それいけ! カンカン便
12月19日 エミィ
メリーメリーメリー くりすますー
メリーメリーメリー くりすますー
いつもの 仲間たちと
いつもの お喋りで
ヘッドフォンをつけて、エミィは姿見の前で踊りながら歌っていた。その右手には、星の形をした黄色のタンバリンが握られている。シンバルの部分が取り除かれ、変わりに鈴が結ばれていて、ちょっと変わった形をしている。エミィをスカウトして面倒を見てくれている、山田太郎氏のお手製アレンジだった。その鈴も今は、音があまり漏れないようにと布でくるまれている。
ツリーツリーツリー かざりましょー
ツリーツリーツリー うたいましょー
いままで ありがとう
これからも よろしくね
楽しい 楽しい くりすます
くりすます
歌いながら、エミィは音楽に合わせてタンバリンを振って叩く。
その楽曲部分は彼女の耳に直接届いているため、六畳一間の小さな部屋に流れるのは、歌声と、タンバリンが刻むリズムのみであった。そのため、真っ黒な羽根に身をくるませたカンカンは、隣で聞いていてあまり楽しくない。やはり楽曲があるほうが聞いてて心地良いものである。特に部屋での練習は、近所迷惑にならないようにと、エミィもだいぶボリュームを抑えている。カンカンがその黄色いクチバシでパソコンのキーボードを叩く音のほうが、よっぽど騒がしい。
エミィは山田氏より支給された、ポータブルオーディオプレイヤーを操作し、最後のところをもう一度合わせた。
拍に合わせてタンバリンを振って、叩く。
クリスマスに合わせた新曲で、いつもの公園で小さなイベントを行う予定だ。エミィはクリスマスがどういった日であるかを知らず、説明を受けたときに質問し、山田氏を驚かせたが、12月に入って街全体が光輝く様子は見ていて楽しく、こんなふうに人々を盛り上げるクリスマスという日が楽しみで仕方が無かった。
「それにしても、クリスマスって何をする日なのかしら?」
タンバリンを片付けて、エミィは青いはんてんに袖を通す。そしてこたつに入ってザルに載せられたミカンに手を伸ばした。
これらは寒くなり始めたとき、カンカンがインターネットで見つけたものだ。この国の人々は、こうして冬を越すらしい。通販で買って届き、そのシンプルな構造に唖然とした。エミィの国も寒い土地ではあったが、暖炉に火を入れるか、それが難しければお湯を張って足を浸すことで暖を取るのが一般的だ。ただ机に布団をかぶせ、その中を温めるなど、なんと画期的なことだろう。いまではこたつで寝起きする日々だ。そして背中を温めてくれるはんてんも、手放し難い。路上ライブも、是非はんてんを着て行いたいと思っているが、山田氏は許してくれないだろう。彼がくれた衣装は、赤いミニのワンピースと、おそろいのキャップとブーツ。白いファーがあしらわれていて可愛らしいのだが、とても寒そうだ。
「歌詞には、仲間と喋って飾って歌って……とありますな」
カンカンは、パソコンを操作しながら、先ほど主人が歌っていた内容を思い出す。
「パーティを開く日なのでしょうか?」
「いままでありがとう、これからもよろしくね、と歌にはありますから、おそらくは、お世話になった方々へ感謝をする日かと思われますぞ」
「感謝の日……」
エミィはみかんを頬張りながら、考える。
いつも来て下さっている方々にお礼をしよう、というイベントなのかもしれない。そうだとすれば、是非とも招待したい人たちがいる。
こちらの世界でよく使う文字などをまとめた大学ノートを引っ張り出し、言葉を探しながら白い紙にメモをしていく。必要分を抜き出して間違いがないか確認すると、厚紙を探してそれに清書し始めた。
そして一通りの作業を終えると、手の中のカードを満足げに眺める。
「カンカン」
「なんでしょう?」
パソコンに向かっていたカンカンは、主人に呼ばれて振り返った。
「これを届けて来てくれない?」
彼女が差し出したカードは、全部で4枚。
つたない字で書かれたその文面には、クリスマスライブへ招待する内容が記されていた。
作品名:それいけ! カンカン便 作家名:damo