Search Me! ~Early days~
だから一体どういうことだ。何故憐れむような目で見るのかわからない。だが、今はそれよりも。
「…名前は。」
「……っあ…」
「………。」
「……い、なば…。」
「ん?」
「…伊奈葉……伊奈葉祭(いなば まつり)…っす…」
根気よく待つと、恐る恐るといった様子で名乗った。先程は少し畳みかけすぎたのだろうか。
「…そうか、身体は大丈夫か。」
「……ご、ごめいわくをおかけしました。手当も、ありがとうございます。」
「いや、別に。」
「……。」
「…京介ー…そこは“別に”じゃねー…」
ぼそぼそと聞こえてくる時生は無視し、話を続ける。
「……もう暗くなる、家に帰った方がいい。」
「あ、で、でも……お、俺……道に迷って…」
「……そういえば…言っていたな…。」
パニックの中でしていた弁解の内容をおぼろげながら思い出す。その目的地に辿りつかなかったのは、彼にとって大きな損失だったのではと思うと多少申し訳なく思った。
「はい…どうしても、今日中に伺えって言われてて…」
「そりゃ大変だ!!」
「わっ!?」
「うん、大変だねー。」
見計らっていたのかいないのか判らないタイミングで時生と秀平が会話に割り込む。特に時生に関しては、二度目の流血沙汰の原因たる罪悪感があったことは間違いないだろう。
「で?どこ行くつもりだったんだ?この近くだったら連れてってやるよ!」
「時生以外がねー。」
「なんでえ!?」
「……お前の車に聞いてみろ。」
「どういうことだよ!」
本人は無自覚らしいが、時生の運転は非常に荒い上にアウトローだ。よくこれでゴールド免許を維持できているものだとたまに思う。憤慨する時生は放置して、京介は祭に向き直った。
「…もし、本当に困るなら、送る。それぐらいはする。」
「でも、」
「どうせまた迷う。」
「うぐ…」
「あーだからね、伊奈葉くんー?祭くんでいいー?迷っちゃったようなところにー今から一人で行ってもー、また迷うかもしれないでしょー?そうすると、もっとー帰るの遅くなるからー、お家の人とかー心配しちゃうからねー?…って、コイツは言いたかったわけー。」
「すげー…エスパー秀平…」
「………。」
「そ、そうっスよね…ええと…」
秀平の翻訳でホッとしたのか、納得したように首を縦に振る。何故伝わっていなかったのか分からないが、あまりいい気分ではなかった。
「人に言われて、行った方がいいって…話はしてあるからって。」
「へー、なのに迎えのひとつもよこさないなんてー、ダメダメだねー。」
「あー…自分で探して行くのも勉強だ、って言われたんで…」
「偉いなあ!先生泣けてくるぜ!」
「あーハイハーイ。」
「…どんな所だ。」
何かしらの手掛かりはあるのだろうと目星を付ける。恐らく、中途半端な情報しかなかったから迷ったのだろう。何も判らなければ、そもそも迷うところにも行きつかない。そう見当を付けて尋ねると、祭は思い出すような仕草をして、口を開いた。
「名前は、教えてくれなかったんスけど、この近くの筈なんです。」
「それは個人宅か?それとも、」
「違います探偵事務所っス。」
「「…はあっ!!?」」
「っえ!?」
さらりと言った言葉に、驚愕の声がものの見事に重なる。それに驚いた祭の表情が引き攣るがこちらはそれどころではない。自分は秀平ではないが、不思議と今の時生と秀平の考えていることがわかった。
まさか、と。
「たた、探偵事務所って…、ええと、なんか、いい、依頼か?」
「素行調査とか?あ、猫とか犬とか、探してるとか?」
その動揺は深く、秀平に至っては滑舌が良すぎるぐらいによくなっている。だがその思いもむなしく、祭は戸惑いながらも否定した。
「いいえ、あの、アルバイトの申し込みっス。」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
もはや言葉が出なかった。
「この近くに、探偵事務所ってありますか?」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing