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それいけ! カンカン便

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 そのとき、秋緒は誰かに頭を叩かれたような気がした。

「えっ?」

 驚いて振り返るが、誰もいない。
 人々が、思い思いに歩いている。

「???」

 気のせいだろうか?
 頭に手を載せてみるが、何もない。
 そう思って秋緒は、再びショーウィンドウに目を戻す。と、自分のカバンに、鳥が止まっているのに気がついた。

「わあ! 驚いたあ。あなた、カンカンじゃないの!」

 秋緒は口元を抑えて、目を見張る。そしてあの、鮮やかなオレンジ色の髪を持つ少女を連想した。
 カンカンが口にくわえたカードをしきりに差し出すので、秋緒は察してそれを受け取った。

「なあに、これ? あ、招待状だ!」
「是非、アキさまに来て頂きたいとのことでございます」
「ふ~ん、エミィ、クリスマスライブやるんだあ……」

 あれから何度か遊んでいるうち、彼女が芸能関係であることや、このあたりでは一番大きい、さえずり公園で路上ライブをやっていることなどを知った。そのたびに驚きはしたし、芸能事務所というのもきちんと信頼できるところなのか心配はあったものの、一度もライブに足を運んだことはないのだった。単純に、時間が合わないからだ。
 見れば時間帯はお昼からで、これは、クラスのパーティを抜け出せる良い口実になるかもしれない。

「いいわ、行くわ。おしゃれして、行く」
 ショーウィンドウを見上げて、秋緒は微笑んだ。
 このワンピースに合うコーディネートを、瞬時に頭の中のタンスを引きだして考えた。
「おお、ありがとうございます。お嬢さまも、お喜びでございますぞ!」
「ふふ、楽しみ。ねえカンカンは、何か歌ったりしないの?」
「ワタクシでございますか? とんでもございません! 山田様より、一切、口は出すなと……それはもう、言いつけられておりますゆえ」
 山田様というのは、エミィのマネージャーのことだろう。しばしば、耳にする名前だ。
「他には誰か呼んでるの? えっと、エー介くんとか」
「ええ、……あっ! ああっ!!」
「? ど、どうしたの、一体」
「招待状はお渡ししたのですが、うっかり、用件を伝え忘れてしまいました! このカンカッカカンカーン、何たる失態!」
「あはは、大丈夫よ、気付いてくれてるってきっと」
「そうでございましょうか? ああ、お嬢さまに顔向けが出来ません」
「エー介くんも忙しそうだし、来なくても別に怪しまないでしょ」
「し、しかし……」
「オーケー、分かったわ。もし怪しむようだったら、私が口裏を合わせてあげる」
「な、なんとそのようなこと! お嬢さまを裏切るなど、このワタクシ、舌を噛み切っても噛み切れない思いですぞ!」
「じゃ、エー介くん、探さなきゃね」
「うっ、そ、それは……エー介様は見つけるのが大変でございますので……」
「まあいいわ、どっちにしろ、エミィが怪しんだら口添えしてあげる。怒らないと思うけどね」
「は、こ、これは、痛み入ります……」

 狭いカバンの上でカンカンは恭しく頭を垂れ、そして挨拶をして地面に一度降り立ってから空へと羽ばたいて行った。

「ふふ、楽しくなりそう」

 秋緒はカードを見て微笑む。
 明後日が待ち遠しくてたまらない。バイトを休みにしてもらって、良かった。
 それもこれも全て、課題の提出と重なったおかげだ。

 カードを仕舞ってカバンを背負い直すと、早速、ショップの中へと入って行った。


作品名:それいけ! カンカン便 作家名:damo