小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Search Me! ~Early days~

INDEX|5ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

「!?」

くるくると目を回す青年、いや少年、いややっぱり青年を引っ張り出した。顔が真っ赤なのは、恐らく。

「なるほどねー、この子がードア開けようーとしたとこをー時生が“ガチャッ!”したから挟まれてー“どかっ!?”ってなったわけかぁー。QED、QED。」
「うええマジかあ!?」
「いたってマジよ。…ああもう、せっかく血も止まってたのに…」

痛々しそうな表情で肩を落としながら緑は目を回した青年をソファに引きずって行く、のを京介が引き受けて小脇に抱えて運ぶ。

「京介くん、さっきとおんなじように、できるだけ呼吸しやすい体勢に!」
「……はい。」
「秀平くんは、氷をビニール袋に入れて持ってきて!あとタオルも!」
「はあーい。」
「時生くんは、」
「はい!なんでしょう!!」
「ドア閉めて。」
「…………はい…」

全ての指示が滞りなく遂行され、青年の再流血はどうにかこうにか止まるにいたった。だが、やはり衝撃が大きかったのか、それとも貧血状態なのか、意識はもうろうとしていてとても話を聞ける状態ではない。

「…とにかく、これでちょっと様子をみましょ。まだお店の途中だから戻るけど、何かあったら言ってね。」
「……ありがとうございます。」
「ございますー。」
「…すんません……」

エプロンを掛け直しながら帰り支度をする緑に三者三様に頭を下げる。特に京介と時生が秀平に比べて深いのは、当然と言えば当然だ。

「いーのよ。…でもびっくりしたわ、京介くんが変な顔で私を呼びに来た時といったら…」
「変な顔?」
「ストレンジフェイスー?」
「………」
「ふふ、じゃあまたね、皆。」

―ぱたん……

軽やかな音を立て、ドアが閉まる。先程の大惨事を引き起こした物体と同一とはなかなか思い難いものだった。

「でだ。京介。」
「なんだ。」
「この子ー誰ー?」
「依頼人かっ!?」
「…さあ。」
「何だぁそれ!?」
「う、うー……ん……」
「しー……二人とも、しー、だよー……」

うなされる様に呻いた青年の反応に、秀平は慌てて二人を窘めた。

「お、おう…京介、静かにだぞ…」
「…………」

それはお前だと口には出さず突っ込んだ。どうも起きる気配を見せない青年を起こさないように、大の大人3人は部屋の隅まで行き、声をひそめて事の次第を確認しあった。主に説明するのは当然のごとく当事者の京介だ。

「で、どういうことだよ。」
「とりあえずー、依頼人かどうかは、まだ不明ー?」
「……ああ。」
「じゃあ何でここに来てるんだよ。」
「……電話がかかってきた、」
「依頼か!?」
「時生ー…五月蠅い。」
「ああ。」
「マジか!!?」
「多分。」
「…どーゆーこと?」

自分自身も把握しかねる、不審な依頼…と呼んでいいのか分からないことについて、状況を知らない他人に説明するのは難しい。特に話下手の京介には難題だった。
ので、件の録音された音声を聞かせることにした。その奇妙な内容に、流石の二人も一気に表情をしかめ、首をかしげる。因みに10万云々のくだりでの反応は大きかった。

「……なんじゃあこりゃ。」
「うーん、やっかいごとのかほりー。」
「……やっかいごとだろう。」
「じゃーさ、なんでうけたの。」
「………受けざるを得ない状況だった。」

別に流されたわけではない。改めて客観的に会話を振り返ってみると、依頼人の様子は有無を言わせない迫力と、追いつめられた気配が感じ取れた。

「京介ってよ、意外と義理堅いよな。」
「意外じゃないよー、京介って、」
「…とにかく、前金も置いてあった。受けないわけにはいかない。」

秀平の言葉を遮るように口を挟み、依頼を受けるという方向で話を締めくくる。

「まあ、俺もいいと思うぜ。京介が決めたことだし…問題は、」
「…その“人物”が、何処の誰かだ。」
「来るんでしょー?ここにー。」
「確証は何処にあんよ?男か女かもわかんねえのに?」
「年齢もな。」
「手がかりなしー。」

受けたはいいが、此方から行動を起こすことは歯がゆいことに全く出来ない。ただ、やってくる“やっかい事”を待つことしか。

「あ、忘れてた。んでよ、この子誰?」
「ああ……、ポストを確認しに行った時に、転んでいた。」
「誰かにー、押されたとかー?」
「いや、一人で転んだらしい。」
「………………。」
「………。」
「……流石に手当ぐらいはする。」

何故かは判らないが弁解しているような気分になって、居心地が悪い。弁解すべきことなど何もないのだが。

「…なんか、絵に描いたようなドジっ子だな。」
「しかもー、笑いの神がついてるー…憑いてる?」
「…。」

ドジっ子はどうやって絵に描くんだと時生に突っ込むべきか、それは何気に酷いと秀平に突っ込むべきか一瞬迷って、両方とも面倒で止めた。
その時。

「……うーん……」
「お?」
「あー。起きたみたいだねー。」

ソファからのろのろと起き上がり、キョロキョロと不安そうにあたりを見回す。先程とはまったく違う、頼りなげな視線をうろうろさせていた。

「…えあ、えと……」
「はーいこんにちわー、大丈夫ー?」
「ふえ?え?」

そんな青年にいつもと同じ調子で最初に話しかけたのは秀平だった。こういう、相手の警戒と不安を除くことにかけて彼の右に出る者はいない。

「ごめんねーウチの馬鹿のせいでー、鼻血再発させちゃってー。」
「はい?え?ええと…い、いえ…?」
「……バカって、俺のこと?」
「……否定されたかったのか。」
「……………しくしくしく…」

本格的にいじけそうな時生は放置して、秀平はゆっくりと尋ねる。だが、青年の表情から未だに戸惑いや不安は消えない。それを少し離れた所から観察していた京介だったが、ふと、青年の視線が自分に向けられ、

「!!」
「?」

固まった、と思うと

「っうひゃああああああああ!!?」
「わ!?」
「!?」

弾かれるように、悲鳴というか絶叫を上げた。それでまた頭に血が上ったのか、真っ赤になる。次の瞬間、ソファの上に正座して何度も何度も頭を下げる。

「あ、えあ、ご、ごめ、ごめんなさ、お、俺、す、すんません!さっき、は…!」
「…ええと、…京介ー、かもんー。」
「………。」

ちょいちょいと秀平に手招きされ、ソファの方へ向かう。

「タッチ。」
「………ば…」
「すみません!すみません!」

バトンタッチされたからといってどうすればいいんだ、と言いかけた言葉は、何度も頭を下げる青年を前に飲み込まざるを得なかった。とりあえず、何か言わなければ。

「……」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「………あのな、」
「はい!すみませ」
「黙ってくれるか。」
「っ!」

でないと話もできない、ということだったが、青年の顔は真っ赤から真っ青に変わっていた。何か不味いことを言っただろうか。

「あちゃー……」
「い、今のは、俺もわかる……京介、あちゃーだ…」

外野、五月蠅い。

「………お前、名前は。」
「……っ」
「………答えられないか。」
「…っあ……う……」
「更なる“あちゃー”だぜ……。」
「最早“はちゃー…”の領域だねー…」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing