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コミュニティ・短編家

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お題・異国


「なぜマッチを擦ったのにゴマが出てくるんだ!」
 苛々とする己を必死で押さえながら俺は尋ねた。
「ココハ異国ダカラネ」
 男はにこやかに答えた。俺の苛立ちはその答えを聞くことでより一層強くなった。もしかしてこいつは俺を“怒らせる”ためだけにこんな口のきき方をしているのではないだろうか。
 そうやっていぶかしんでもおかしくない位に男の答えはさっきからその一本調子だったのだ。
「それにしても冷えるな。あぁ火が欲しい。ほんの僅かでもいいんだ。マッチがだめなら何か他の…代用品はないのか」
 俺は半ば哀願するようにして言った。しかしそんな俺の態度を見ても相変わらず男はにやにやと笑ったままだった。初めて出会った日から今日まで、俺はこの男のにやにや笑い以外の顔をまだ見たことがなかった。
「ココハ異国ダカラネ」
「異国だからなんだってんだ!お前たちは寒くないのか?」
「ココハ異国ダカラネ」
 つまり「ここは“お前”にとっては異国だから寒く感じているだけで俺たちは平気なのだ」と男は言いたいのだ。だったらそう言えば良いのに男はただ一言「異国ダカラネ」で片付けてしまう。そうやって俺の部外者意識を深めて精神的に追いつめようという魂胆があるのだろうか。そんな疑心暗鬼に陥りそうになるほどに俺は事実追いつめられていた。
「…火が無いなら何か被るものをくれないか。毛布とか上着とか、何でもいい」
 男は俺の溜め息まじりの頼みを聞くと途端に「バーミバーミ」と訳のわからない呪文を唱え始めた。するとどこからともなく一人の美しい女が現れた。女はこの国でよく見かける褐色の瞳と髪を持ち、ぱしぱしと長い睫毛をしばたかせ俺にすりよってきた。女はほとんど裸同然と言ってよい程のぺらぺらの布一枚をまとっているだけであった。
 俺は思わず隣に座るこの異国の男と同じ様ににやりとした。俺が求めた温もりはそういった類いのものではなかったのだが、裸同然の美女にすりよられて喜ばない男はそういないだろう。俺はそのまま美女の滑らかにくびれた腰に手をまわした。美女の温もりが体に伝わる。美女は俺を誘う様にその美しい顔を近づけてきた。俺はその誘いに応じ、そっとキスをした。途端に美女はバナナになった。
「なんでだ!なんでだ!なんでだよう!」
 俺はもう泣いていた。こんなことってないだろう。
「ココハ異国ダカラネ…」
 男は初めてすまなさそうな顔になった。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