銀髪のアルシェ(3)~優しき悪魔~
「パパ!はいあーん!」
少女天使形のキャトルに言われて、北条(きたじょう)圭一は口を開けた。
少女キャトルはスプーンを圭一の口に入れた。圭一はそのスプーンをくわえた。
「パパっ!離してっ!」
少女キャトルがキャッキャッと笑いながら、スプーンを必死に抜こうとした。圭一はふざけて離さない。
…しばらくして圭一はスプーンを離した。
そして、口の中のオムライスをもぐもぐと食べた。
「おいしいぃ?」
少女キャトルが首を傾げて言った。圭一はニコニコとしながら、うなずいた。
「…そりゃ、娘が作った物はなんでもうまいだろうよ。」
天使アルシェの人間形「浅野俊介」がリビングのソファーで、クラシック音楽の雑誌をめくりながら言った。
「なんで俺んちで、いちゃいちゃするかなぁ…」
浅野がぶつぶつと文句を言っている。
言いながら、少女キャトルをふと見た。
「!?…あれ?キャトル?」
いきなりの甲高い声に、少女キャトルは浅野の方を見た。
「何?浅野?」
浅野は「呼び捨てかよ」と苦笑しながら呟き、キャトルに言った。
「お前、耳なんてあったか?」
「あ、これ?」
キャトルが頭の上にある、猫の耳を両手でつまみながら言った。
「さっき大天使様のところへ、ムチのお礼を言いに行ったらね、私の顔を見て「忘れてるっ!!」っておっしゃって、この耳をつけてくれたの。」
浅野はまた苦笑した。大天使の趣味がはっきりとわかる。
「せっかく猫の生体を持っているんだから、天使形にも猫耳つけなきゃって。」
「かわいいよ。キャトル。」
「ありがとー、パパー!」
少女キャトルは、ほめる圭一の口にちゅっとキスをした。圭一も慣れたように受けている。
浅野が驚いた。
「!!?キャトル!天から落とされるぞ!」
「あら、大天使様はこれくらい大丈夫って言ってたよ???」
「え!?」
「親子愛の範囲なら大丈夫って。」
「…あっそ…」
もうどうでもよくなった浅野は、また雑誌に目を落とした。
だが、正直全く頭に入っていない。
(リュミエルが最近来てないなぁ…)
浅野は少し不安を感じていた。
……
「…そう言えば…」
バーで洗い物をしながら、圭一が浅野の言葉にはっとした表情をした。
「…リュミエル…最近来てなかったですね…」
「こっちの時間で3日は見てないよな…」
浅野が圭一が洗った物を拭きながら言った。
浅野はこれまでも何度か交信を試みたが、交信にひっかからなかった。交信にひっかからないのは、本人が拒否している場合がほとんどである。魔界の果てに閉じ込められている場合もあるが、それはないだろう。
「いつも1日に1回は俺んちに来てたんだけどな…。」
「……」
圭一の手が止まり、目が一点を見つめている。
浅野はそれに気づかずに、洗ったばかりのグラスを取りあげ、拭きながら言った。
「…もしかしてさぁ…キャトルに嫉妬してんじゃないかなぁ…」
「!!」
圭一が驚いた表情で、浅野を見た。浅野は後ろを振り返ってグラスを棚に入れた。
「…そんな…」
「圭一君、今度リュミエルが来たら、相手してやってよ。」
「…ごめんなさい…」
「いや、俺はいいんだけどさ。…あーっ!また泣くー!」
圭一が涙ぐんでいるのを見て、浅野は慌てて辺りを見渡した。
「って…あれ???…いつもなら怒りながら出てくるのにな…」
圭一が泣いた時は、リュミエルはいつも姿を現した。…しかし、今は現れる気配もない。
圭一は涙を手の甲で拭った。
「…そう言えば…キャトルにだけ構ってて…」
「それは仕方ないとは思うけど。…正直、そのことで本当にリュミエルが嫉妬してたら…おとなげないような気もするけど。」
「……」
圭一は洗い物の手を止めたまま、動かなくなった。
……
その夜-
圭一は、自室のベッドで膝を抱えて座り、窓から空を見上げていた。
何度もリュミエルに呼びかけるが、現れる気配がない。
(リュミエル…怒っちゃったのかな…)
圭一は下を向いてため息をついた。
ベッドで丸くなって寝ていたキャトルが顔を上げて「にゃあ」と鳴いた。
「ん?寝てていいよ。…リュミエル待ってるだけだから。」
キャトルは再び丸くなった。すると天使形のキャトルが姿を現し、ベッドの縁に座った。
「パパ…明日お仕事あるんでしょ?体壊しちゃうよ。」
「うん…」
「リュミエル怒ってないって。キャトルは、リュミエルがそんな人じゃないと思うけどな…」
「そう?」
少女キャトルはうなずいた。
「浅野が考えすぎなんだって。」
「でも…どうして交信を切ってるんだろう?」
「ん~…ちょっと私、天界へ行ってみる!」
少女キャトルがそう言って、ベッドから立ち上がった。圭一が慌ててそのキャトルの腕を取った。
