それいけ! カンカン便
12月24日 クリスマスライブ
12月24日、午後4時半。
束の間の夕暮れで空が深い藍色と薄い水色に分けられた頃、エミィのクリスマスライブは開催された。
元々解放された場所でやる無料ライブではあったが、事務所側で広報していたこともあり、開始一時間前から良い場所を取る者が現れ、開始直後の人だかりは凄かったと言う。
招待状を受け取ったメンバーのうち、初めに訪れたのは笠口一登。
結局カードが見つからず、午後1時には到着し、ステージ横に貼られたポスターで時間を確認した。
そのまま正門横に座り込んで仕事をしていたところへ、裏影未逆がやって来たのが午後3時。
一登はもう会えないかもしれないという予感を抱いていたため、未逆の登場に言葉を失い、珍しく驚きを隠せなかった。また未逆はそんな彼に満足そうに微笑みかけた。
目立つのを恥ずかしがる未逆を一登が引っ張る形でステージ前に行き、到着したばかりの宗田秋緒と合流する。三人がまとまって顔を合わせるのは初めてで、けれどもそれぞれに知り合いだったため、紹介は簡略化された。未逆は予想していたことだったため驚かなかったが、特に一登は対応に困った。秋緒にからかわれているところを、未逆に見られたくなかったのだ。
けれどもやがてライブは始まる。
「こんにちは、エミィです!」
エミィは挨拶をする際、三人に目を留めて微笑んでくれた。
彼女の異変に気付いたのは、未逆だった。
一登の袖をひっぱり、小声でそのことを指摘する。エミィは踊っているし、メイクもしているから普段と印象が違うのではと秋緒は返したが、そう言われると心配になる。けれども三人の不安をよそに、エミィは休憩をはさみつつも既存曲とカバー曲、合わせて8曲を、普段の様子で元気いっぱいに歌い続けた。
最後にタンバリンを片手に新曲を歌い上げる。
二階堂英介はちょうど、その新曲の紹介をしているときに到着した。ちょっと集荷に手間取り、遅れてしまったのだ。
人だかりでその姿をきちんと見ることは叶わなかったが、カラオケで歌うエミィの声はきちんと彼の耳にも届いていた。その目はカンカンを探していたようだが。
歌姫の疲労が限界を超えたのは、そのステージから降りるときだった。
ファンはほとんどはけていた。
午後6時。
いつも通っているファン数名と事務所スタッフ、そしてエミィに呼ばれた4人の目の前で、膝から崩れるようにして倒れたのである。
作品名:それいけ! カンカン便 作家名:damo