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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(3)~優しき悪魔~

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キャトルが少し顔をうつむかせ、考える風を見せた。
その時、ふとニバスの胸元に光るシルバーのネックレスに気づいた。

「…あ、綺麗なネックレス…」

キャトルが思わずそう言うと、ニバスがとたんに笑顔になった。

「綺麗でしょ!?…これね。俊介がくれたのー!」
「え!?そうなんだ!…あ、そう言えば、浅野、シルバー好きだったな。」
「僕の宝物なの。」
「そう…本当に浅野のこと好きなんだー。」
「うん!」

ニバスは嬉しそうに言った。が、ふと心配そうに言った。

「そういえば…君はどうして魔界にいたの?」
「あっ!そうそう!リュミエル探してたの!」
「リュミエル…って、神様の恩赦を受けて天使に戻った…」
「そうそう!…最近、姿が見えなくて…探してたら、魔界に落ちてたの。」

ニバスが人差し指を額に当て黙り込んだ。

「ニバス?」
「待って…」
「うん。」

キャトルはチュチュの裾を持って、回すような動きをした。…じっとしているのが性に合わないようだ。
ニバスが指を下ろして言った。

「気が散るからやめて。」
「目塞いでてもわかるの?」
「気配でわかる。」
「ふぁい。」

キャトルは気をつけをして、じっとした。
ニバスは苦笑しながら、再び人差し指を額に当てた。
しかし、しばらくしてニバスが急に指を下ろした。

「ニバス?わかったの?」

キャトルがニバスに言った。

「…大変だ…」
「!?…どうしたの?」
「やられてる。」
「!?…やられてるって!?」
「…かなり長い間いたぶられてるよ。…どうして今までほっといたの?」
「!!」

キャトルは下を向いた

「…私が悪いの…。」

そのキャトルの言葉にニバスがため息をついた。意味はわからないが、今、ゆっくり話を聞いている場合じゃない。

「…僕が助けに行ってくる。」
「ニバスだけで行くの!?私も行く!」
「だめだよ。天使の君が来たらややこしくなるから。」

キャトルがニバスにそう言われ、しゅんとした。

「わかった…」
「…ここで待ってて。こっちの時間で10分で戻ってくるから。」

キャトルが涙ぐみながらうなずくと、ニバスの姿が消えた。

……

キャトルはその場に膝を抱えて座り込み、ニバスが帰ってくるのを待っていた。10分はとっくに経過している。

「ニバス…手こずってるのかな…。大丈夫かなぁ…。」

キャトルはそう呟いて、膝に顔を伏せた。
その時、何かが飛んでくる気配を感じた。

「!!」

キャトルが立ち上がると、目の前に高いところから落ちたような状態で、ニバスとリュミエルが姿を現した。
ニバスの体はなんともないようだが、リュミエルの体が傷だらけになっている。羽までもボロボロになっていた。

「リュミエル!!」

キャトルが、倒れ込んだリュミエルにかぶさるようにして見た。いつもの美しい顔がかなり歪んでいる。
ニバスはその場に座り込み、息を切らして言った。

「誰にもわからなかったはずだよ。」
「どういうこと!?」
「悪魔の中でも侯爵級の悪魔に監禁されてたんだ。その上、逆さ吊りにされて斧で傷つけられて…。」
「じゃ…今までずっと!?」
「うん。よく今まで耐えられたもんだよ。」

その時、リュミエルが唸り声を上げた。

「大変!…ニバス、どうしよう…!私にはこの傷治してあげられない…」
「そうだね…。こいつ自身でも無理そうだ…。」

下級悪魔のニバスには、他人の怪我を治癒させる力は持っていない。

「このままじゃ、死んじゃう…」

キャトルが泣きだした。
その時、天使アルシェがリュミエルのオーラを察知し、血相を変えて姿を現した。

「リュミエル!!」

キャトルがアルシェに抱きついた。

「どうしよう…どうしよう…リュミエル死んじゃう!!」
「……」

アルシェもリュミエルの姿を見て、リュミエルが危ないことを悟った。人間でいうと「重症」を超えた「重体」だ。

「…すまんリュミエル…。まさかお前がやられるなんて思ってなかったから…」

リュミエルは体を起こされながら、アルシェの言葉に首を振って言った。

「マスター(圭一)には…言ってないだろうな。」
「もちろんだ。」

アルシェがそう言うと、リュミエルはほっとした表情をした。
ニバスは、いつの間にか姿を消していた。

……

天使アルシェの人間形「浅野」の自宅のベッドで、リュミエルは眠り続けていた。アルシェができる限りの気を送ったが、傷が治癒するまでにはいかなかった。
うわべに見える傷すら消えない。アルシェもベッドの下で体を横たえている。起き上がることもできなかった。
キャトルも気をあげたかった。だが、アルシェに「今、圭一君が襲われたら助ける者がいなくなるから」と言って、キャトルには何もさせなかった。

キャトルは目を指でこすりながら、リュミエルの傷ついた顔を見ていた。
突然、キャトルは驚いたように顔を上げた。

「パパ!」

それと同時に、インターホンが何度も鳴った。
キャトルはぎゅっと目を閉じた。
すると、圭一がベッドの傍に現れた。

「!!…リュミエル!」

圭一がリュミエルに伏せるようにして言った。

「リュミエル…リュミエル!…どうして…こんな…」

圭一が泣き出した声を聞いて、アルシェが目を覚ました。

「圭一君!どうして!?」
「…夢を…夢を見たんです。…リュミエルが…消えていく夢…」

圭一の震える声に、キャトルとアルシェは驚いた。

「リュミエル!!目を開けて…!お願い…」

圭一が泣きながら言った。
リュミエルが目を少し開いた。

「!リュミエル!」
「マスター…」

リュミエルが圭一に向いた。

「ごめん、リュミエル!気がつかなくてごめんよ…もっと早く気がついていたら…リュミエル…こんなことにならなかったのに…」

リュミエルは首を振っている。

「しっかりして…リュミエル…」

圭一が涙声でそう言った時、リュミエルの姿が消えかかっていることに気付いた。

「リュミエル!?…だめだ!消えないで!!」

圭一が声を上げた。アルシェが驚いて必死に体を上げた。
リュミエルの体が透けていた。

「!!くそ…!…このままじゃ本当に…」

アルシェがベッドにしがみつくようにして、立ち上がった。

「リュミエル!いいか…あきらめるな!」
「アルシェ!やっぱり私の気を…」

キャトルがそう言ったが、アルシェは首を振った。

「だめだ!天使になりたてのお前の気を使ったら、お前が死んでしまう!」
「!!」

キャトルは泣き出して、その場に座り込んだ。

「圭一君、どいてくれ。…俺がなんとかする。」

アルシェが言った。圭一は泣きながらリュミエルから離れた。

『僕に任せて!』
「!?」

急に甲高い男の声がした。
キャトルが驚いて顔を上げた。ニバスの声だ。
その時、強い光が部屋を満たした。
そして徐々に消えていった。圭一が目をゆっくり開くと、リュミエルの姿がはっきりしたものになっていた。体の傷も消えている。

「リュミエル…良かった…!」

圭一は、リュミエルの頭を抱いた。

キャトルは辺りを探すように見渡した。

「ニバス!?ニバスどこっ!?」
「ニバス!?」

アルシェが驚いた。