「いいよ、キャトル!きっと何か理由があるんだろうし…」
「だって…」
「わかった。パパも寝るから…キャトルも寝よう。」
「…うん…」
圭一がブランケットの中に潜り込んだのを見て、少女キャトルは姿を消した。
子猫に戻ったキャトルはひとつあくびをして、再び丸くなった。
圭一はそれを見て微笑むと、キャトルを撫でながら眠りに落ちた。
「……」
キャトルは顔を上げた。
「にゃあ?」
そう鳴いてみたが、圭一は眠りこんでいる。キャトルがさり気なくかけた魔術が効いたようだ。
キャトルがまた丸くなると、天使形のキャトルが姿を現した。
「よし、リュミエル捜索にしゅっぱーつ!!」
独りそう意気込んで、少女キャトルの姿が消えた。
……
「やば…」
少女キャトルは、辺りを見渡した。
天界じゃない。魔界に降りてしまっている。リュミエルのことを思いながら瞬間移動したのに…と、キャトルは不思議に思った。
「…まさか…リュミエル…」
キャトルは最悪の事態を思い浮かべて、頭を振った。
「…違うよね…もう天使なんだから魔界に閉じ込められるなんて…。」
『君はばかか!』
「いきなりばかとは何よ!ばかとは…痛ーっ!!」
キャトルはいきなり声をかけられたと思ったとたん、腕を掴まれた。
……
キャトルは、人間界の埠頭に転送させられていた。
そして、自分の腕を掴んでいる男を見た。
「ピエロさん?」
キャトルが男の姿を見て言った。
道化師の格好をし、目はスカーフで覆われている。
「うん。道化師のニバスっていうんだ。」
「私はキャトル。よろしくね。」
「よろしく。」
「あなたも悪魔よね?…どうして私を助けてくれたの?」
「だってぇ…。なんか俊介の匂いがするんだもん。」
「俊介って浅野のこと!?浅野のこと知ってるの!?」
「知ってるよ。…でも俊介…生体なくなって、完全な天使になっちゃったんだってね。」
ニバスは唇を噛んで泣きだした。
「やだっ!どうしたの急にっ!男が泣いちゃだめよ!!」
「うんっうんっ」
ニバスが何度もうなずいた。
「僕、下級の悪魔だから…俊介に会えないんだ…。」
「会ったらどうなるの?」
「会ったら…僕…消滅しちゃう…」
「えっ!?そうなの!?」
「消滅するのは別にいいけど…俊介の顔見れないで消滅するのいやだ…」
「…そうよね…」
少女天使形のキャトルに言われて、北条(きたじょう)圭一は口を開けた。
少女キャトルはスプーンを圭一の口に入れた。圭一はそのスプーンをくわえた。
「パパっ!離してっ!」
少女キャトルがキャッキャッと笑いながら、スプーンを必死に抜こうとした。圭一はふざけて離さない。
…しばらくして圭一はスプーンを離した。
そして、口の中のオムライスをもぐもぐと食べた。
「おいしいぃ?」
少女キャトルが首を傾げて言った。圭一はニコニコとしながら、うなずいた。
「…そりゃ、娘が作った物はなんでもうまいだろうよ。」
天使アルシェの人間形「浅野俊介」がリビングのソファーで、クラシック音楽の雑誌をめくりながら言った。
「なんで俺んちで、いちゃいちゃするかなぁ…」
浅野がぶつぶつと文句を言っている。
言いながら、少女キャトルをふと見た。
「!?…あれ?キャトル?」
いきなりの甲高い声に、少女キャトルは浅野の方を見た。
「何?浅野?」
浅野は「呼び捨てかよ」と苦笑しながら呟き、キャトルに言った。
「お前、耳なんてあったか?」
「あ、これ?」
キャトルが頭の上にある、猫の耳を両手でつまみながら言った。
「さっき大天使様のところへ、ムチのお礼を言いに行ったらね、私の顔を見て「忘れてるっ!!」っておっしゃって、この耳をつけてくれたの。」
浅野はまた苦笑した。大天使の趣味がはっきりとわかる。
「せっかく猫の生体を持っているんだから、天使形にも猫耳つけなきゃって。」
「かわいいよ。キャトル。」
「ありがとー、パパー!」
少女キャトルは、ほめる圭一の口にちゅっとキスをした。圭一も慣れたように受けている。
浅野が驚いた。
「!!?キャトル!天から落とされるぞ!」
「あら、大天使様はこれくらい大丈夫って言ってたよ???」
「え!?」
「親子愛の範囲なら大丈夫って。」
「…あっそ…」
もうどうでもよくなった浅野は、また雑誌に目を落とした。
だが、正直全く頭に入っていない。
(リュミエルが最近来てないなぁ…)
浅野は少し不安を感じていた。
……
「…そう言えば…」
バーで洗い物をしながら、圭一が浅野の言葉にはっとした表情をした。
「…リュミエル…最近来てなかったですね…」
「こっちの時間で3日は見てないよな…」
浅野が圭一が洗った物を拭きながら言った。
