クリスマス・ベルを鳴らすのは...
クリスマス当日はいつもより盛況だった。
ひっそりとあるこの喫茶店は常連客が多い。その人たちはみんな、今日は店からのクリスマスプレゼントがあることを知っている。
俺はいつもどおりの仕事に加えて、メリークリスマスといいながらケーキを頼んでくれたお客様にサービスでクリスマスの限定のドリンクをつける。
予想通りの、大好評。
店長が一生懸命考えたんだから、当たり前だ。
実は、俺の意見もちょこっとだけ反映されてる。
店長がドリンクのデザインに悩んでるときに、『葉っぱとかで緑入れたらクリスマスらしくなるんじゃないですか?』って誰にでも言えそうなことを言っただけだけど。
あまりの忙しさに、ドアにかかるプレートを『CLOSE』に変えることができたのは、いつもより2時間近くも後だった。
それから、テーブルを片付けたり、食器を洗うのを手伝ったりしているうちにもう日付が変わる時間。
「湯浦くん、お疲れ様。ありがとうね」
「いえ、店長もお疲れ様です」
「これから、何か予定あるのかな?」
「まさか。真っ直ぐ帰って寝るだけですよ」
一緒に過ごす相手もいません、とつけ加える。
「そっか」
俺の話に相槌をうって、そうやって優しく微笑むあなたのことが好きだから。
「今日のあまりでよかったら、何か食べていかない?軽食とデザートしかないけど。今日バイトに入ってくれたお礼」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。じゃあ、準備するね」
キッチンの方へと姿が消える。
「あ、手伝います」
「いいから、座ってて」
クリスマスの飾りが見渡せる一番いい席に座らされた。
各座席にもクリスマスの装飾がされているけど、その期間ももう終わり・・・。
華やかな装飾を見ることもしばらくなくなって、明日からはまたシックな雰囲気の店内に戻る。
「お待たせ、どうぞ」
テーブルの上には、メニュー一覧が並べられてた。
「え、こんなにいんですか?」
「いいよ、俺からのクリスマスプレゼント」
「やった!最高のクリスマスプレゼントです!」
「よかった。あ、それとまだデザートもあるからね」
いつものメニューなのに、少しだけクリスマスアレンジが加えられてるものもある。
それもあって感動は倍増。
「湯浦君は何歳だっけ?」
「20歳は超えてないけど酒は飲めます!」
「そう言うと思った」
笑いながらそう言って、もう一度キッチンへ。
お盆にシャンパンとグラスを載せて帰ってきた。
「お酒は今日だけだよ?」
「はーい」
明らかにその場しのぎの返事。それがわかっていて苦笑いされる。
向かいに座った店長がグラスにシャンパンを注いでくれた。
グラスを持ち上げて、メリークリスマスと乾杯。
シャンパンは甘めなカクテル調のもの。
長時間働いてて、当然腹が減ってるわけで、クリスマスらしい雰囲気なんてどこへやら。しばらく店のメニュー現物一覧を食べ続けた。
作品名:クリスマス・ベルを鳴らすのは... 作家名:律姫 -ritsuki-