それいけ! カンカン便
おしるこを呑み終わって空き缶をゴミ箱に入れたとき、何となしに空を見上げる。このまま降り続けば夜には雪になっているかもしれない。バイクのタイヤは、年中スタッドレスを履かせているから問題ないだろうが、体力の消耗が激しくなる。
明日、凍結していたらいやだなあ。などと思いながら、英介はメットをかぶってグローブをはめた。
その時だった。
空に、黒い点を見つけた。
「カンカン!?」
胸に、ふわっと暖かいものが広がる。
それは明らかに点でしかないため、カラスにも、スズメにも見える。けれども英介には、その近づいて来る点がカンカンであると分かるのだった。
「カンカン!」
真っ黒な身体に黄色いワンポイントを見つけ、確信を持ってその名を呼ぶ。言葉がないと思ったら、くちばしに何かをくわえているようだ。カンカンは翼を広げ、一直線に荷箱の上へと舞い降りた。身体を震わせ、水を飛ばす。
「偶然だな、カンカン。それともまさか、おれに会いに来たのか?」
無意識にそのくわえられたものを取ってやると、カンカンは待ってましたとばかりに口を開いた。
「エー介様、まさしくその通りでございます。いやはや、探すのに一苦労でしたぞ!」
「まじかよ! ハッハッ、そりゃいい。年末でおれも忙しくてさ。カンカンに会いたいなって思ってたんだ」
「やや、まじでございますか!」
「そうだ、まじだ!」
「まじでございましたか!」
路上アイドルであるエミィに手紙を送り届ける依頼が、彼の務めるアラバマエクスプレスにあったのがきっかけで、ひいきにしてもらっている。しかし、手紙自体のお届けは、彼女が住所を得て、きちんと事務所に所属したことにより無くなってしまった。それ以外の、個人的な配送に利用してくれてはいるものの、決して頻繁ではない(頻繁にあったら、社長からしつこく聞かれて、めんどくさいことになりそうだけど)。
だから時折、エミィのお宅へ個人的に遊びに行くようになった。
本音を言えば、カンカンに会うためだが……。
しかしそもそも、会える確率が低いのだった。事務所から渡されたらしい最新式の携帯電話を持っているのを見かけたが、全く使いこなしていないし、番号は口外しないようにと言われているらしかった。
そのため、行っても不在なことが多い。
部屋の前で待っているのもなんだかシャクなので、そのまま帰る。
最近はそれが続いていたため、このサプライズは嬉しい。
「先日ポストに、カレーというものを入れて下さったのは、エー介様でございましょう?」
「あ、そうそう。レトルト食ったこと無いって言ってたからさ。食い方、分かったか?」
「ええ、ええ。それはもう、調べましたとも!」
「カンカンならちゃんとやるかなと思って、ポストに入れといたんだ」
「お嬢さまはそのまま食そうとされまして、大変でございました」
「あー、やりそうだな、確かに」
他愛もない話をしばらくしていると、次の仕事へ行かなければならない時間になってしまった。
名残惜しくはあったが戻らなければならない。
そのことを告げると、カンカンはいともあっさりと飛び去ってしまった。ちょっとショック……。
「しかしカンカン、何の用事だったんだ?」
英介は首をひねる。
赤いカードの文面に気付いたのは、次の配達先でのことだった。
作品名:それいけ! カンカン便 作家名:damo