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CROSS 第9話 『名誉の戦死』

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 山口は両手をバッと下げた。すると、辻の後ろにあった奴隷兵の
死体が急に起き上がり、辻に後ろから襲いかかった。
「ウワァァァァァ!!!」
辻は悲鳴を上げながら、腰のホルスターからピストルを抜いた。銃
口をその奴隷兵に向けようとしたが、争っているうちにピストルを
落とした。ピストルが階段を転げ落ちていった。奴隷兵は無言で辻
につかみかかっていた。
「なんのつもりだ!!!」
辻は奴隷兵と格闘しながら山口に言った。山口はこれ以上ないほど、
ニヤリとした……。
「ぜひ、辻中佐殿に「名誉の戦死」を遂げてもらいたいと思いまし
 てね」
「な…なに!!!」
辻と奴隷兵は階段の端から落ちそうになっていた。この長い階段に
は手すりなんか無かった……。
「それでは、辻中佐。靖国で会いましょう。さようなら」
山口がそう言った瞬間、辻は奴隷兵とともに下へ下へと落下してい
った。山口は落ちていく辻たちを上から眺めながら、
「中佐〜!!!」
わざとらしく叫んだ……。

   グシャッ!!!

 数秒後、柔らかい物が砕け散るような音が、はるか下から響いて
きた……。
「辻中佐、万歳」
山口は静かにそうつぶやくと、階段を早足で駆け降りていった。



 階段の一番下にあるスペースに、辻がこっぱみじんにブッ飛んだ
状態で転がっていた。いっしょに落下した奴隷兵もこっぱみじんに
なっており、衝撃で辻の身体にめりこんでいた。辻も奴隷兵も、微
動たにしなかった……。
 そこに、何ごとからと、兵士や隊員たちが集まってきた。犬走椛
は無言で写真を取り始めた。衛生兵が辻の容態を確認したが、首を
横に振るだけだった。
 しばらくして、山口が息を切らせながら階段を駆け降りてきた。
「そいつが急に襲いかかってきた」
山口はわざと悔しそうに集まった兵士たちに言った。兵士たちの間
から、山口を責める声は上がらなかった。CROSS隊員は心の中
でガッツポーズをとっているのがわかった……。
 ただ、犬走椛は、奴隷兵の様子を調べながら、疑心に満ちた目つ
きで山口を見ていた。それに気づいた佐世保は、近くの兵士に命じ、
犬走椛を「事故現場」から離れさせた……。
 山口は、近くの通信担当の兵士を呼び出し、この出来事を司令部
へ伝えるのと、孤立している一木中隊へ連絡を取るように言った。



 しばらくして、基地中の放送スピーカ−から、
「えーと、辻中佐が名誉の戦死を遂げられた今、今後は少佐である
 私が、臨時で指揮を取ることになった」
山口は放送室から基地中に呼びかけた。兵士たちの間で、混乱が起
きたりすることはなかった。そういう人事異動には慣れてるらしい。
ただ、CROSS隊員からは歓声が上がっていた。それを犬走椛が
冷めた表情で見ていた……。