Search Me! ~Early days~
と、そこで先程から京介が何の反応も示していなかったことに気付く。振り返ると怪訝な表情をする京介が3人を交互に見ていた。
「京介もさあ、かあいいと思うよな!」
「……、」
「うぐ……」
ここで京介にまで肯定されてしまったら本当に立ち直れないだろう、多分、そうかな。どうだろう、別に、…別に?
いやいやいやその前言わないよ言わないって言う筈がない。言ったら言ったで、困る。何かが。
「……」
だが京介は“微妙な”表情をしたまま何も言わない。だんだん居た堪れなくなって思わず祭の方から声をかけた。
「か、筧さん……、あの、」
「別に…」
「おい京介〜、別にじゃねえって。」
「別に…、…あまりよくわからないが、…」
「あう…」
いかにも言いそうなことでホッとした反面、何故かがっかりし
「いいんじゃないか?」
「へっ!?」
「「ぶふっ!?」」
「…どちらかと言うと。」
淡々と至極真顔で。
「あ……う………」
何。
「ちょ!?祭!?祭、ホラ怒っていいんだぞ!!?てか頼む怒ってくれ!!」
「その前にーっっ!ツッコンでいいんだよ貴様何言ってやがるキャラ違うだろって!!」
時生と秀平の言葉は尤もで、…尤も、で、そうしなければならないことは祭にもよくわかっている。わかってる、でも。なんで、そうしなければならないん、だっけ。
際どい空気を察した京介は一瞬考えるような仕草の後、口を開いた。
「……嫌だったなら撤回す」
「っいいいえ!!……っぇえ!!?」
「祭ぃいい!!?」
「……………げほっ……」
「あ…っあ、あ…っ…っっ……っおおおおおおおお邪魔しましたあああああああっ!!」
―だだだだっバンッ
「ちょっ!?おい秀平行くぞ追っかけ」
「……もう京介が行った。」
「嘘ぉお!?」
“にゃーん”
“みゃーん”
開け放たれたドアから2匹の子猫も飛び出して2人の後を追う。
「…」
「……」
後に残された時生と秀平は2人と2匹の面影を茫然と見送るだけだった。
*****
「……速いな。」
階段を駆け降りる音を聞いて数秒後、外に出た京介の目に祭を捉えることはできなかった。まるで忽然と姿を消してしまったようである。どっちに行ったか判らないのに走ってまで探す気にはなれず、ゆっくりと歩き出した。ふと視線を動かすとラ・ミュゼのカウンターで緑が笑いを堪えながらコッチを見ていたことに気付く。
「………緑さん?」
「あ…あら、京介くんっ、…ふふっ、そんなに慌ててっ……て、ないわね。どうかしたの?」
「…伊奈葉を見ませんでしたか?」
「えっ!祭くん?ぷぷっ…」
「?」
驚き、より笑顔の割合が高い表情で声を上げる様子に首を傾げる。
「…っそーねえ、見てないわぁ。」
「そうですか。」
「でも…あと10…え、15分?…きっと、すぐ戻ってくるんじゃない?そうね、京介くんが、この辺りやあの辺りを15分くらい探していたら。」
「…」
いやに具体的な物言いで大体のことを察した。
「行ってらっしゃいな、京介くん。」
「………はい。」
送り出す言葉に従うことでこの幼い茶番に付き合おうことを承諾する。その時、
“みゃー”
“にゅおー”
事務所から追いかけて来たらしい2匹が京介の足元にまとわりつく。2匹ともラ・ミュゼの方が気になっているらしくチラチラ視線を向けているが、ここに入ってはいけないと京介や祭から厳しく言われていることをちゃんと覚えているのか興味は持っても入ろうとはしない。
「……行くか。」
“にゃーにゃ”
“にゃにゃにゃー”
…この2匹のことも、伝えなければならない。
「うふふふ………、で?よかったのかしら?」
「俺は今ケーキっす。ケーキは喋りません聞こえません…」
「あら、美味しそうなケーキね。真っ赤な苺が。」
「………うう………」
“ケーキ”は火照った顔のままカウンターの下で膝を抱えて突っ伏した。
そして15分後。
2匹の子猫の散歩、もといその辺りを15分ほど探した京介は事務所前まで戻ってきた。ウッドデッキのテーブルを拭いていた緑が顔を上げ、京介に声をかける。
「あら、おかえり京介くん。」
「……伊奈葉は?」
「さあー?どこかしらねえー?」
明後日の方向を仰ぎみてはぐらかす。先程までいた場所にはいないようだが本当に何処に。
「……」
「ふふ、全部わかりきってるのってつまらないじゃない?最後くらい、自分の手で追いつめてみなさいよ。」
「…追いつめる?」
「私はそれで旦那をゲットしたわ!」
「…………。」
何故か勝ち誇った表情で言った。京介は軽く脱力した。
「あら、信用できないのかしら?あれは、そうねー25年前ね、私がフランスで」
「…いえ、結構です…」
信用するしない以前の問題だと思うが言っても自分の言葉では上手く納得してもらえないだろう、と口にはしない。
「つまんないわねー。そんなのじゃだめよ?人生楽しめないわ。」
「別に…、……失礼します。」
「あ、ちょっと!」
心の中だけでなく実際にも小さな溜息を吐き、踵を返そうとすると後ろから声がかけられる。
「後でケーキ持ってくけど、何がいいかしら?」
「何でも…」
「どれでもいいっていうのはナシよ。ハイ4つ選ぶっ!」
「……」
緑の剣幕に押され京介はショーケースの前に立つとざっと見まわす。若干どころではなく正直かなり不思議な光景だが、本人が気にすることはないし店員達も最早慣れたものだ。
「…じゃあ、…これと、これと、これと、これを。」
「あら……」
「?何か。」
「…いーえ、ふふっ。じゃ、後で持っていくから、それまでに4人そろっているのよ?」
含みのある笑顔の緑に送り出され店から出ると、京介は外で待っていた2匹と共に階段を音もたてず上って行った。
「…それにしても、アレね。後の2人は好みがわかってるとしてー…ふふっ。」
京介が選んだケーキをトレーに取り分けながら緑は思わず苦笑を浮かべる。
「これじゃ、どう見えてるのか丸わかりね。」
*****
―ガチャッ
「…?」
「…おう、京介。」
「……おかえりー京介ー。」
「…?…ああ。」
「「……はあ。」」
事務所に戻った途端、2人そろって溜息を吐いた。
「…あーあ、…んな、朴念仁のドコがいいんだろうなあ…まだそうと決まってねえケド。」
「言葉もー行動もー察しも足りないーのにねー……そう簡単に掻っ攫われて堪るか。」
「……伊奈葉は?」
突っ込むと色々藪蛇になる気がしたので本題を尋ねると一瞬驚いた表情をした時生が口を開いた。
「!あ、ああ…ここには戻ってきてないぜ。」
「そうか…」
それだけわかれば後は大体察しがつく。京介は踵を返すと開けたばかりのドアをくぐり出ていった。
―…バタン…
「………あいつ、もしかして気付いてんのか?自分の、」
「さあー?無意識じゃなーいー?…大体、気付いてたらもっとあからさまだってー。」
「いや今も十分あからさまじゃね?」
******
「ふぇ…っ……ふえぇ……っ…っふえっくしゅっ!?…っぐしゅ…やば、冷えてきた…」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing