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Search Me! ~Early days~

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「その、メモって、何なんスか!」
「依頼人から聞き取った、猫の情報。特徴とか、性格とか…」
「…ハムちゃんの調書ってことっスか?」
「そうだな。」
「見ていいです、か?」
「…見ないで探せるつもりだったのか?」
「いいいいいいえ!!」

ブンブンと慌てて首を振る祭が落ち着くのを待ってから、見終わったメモを渡す。恐る恐る受け取るとすぐに目を通し始めた、が、一瞬で困ったような表情になった。時生の字は見慣れない者には非常に見難い筈だから、その反応は仕方がない。

「…っと…好きなば、所、場所は、……くうりてこる?」
「暗い所。」
「あ、なるほど。さいきん…最近、食べる畳…たたみ!?」
「…量だ、多分。」
「…何という高度なミステイク…!…っあ…えと、…………、…なんだこりゃ……」

何とか暗号並みの文面を解読していた祭だったが、暫くするとメモを横にしたりひっくり返したりしはじめた。普通に縦にして読むのが正解なのだが、それでは文章が判別、いや理解できないらしい。

「…貸せ。」
「え?でもまだ」
「いい、貸せ。」
「は、はい…」

少し肩を落とす祭からメモを再び受け取ると、もう一度目を通す。そして、

「…好きな場所は暗い所、狭い所…」
「…!」
「失踪前の様子…落ち着きが少しなかったようだ、最近は食べる量が増え、太り気味だった。運動は苦手で、家の敷地の外へ行くことは殆どない。」

淡々と文面を自分の言葉に直して読み上げる。メモの隅に虫のような猫の落書きがあったが見なかったことにした。最後まで音読したところでメモから視線を上げる。

「………らしい。」
「……。」
「わかったか。」
「あ…は、ハイ!あ、ありがとう、ございまっす…」
「別…、………知らないままでは、探せないだろう。」
「ハイ!ありがとうございました!!」
「…、…」

明るい、ただ感謝を全面に出した笑みを受けられ、どうすればいいかわからなくなる。が、その一瞬の動揺が顔に出てしまうほど表情筋が発達してないせいか、おかげか、祭が気付くことはなかった。

「じゃあ、飼い主さんが慌てるのは当たり前っスね!言ったら、ハムちゃんって箱入りっ子じゃないっスか。」
「…そうだな。」
「でも、どっから探せばいいですかね?普通、もう近所は探しちゃってんじゃないすか?」
「だろうな。」

とは答えつつも、京介の中で探すべきポイントは決まっていた。速くも遅くも無い歩調で目的の方向へと向かう。祭もそれに倣う。

「ああの!あの!!どっか心当たりあったりすんですか?!」
「…周辺の様子は見ておいたほうがいい。」
「住所だと、谷山さんちはもっと上…」
「北。」
「う…はい、北…っす…。」
「近所はもう探している、…そう言っただろう…」
「はい…まさしく俺が…」

これだけ説明してもまだ完全には理解できていない様子に内心で溜息を吐く。はたして、京介が話下手なのか、祭の察しが悪いのか、それとも両方か。

「…どこまで綿密に探したかは分からない。が、見つからないということは、その範囲の外ということになる。」
「は、はい…!」
「そのあたりで、好みそうな場所をあたる。」
「!!そ、…そっか!!すげえ!」
「別に…、…。…その後で、家の近辺を探す。戻ってくるかもしれない。」
「犯人は現場に戻るってコトすか!」
「…いや…」

否定しかけて、どのように説明したものかと考える。犯人が現場に戻る、というのは人間特有の心理作用によるもので、猫には当て嵌まらない。彼女が戻るだろう理由は、もっと本能的なものなのだが。そこまで考えるともう面倒になって、後にしようと1人で完結した。

「あ、でも猫だから“人”じゃないや…犯猫?」
「……」
「…すみません、おもしろくない…っすよねー。」
「…そうか?」
「おおおもしろかったんスか!?」
「いや…」
「ってどっち!?」
「…基準が分からない。」
「あうー……、…普通は、面白くないと思う…す。」
「そうだな。」
「わかってんじゃん!?…じゃないすか!」

そんなやり取りをしながら歩いていると、隙間なく並んだ建物が途中で途切れた場所を見つける。そこは、人一人がやっと通れるか通れないかギリギリの広さの路地だ。

「あ、コレ!暗くて狭いすよ!」
「ああ…。」
「でも…猫はいません…ですね。」

頭だけをつっこんで視線を奥まで走らせた祭が、落胆した様子で呟く。その路地には多少のごみが転がっているだけでそのほかには何もない。変な言い方かもしれないが片付いた様子だった。

「…ここにはいないだろうな、今後も。」
「え?なんでですか?」
「お前ならどうする。」
「俺、暗いのは嫌っす!」
「そうじゃない……、…どういう所が快適だ?」
「えー…、っすねー……、…家でゴロゴロ、…友達んちでゴロゴロ…ソファ、ベッド…………ッゴロゴロできる所!」
「この路地で、そうしようとしたら何が足りない?」
「しません!…って、あ、猫がってこと?」
「ああ。」

段々察しが良くなってくることに少し安心する。暫く唸って考えていたが、すぐに顔を上げ口を開いた。

「俺なら、ソファとかコタツとか、布団とか、っスけど…、…猫もそういう感じ?…あ!だから、こういう何もない所に猫はいないんスね!」
「夏場ならともかく、今はな。」
「ちょっと寒いです。あー…それに、隠れる場所もないもん。緊張しちゃってゴロゴロなんかできない、と思うっす。」
「…そうだな。」

ただでさえ猫は警戒心が強い。しかもあまり家から出ない家猫が見知らぬ場所で無防備でいるとは考え難かった。

「それじゃ、ちょっとくらいゴチャゴチャしたかんじのとこにいるってコトですか?」
「多分。」
「じゃ、急いで探しましょう!」

だが、その意気込みもむなしく成果が上がらないまま時間はあっという間に経過し、気がつけば正午を回っていた。何故正午だと気がついたかというと、

―ぐうう…

「……」
「…しゅみましぇん…」
「……いや。大丈夫か。」
「だ、だいじょお…ぶ、っすよ…」

情けなく、力のない表情でなんとか笑う。滑舌がそれだけ崩壊していてはあまり、いや全く説得力がない。

「……休憩していてかまわない。」
「う、いえっ!?だ…っじょーぶ!…で」

―ぐーううう…きゅう……

「…………。」
「……………………。」
「…した方がいい。」
「……はい……。」

真っ赤になって俯くと小さく頷いた。正午ごろに空腹をしっかりと感じるということは、今時の大学生にしては珍しく規則正しい生活を送っているのだろうと推測する。

「あ、あの。」
「…ん。」
「筧さんはどうすんですか?」
「空いてないから、いい。」

寧ろ今は眠い。深夜から根を詰めてきた結果が出始めていたが、それを悟らせることはない。

「嘘!マジっすか!?朝からずっと歩きまわってるのに!?」
「…ああ。」

何をそんなに驚いているのかわからない。恐らく祭と比較すれば相当に不規則な生活を送っているため、定刻に空腹を訴えることがないだけだ。多分、あと1、2時間もすればそれなりに感じるだろう。いや、眠気が優先されて感じないかもしれない。

「我慢とかしてないんすか!?」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing