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CROSS 第9話 『名誉の戦死』

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第2章 暗殺



 指揮官室は小さな講堂のような部屋を改装してつくられていた。
天井も壁も床も石でできており、厳かなつくりになっていた。
 だが、雰囲気は、指揮官席にいる男のせいで台無しだった……。
その男は、辻中佐という現在の駐屯部隊の指揮官だった。彼は、か
つては、大事な式典で使われていたと思われる木製の机に足を乗せ
てふんぞり返っていた……。エリート官僚みたいな風貌をしていた。
 指揮官室に入った山口は、始めその光景に唖然としたが、すぐに
伝えてやらなければならない件を思い出したようだ。
「辻中佐。アバーナシー司令官からの「大事な手紙」には目を通し
 ていらっしゃいますよね?」
「フン!!!」
辻中佐は、ふんぞり返って鼻を鳴らした……。
「単刀直入に言います。あなたの突撃戦法をやめてほしい」
「ハハッ!!! ほんとに最近の若者や女はうるさいな」
「……今、何ですって?」
「ガキや女は黙って大人の男に従っていればいいんだよ!!! そ
 もそもなんで、ガキや女が出世してるんだ?」
「……古い人だな」
山口がかわいそうな人を見る目つきで辻にそう言った。それに辻は
即座に反応し、
「貴様、上官に向かってタメ口を使うとは何事だ!!! 私は陸軍
 本部の作戦参謀でもあるのだぞ!!!」
辻は顔を真っ赤にさせていた……。山口は心の中で、「一つ階級が
上なだけだろがおっさん」と思った……。
「失礼しました」
山口は素っ気無く謝った。
 そのとき、指揮官室の前にいた警備の兵士がドアから顔をのぞか
せた。
「ノックせんか馬鹿者!!!」
辻はその兵士に怒鳴った。兵士は「すいません」と言うと、ドアを
閉めた。
「……それで、他に言うことはあるかね?」
辻はコップに入ったコーヒーを飲んで落ち着いてから山口に聞いた。
山口は、電子ボード(ホワイトボードの未来版)上の作戦地図のあ
る地点を指さした。基地から少し離れた位置で、そこは濃霧に包ま
れているはずの所だったが、一個中隊がいるという表示がしてあっ
た。
「ここに、一木中隊という部隊が孤立していますが、どうするおつ
 もりですか?」
辻は、孤立部隊の表示と山口の顔とを見てから、下品に微笑んだ…
…。
「どうする? 救援部隊でも送るつもりか?」
「……そういうことです」
辻は大笑いした。
「貴様は変な奴だな! だから士官学校をワースト3の成績で卒業
 する羽目になるんだ!」
山口は黙って笑う辻を見届けていたが、やがて、そのまま指揮官室
を後にした。部屋を出たところで、さっき辻に怒鳴られた兵士と目
が合ったが、兵士はすぐに視線をそらして敬礼した。山口は無言で
歩き始めた。