CROSS 第9話 『名誉の戦死』
佐世保が出ていった後もしばらくの間、山口とヘーゲルはこの救
助作戦について話し合っていた。そして、作戦会議が終わり、二人
は指揮官室を出た。ヘーゲルは後方支援の陣地へ、山口は直接任務
を行なう救助部隊の編制をするために兵営へと向かった。
山口が兵営へと向かうために、あの辻が落下した長い階段を降り
ていると、階段の踊り場に犬走椛が立っていた。
「山口少佐、今なら取材してもいいでしょうね?」
犬走椛が言った。山口はあきらめた様子で、
「いいよ。ただし、移動しながらで」
そう言うと山口は犬走椛を通り過ぎていった。
「わかりました」
足元に気をつけながら、犬走椛はポケットからメモ用紙とボールペ
ンを取り出した。
「最初にお聞きしたいのは、私たちの国で開かれる評議会の公聴会
への出席をなぜ拒否したのですか?」
「さっきのような「思いがけない出来事」が起こることもあるから、
戦場を離れることができないためだよ」
「……なるほど、次にその「思いがけない出来事」についてですが」
「さっき言ったようにいきなりだったから、対処できなかったんだ
よ」
ここで犬走椛は深呼吸してからおそるおそると、
「階段の上のほうに「死体があった跡」がありましたが?」
「…………」
山口はしばらく黙っていたが、
「それはほら、誰かが死体を片付けた跡だろ?」
「いえ、死体を片付けるときは、汚れが残らないように掃除してい
るんですよ」
「……ふーん、それは初耳だ」
「……おそらく、「そのことを知らない誰か」が死体を動かしたん
でしょうね?」
「…………」
「辻中佐を襲った奴隷兵の死体から少し魔力が感じられました」
そこで山口は腕時計をチラリと見てから、
「すまない。忙しいからこれで失礼する!」
山口は一気に階段を駆け降りていった。
「その「死体があった跡」とその奴隷兵の死体からは、全く同じに
おいがしました!」
犬走椛は自分の鼻を指さしながら、階段を駆け降りていく山口に叫
んだ。しかし、山口は聞こえないフリをしているのか、さっさと行
ってしまった……。
「……逃げられちゃった」
犬走椛はつぶやいた。
作品名:CROSS 第9話 『名誉の戦死』 作家名:やまさん