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アイツ恋愛

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 でも―まだ答えの出てない恋愛に無理だとか、相応しいとか、相手にならないとか―そんなおろかなことよくも言えたもんだね!
 あたしはこぶしを握り締めた。殴ってやりたい―泣かしてやりたい―。あたしは目の前が真っ暗な闇に包まれていくのを感じた。

 今日一日―あたしは狭苦しい思いでやってきた。そのたびに泣きそうになってたのに・・こんな最低なやつ・・

いなくなってしまえばいいのに―。百合なんて・・邪魔だ。

 あたし、今、何を―。
 自分が何を思ったか、分かってる。でも・・

百合が憎い。邪魔だ。―その気持ちは止まらない。

 誰か・・あたしを止めて・・。あたしが・・どんどん黒い闇に飲まれていく―。あたしが、あたしでなくなっていく・・。止まらない・・止められない・・嫌だ―。

 その頃俺―涼は二人のやり取りを窓から見ていた。まだ家に入らない凛華を不審に思ったら。一部始終見ていた。百合が笑う瞬間を見たとき―背筋がゾクゾクした。百合は、あんなにも恐ろしく笑うことが出来るのか。今まで俺はあんな笑い方を見ていない・・。
 俺は、急に百合という人間を怖く感じた。あんな目を向けられたら、誰だって動けないんだろう。・・しかし、凛華はこぶしを握り締めていた。・・アイツがこぶしを握り締めるなんて、今までほとんどない。目の前が真っ赤になるほどの激情を感じているんだ・・。ならなぜ、言い返さない?アイツは、こぶしを握るほど怒りを抱えて黙っていられるわけねぇ。

おかしい。

 俺ははっきりと悟った。サッカーの時の態度といい、今日の朝の態度といい、あいつらしくない。それどころか、白戸は何で俺といきなり一緒にいるんだ?白戸が来てから、凛華はらしくない。それどころか、アイツなに遠慮してんだ?・・わかんねぇ・・凛華という人間も、白戸という人間もわかんねぇ。アイツと白戸は仲が本当にいいのか?仲が良かったら、よそよそしくなる必要はねぇ。何なんだ・・この二人・・。あぶねぇよ、この二人の関係。傷つけあって、ずたずたにして、ぼろぼろになるまでこうなんじゃねぇのか?・・ヤバイだろ・・凛華・・。おまえ、そこまで強くねぇだろ・・。

 俺は思わず飛び出していった。

 ・・あたし、酷い人間だ・・。あたしは百合から思わず目をそらした。邪魔だとか、消えて欲しいとか、・・思うほうが邪魔だ。百合だってひどいことを言ったけど、ずっと正直だ。あたし、正直な人に対して邪魔だとか言えるわけない。
 あたし、最低だ。人を裏切って、憎んで、消えて欲しいと感じて・・。人を好きになっちゃいけない。好きになっていいはず・・ないんだ。
「あんた、何もいえないんだ?ふーん。じゃあ、あたしが相応しいと思ってんだ?」
 百合が追い討ちをかけるように笑った。思ってない。そんなの・・嫌だ。嫌だ・・。

「凛華!」

 ふいに、涼の声が聞こえてきた。好きだ。そう感じさせる声だ。顔を上げると涼が走ってきた。
「涼!」 
 百合がすぐに涼のところへ走っていった。あたしはとっさのことだったから何がなんだか分からなかった。でも、すぐに憎しみがわいてきた。畜生。苦しい。
 百合は走るなり、涼に抱きついた。

 あたしは百合を思いっきり睨んだ。百合が涼に触れる。その瞬間、あたしの中で何かが切れた。プツン、と銅線をきった時のようにあっさりとあっけなく切れた。


憎い―。マグマのようなどろどろの熱い塊が頭の中で流れる。嫌だ。・・嫌だ。・・二人が仲良くするなんて、見たくない。

あたしは思わず二人から目をそらした。その瞬間―ドスンという鈍い音がした。あたしは顔を上げた。

 百合が床に座り込んでいた。涼は恐ろしいものを見るような目で、百合を見ていた。ただ、非難するのではなく、おびえたものを見るような遠い目をしていた。あたしは、何が起こったのかわからなかった。ただ、アイツがあんな目をするなんて・・信じられなかった。いつでも誰にでも等しく接して、優しかったあの涼の目とは思えなかった。あたしの好きな涼とは、とってもじゃないけどかけ離れて、他人のようだった。
「りょ、涼?」
 あたしは、怖々声をかけた。何もしないで涼を見つめていたら、そのまま涼があたしの目の前から消えてしまいそうだった。溶けて、そのままどろどろになって、手の届かない存在になってしまうような気がした。今、あたしの目の前にいるのは涼なの?それとも、涼に似た別人なの?・・それさえも分からなくなってしまいそうだった。
 ふと、涼はあたしに視線を向けた。凍った仮面をかぶった別人の涼は、あたしの本に歩み寄ってきた。あたしは背筋がぞわぞわとなるのを感じていた。一歩一歩踏み出してくるたび、あたしはあたしを失いそうになった。涼も涼でなくなってしまいそうだった。
 あたしの目の前まで来ると、涼はあたしの手を掴んだ。唐突のことだったから、ビクリとなった。あたしは涼を見つめた。涼もあたしを見つめた。

 多分、たった二、三分のことだったんだと思う。たいしたことないことだったんだと思う。でも・・あたしは怖かった。その短い時間でも、涼を失っちゃう気がして怖かった。
「痛っ」
 あたしは涼が握った腕に鈍い痛みを感じた。
「涼、いたいって・・」
「あのさ、白戸」
 涼はあたしの言葉をかまわず遮った。あたしは、言葉を失った。その声も、気丈で、消えそうで、そして儚く響いた。視界の傍らで百合がびくりと肩を震わせた。
「おまえ、あの視線―何だ?」
 涼は唐突に切り出した。視線―多分、あのことを言ってるのだろう。深い憎しみを込めた、凍りつくような視線・・。思い出すだけで怖い。
「凛華がおまえに何したかはしんねぇけど」
 そこで一度短く切ってから、涼は百合を睨んだ。
「凛華はあんな視線を向けられて黙っていられるほど強くねぇからな。おまえどんな理由があっても、あんな視線を向けるほど凛華を憎めるわけねぇだろう?どうせ、凛華のことをよくしらねぇんだろう?」
 すっと涼は息を吸った。

「俺の幼馴染を、俺を一番見てくれる人を、俺の―一番大切な人を傷つけたら許せねぇ。それが、誰であっても、だ。」

 かっこいい。

 あたしは他人事かもしれないけど、強く感じた。もしかしたら、この世の中の誰よりもかっこよかったかもしれない。俳優よりも、数々の事件を解決している刑事よりも、人の笑顔を作る料理人よりも。あたしのたとえは訳分からないけど、少なくともあたしの言葉で表すとそんくらいかっこよかった。

「もう、俺の大事な人を傷つけないでくれ。・・おまえ、これ以上傷つけたら人間として最低だ。」

 涼はそういうなり、あたしの手を引いてあたしの部屋に、送っていってくれた。
















 










作品名:アイツ恋愛 作家名:Spica