Hello World~

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 もっと話しを聞きたかったが、昼休みの終了を報せるチャイムが鳴り響いた。男子とまた会う約束をすると、校舎から遠く離れていた場所に居るため、男子が足早に校舎へ向かっていった。
「あ、そうだ、名前……」と、琴葉はボソッと声を掛けたが、その小さな声では走り去っていく男子には、琴葉の声は届いてないらしく、男子は足を止める事なく駆けていく。
 そこで琴葉は、そっと両手を空に掲げ、いつも以上に言葉を強く念じた。
(こ、これからも、よろしく!)
 すると男子は足を止め、振り向き様に、
「小此木! “これからも、よろしく!”な」
 既にかなり離れている琴葉に、充分聴こえるほど大きな声だった。
 琴葉の顔に嬉しさが溢れていた。
 “やっぱり、聞こえているんだ”と感得した。
 すぐにでも“よろしく”と言いたかったが、既に遠くにいる男子には、もう自分の声が届かないと思い、再び言葉を念じた。

“こちらこそ……よろしく”

 その声は、再び走り出していた男子に伝わったらしく、琴葉の方へ顔だけ振り返って見せた。だが男子は、そのまま足を止めず、自分の教室へと向かっていった。
 琴葉は、その立ち去っていく男子の後ろ姿をじっと眺め……。

―――ドキドキしている。
―――ワクワクしている。
―――いつ以来だろうか。
―――こんなにも心がワクワクしているのは。

 琴葉は二歩ほどスキップしてから、自分の教室へと傍目では走っているとは思えないスピードで向かっていった。
 そして、教室に辿り着くと同時に教師に怒られ、いつもとは違う理由でクラスの注目の的となったが、恥ずかしさよりも次の放課後を待ち望む気持ちで一杯だった。

     ***

 五時間目の数学の授業、六時間目の倫理の授業と琴葉は手につかず、その代わりにとルーズリーフには、ルーラへの質問事を書き溜めていた。
 早く時間が流れ過ぎれと、心に願いながら。
 しかし、そう願えば願うほど、残酷なことに時計の針が動くスピードは、いつもよりも遅く感じるものだった。
 それでも、ゆっくりと感じながらも確実に時は流れ去って行く。
 そして、念願のホームルームが終わると同時に、琴葉は珍しく教室をいの一番に飛び出した。
 廊下を駆けて行く途中で、只野穂乃香が琴葉の姿を目撃する。
「小此木さん?」
 琴葉が、廊下を駆ける姿なんて今まで見たことが無かった。その分、驚きと困惑が混ざりて、いったい何処へ行くのかと気になり、琴葉の後ろ姿を眺めた。
 すると琴葉の足が、ピタっと止まった。
 それは琴葉が、あの男子の教室を知らなかったからだ。それに、あの男子の名前も知らなかった。男子が語るルーラの声の方ばっかりに夢中になっていたのが、今ここで躓くことになる。
 琴葉は、どうしようと辺りをウロウロしつつ、とりあえず一階の階段辺りで、暫く待機することにした。まだホームルームが終わっていない教室が有ったからだ。
 遠目でそんな琴葉の様子を覗っていた穂乃香は、
「何しているのかしら、小此木さん……」
 と、気になったが、
「只野さん。何をしているの? 早く教室に行こう」
「あっ、うん……」
 穂乃香は後ろ髪を引かれながらも、隣にいたクラスメートに呼ばれ自分の教室へと戻っていた。

 「さぁて部活だ、部活」
 「ねぇ、明鈴堂に寄って行こうよ」
 やがて、他のクラスもホームルームが終わったらしく各教室から、これからの話しをしながら生徒が出て行く。そして琴葉は、あの男子を捜すために各教室をチラ見していった。
 それはまるで昨日の男子のようだなと、ふと思い出しながら。そして、三組の教室であの男子を見つけると、琴葉はそそくさと教室の出入り口に近寄る。
 しかし、入り口まで来たものの、そこで立ち止まってしまった。
 声を掛ければ良いのだが、琴葉は男子の名前を知らない。だから、呼ぶことが出来ないのだ。教室の中に入って、直接声を掛ければ良いのだが……。
 人見知りの琴葉にとって、今までそんな事をした事が無かったために、出入り口で右往左往するしかなかった。次々と教室から出て行く生徒にぶつからないように、静かに目立つこと無く避けつつ。
 すると、あの男子が琴葉の方に気付いたらしく、慌てて身支度を整えて教室を飛び出して来ると、男子がすれ違い様に「オレの後に付いて来てくれ」と囁いてきた。
 何事だろうと戸惑うも、男子は琴葉を置いてスタスタと先へと向かって進んでいく。琴葉は考えるまでも無く、男子の後を追いかけた。


 そして、北校舎四階の調理室の前までやって来た。
 なんで此処に来たのかは解らなかったが、ひとまずここで話すことになった。
 琴葉は、五時間目と六時間目に質問内容を書きまとめて四つ折にしたルーズリーフを鞄から取り出し、書いている質問は男子を仲介して、ルーラに質問を行った。
 名前は? 年齢は? 何処に住んでいるのか? などなど……。
 それらの質問の答えが、男子を介して返ってくる。返ってくる度に、琴葉は驚きを越えて呆然してしまう。
 男子の口を借りて話されるルーラの返答内容は、琴葉そして男子も今まで聞いたことが内容だったからである。
 そこは何処なのかと訊ねてみても、帰ってくる答えは、やっぱり聞いたことも無い地名。
 ルーラが語る内容は、嘘のようで、まるで夢のようで、空想めいた内容ばかりだった。あの男子は呆れていたけど、琴葉の胸は逆に高まっていた。
 そんなルーラとのやり取り中で、琴葉達はルーラが地球とは別の惑星の人……宇宙人だという事を信じないといけない雰囲気になっていた。
 しかし、むしろ琴葉にとっては、“それは”望んだことだった。

     ***

「アフィスって……どこのゲームの世界なんだよ」
 ルーラがアフィスという惑星に住んでいるといっても、いまだ信じられない男子は途方に暮れつつも、もはや淡々としていた。
「わ、私。す、すごく嬉しいです」
 溢れる想いが、琴葉の口から漏れる。
「嬉しい? 何で?」
 男子が不思議そうに訊く。
「そ、それは……。地球の人以外の人達に向けて、発していた言葉を……と聴いてくれる人が、本当にいたから……」
「そのお陰というか、その所為でオレの頭の中に、多分宇宙人であろう人物からの声が聞こえるという訳か……」
 男子が疲れた溜め息を吐くのを見て、琴葉は自分だけが喜んでいるのだと感じた。
「す、すみません。だけど、羨ましいです。そのルーラさんの声が、直接聞けて……」
「羨ましいって…。だったら、変わってあげられるのなら、変わってやりたいよ」
「えっ……あ……ご、ごめんなさい…」
 自分が望んだことは、全ては叶っていない。なぜなら……。
「ところで、何でルーラの声がオレに届いて、アンタに届かないだ? 元はアンタがキッカケなのに」
「わ、私に、聞かれても、解りません……ごめんなさい……」
 そう。なぜ、ルーラの声が直接自分に聴こえていないのだろう。
 琴葉は、それだけが引っかかっていた。
 そして、ルーラの声がこの人に届いているのだろう、この男子が……。
 そんな琴葉の悩みも露知らず、男子は力無くつぶやき、
「そうだよな……。試しにルーラに訊いてみるか……」