浅野はこれまでも何度か交信を試みたが、交信にひっかからなかった。交信にひっかからないのは、本人が拒否している場合がほとんどである。魔界の果てに閉じ込められている場合もあるが、それはないだろう。
「いつも1日に1回は俺んちに来てたんだけどな…。」
「……」
圭一の手が止まり、目が一点を見つめている。
浅野はそれに気づかずに、洗ったばかりのグラスを取りあげ、拭きながら言った。
「…もしかしてさぁ…キャトルに嫉妬してんじゃないかなぁ…」
「!!」
圭一が驚いた表情で、浅野を見た。浅野は後ろを振り返ってグラスを棚に入れた。
「…そんな…」
「圭一君、今度リュミエルが来たら、相手してやってよ。」
「…ごめんなさい…」
「いや、俺はいいんだけどさ。…あーっ!また泣くー!」
圭一が涙ぐんでいるのを見て、浅野は慌てて辺りを見渡した。
「って…あれ???…いつもなら怒りながら出てくるのにな…」
圭一が泣いた時は、リュミエルはいつも姿を現した。…しかし、今は現れる気配もない。
圭一は涙を手の甲で拭った。
「…そう言えば…キャトルにだけ構ってて…」
「それは仕方ないとは思うけど。…正直、そのことで本当にリュミエルが嫉妬してたら…おとなげないような気もするけど。」
「……」
圭一は洗い物の手を止めたまま、動かなくなった。
……
その夜-
圭一は、自室のベッドで膝を抱えて座り、窓から空を見上げていた。
何度もリュミエルに呼びかけるが、現れる気配がない。
(リュミエル…怒っちゃったのかな…)
圭一は下を向いてため息をついた。
ベッドで丸くなって寝ていたキャトルが顔を上げて「にゃあ」と鳴いた。
「ん?寝てていいよ。…リュミエル待ってるだけだから。」
キャトルは再び丸くなった。すると天使形のキャトルが姿を現し、ベッドの縁に座った。
「パパ…明日お仕事あるんでしょ?体壊しちゃうよ。」
「うん…」
「リュミエル怒ってないって。キャトルは、リュミエルがそんな人じゃないと思うけどな…」
「そう?」
少女キャトルはうなずいた。
「浅野が考えすぎなんだって。」
「でも…どうして交信を切ってるんだろう?」
「ん~…ちょっと私、天界へ行ってみる!」
少女キャトルがそう言って、ベッドから立ち上がった。圭一が慌ててそのキャトルの腕を取った。
「いいよ、キャトル!きっと何か理由があるんだろうし…」
「だって…」
「わかった。パパも寝るから…キャトルも寝よう。」
「…うん…」
圭一がブランケットの中に潜り込んだのを見て、少女キャトルは姿を消した。
子猫に戻ったキャトルはひとつあくびをして、再び丸くなった。
圭一はそれを見て微笑むと、キャトルを撫でながら眠りに落ちた。
「……」
キャトルは顔を上げた。
「にゃあ?」
そう鳴いてみたが、圭一は眠りこんでいる。キャトルがさり気なくかけた魔術が効いたようだ。
キャトルがまた丸くなると、天使形のキャトルが姿を現した。
「よし、リュミエル捜索にしゅっぱーつ!!」
独りそう意気込んで、少女キャトルの姿が消えた。
……
「やば…」
少女キャトルは、辺りを見渡した。
天界じゃない。魔界に降りてしまっている。リュミエルのことを思いながら瞬間移動したのに…と、キャトルは不思議に思った。
「…まさか…リュミエル…」
キャトルは最悪の事態を思い浮かべて、頭を振った。
「…違うよね…もう天使なんだから魔界に閉じ込められるなんて…。」
『君はばかか!』
「いきなりばかとは何よ!ばかとは…痛ーっ!!」
キャトルはいきなり声をかけられたと思ったとたん、腕を掴まれた。
……
キャトルは、人間界の埠頭に転送させられていた。
そして、自分の腕を掴んでいる男を見た。
「ピエロさん?」
キャトルが男の姿を見て言った。
道化師の格好をし、目はスカーフで覆われている。
「うん。道化師のニバスっていうんだ。」
「私はキャトル。よろしくね。」
「よろしく。」
「あなたも悪魔よね?…どうして私を助けてくれたの?」
「だってぇ…。なんか俊介の匂いがするんだもん。」
「俊介って浅野のこと!?浅野のこと知ってるの!?」
「知ってるよ。…でも俊介…生体なくなって、完全な天使になっちゃったんだってね。」
ニバスは唇を噛んで泣きだした。
「やだっ!どうしたの急にっ!男が泣いちゃだめよ!!」
「うんっうんっ」
ニバスが何度もうなずいた。
「僕、下級の悪魔だから…俊介に会えないんだ…。」
「会ったらどうなるの?」
「会ったら…僕…消滅しちゃう…」
「えっ!?そうなの!?」
「消滅するのは別にいいけど…俊介の顔見れないで消滅するのいやだ…」
「…そうよね…」
作品名:銀髪のアルシェ(3)~優しき悪魔~ 作家名:ラベンダー