それいけ! カンカン便
12月20日 裏影未逆
ガタガタガタ…ガタガタガタ…
住宅街の中でもひときわ人通りの少ない細い路地に、小さな公園が面している。
この周辺は街灯の数も少なく、家々も背を向けているため、薄暗い。時折、ジョギングかウォーキングをしているらしき夫婦が、懐中電灯の光をちらちらと飛ばす程度だ。この時期になると玄関先にイルミネーションを飾る家が少なくないが、この通りでは見られない。せいぜい、窓から光が漏れる程度だが、それもわずかだ。
ガタガタガタ…ガタガタガタ…
冬至直前とあって、めっきり太陽との縁も少ない。
つまり気温的にも寒く、また人口の光にも恵まれないのであった。こんなにひとけののないところであるにも関わらず、若者の溜まり場とならないのは、一重に裏影未逆が住んでいるおかげと言えるのだろうが、それを断言するのはあまりにも曖昧だし、事実、気まぐれでその効力は消失する。彼女自身が自覚してここに居座っているわけではないのだ。治安を守るために、この公園にこだわっているわけではない。
ガタガタガタ…ガタガタガタ…
ならば何故、もっと暖かいところへ移動せず、ここでひたすら肩を震わせているのか。
それは、彼女はひたすら、待っているからなのだった。
ただ一人の使者を。
夏の終わり頃、彼女を訪ねる者が急に増えた。
毎日のように足を運んでくれるリンゴ売りと異世界からの来訪者が主たる顔ぶれだが、それ以外にも二人、気になる顔がある。その全ての糸を繋ぎとめるための使者が、彼女の予想では今夜にでも来る。
「し、し、し、しかし、寒いです……」
本音を言えば、もう移動してしまいたい。
毎年冬になると、いつもお世話になる場所があるのだった。
木枯らしが吹き始める頃にさっさと移動してしまうのだが、今年はこの公園に居座ってしまった。それは未逆が、彼らと出会ってしまったから。
(お、お、お、おこがましい、ですけれど……)
いつも訪ねて来たときに、「あそこに移動しようと思うんです」という旨を話そうとするのだが、どうにも上手く言葉に出来ない。来てくれ、と言っているようであることが、彼女を躊躇わせているのだ。しかし、何も言わずに去るのはとても申し訳なく、また、何か嫌な予感がするのだった。本気になれば未逆が彼らの居場所を突き止めることなど容易いことだが、彼らが求めているとき、未逆の居場所が分からなければ困るだろう。
(でも、私なんかを求めるなんて、ないかもしれないではないですか。そんな気がしてきました。こんなに寒いのに、どうして私、我慢しているのでしょうか。彼らが私を訪ねて来るのは、そう、挨拶のようなものなのに。別にいなくなったって、全然、困らないのに。私なんか、いてもいなくても、同じなんですから。いなくても、誰も困らないんですから……!)
ガタガタガタ……ガタガタガタ……
未逆はとうとう地面に額をつけた。
使者は、来ないのかもしれない。
そもそも使者など、初めから来ないのではないか。未逆はそう思い始めた。思い過ごしだったのではないか。
太陽が昇ったら、移動しよう。
かぶり込んだ新聞の端をしっかりと握りしめ、未逆はまぶたを落とした。
作品名:それいけ! カンカン便 作家名:damo