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コミュニティ・短編家

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お題・梅雨明


本日はお日柄もよく、…本当によかったですよね。
ちょうど梅雨明けも重なって昨日までの大雨が嘘のようです。
さて、新郎側の友人代表としてこの場に立たせていただいたわけですが、私研さん、…せっかくですので呼び慣れた研ちゃん、と言わせていただきましょう…研ちゃんの友人ではありません。
というのも、"幼馴染み"と言ってしまえばそれまでなのですが、研ちゃんと私は九つも歳が離れているので友人と言っては烏滸がましい様な気がしてしまうのです。

…研ちゃんには本当にたくさん、たくさんお世話になりました。
私は一人っ子で甘やかされ放題。
研ちゃんは同じ一人っ子だったのにおじさんおばさんが共働きだったせいか小さな頃からとても大人びた少年でしたね。
そしてとってもクールでした。
けれど、私は研ちゃんと一緒にいるのが大好きでした。

研ちゃんは覚えているでしょうか?…私が6歳、研ちゃんが15歳だった時の話です。
その日は朝からずっと雨が続いていました。
私は研ちゃんの家の縁側で寝転がりながらビーズの首飾りを作っていました。
研ちゃんはその隣で難しい顔をしながら何か本を読んでいましたよね。
今と変わらず飽き性だった私はすぐにビーズを放り投げると、本を覆うようにして研ちゃんの顔を覗きこみました。
研ちゃんはちっとも表情を変えずに言いましたね。

「邪魔。」

私は私で決してめげることなく言いました。

「けんちゃんあそんだげるよ。けんちゃんいまつまんないかおしてたもん。」

つまらないのはお前だろうそして遊んでやるのは俺だと多感な時期の研ちゃんは言ってもよかったのですが決してそんなことは言いませんでしたね。
研ちゃんは代わりにこう言いました。

「何がしたいの」

私は答えます。

「おたからさがし!」

おたから探しとは当時私の中で流行っていたゲームでした。
それはまずおたからを作製することから初めなくてはなりません。
我が儘娘だった私は既製品のおたからでは満足してくれなかったのです。
それを聞いた研ちゃんはぼやきました。

「俺3時までに雨やんだら友達と会うことになってんだよね…。今、2時30分?…確かその遊び前やった時恐ろしく時間かかんなかった?」

私はもう泣きました。
早いですね。
そして雨がやむはずがないことだとか、いかにおたから探しが面白いかだとか、友人より私と遊んだ方が楽しいかについて訴えましたね。
と、言っている間にも雲は急速に流れていきキラキラとした爽やかな晴天が覗いてきたのでしたね。
私は研ちゃんが晴れ間に気づかぬよう研ちゃんの前に立ちはだかって泣いていました。
隠せるわけがないというのに。

…研ちゃんは、でも、笑いました。
笑って言いました。
研ちゃんの笑顔は不思議に、雨上がりの空みたくそれはそれはキラキラとして見えました。

「もう梅雨明けだもんな。あいつらとはいくらでも遊びに行けるか。」

そうして、研ちゃんは結局友達に断りの電話を入れ、私とくだらないおたから探しに興じてくれましたね。
私はあの時、確かに恋に落ちたのです。


などということは

絶対に口には出さないけれど。

私もそろそろ梅雨明けということで

泣きませんとも、絶対に。

大好きだからね、研ちゃんのこと。

離婚するなよ。




「只今ご紹介に預かりました…」

作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