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Search Me! ~Early days~

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にこり、と緩く笑うが何となくそれ以上のプレッシャーを感じたのは気のせいだろうか。気のせいでなければ七絵に同情する。

「そっかそっか、がんばってな。もしまた何かあったらサービスさせてもらうんで、今後とも御贔屓に。…京介、ドア!」
「ああ。」

壁に背中を預けていた京介はドアに向かうと丁寧に開けて安曇に道をあける。安曇は軽く会釈をして京介の前を通りすぎ

「…それにしても、」

…ようとして、ふと立ち止まり呟く。京介だけに聞こえるような、低く小さな声で。

「…?」
「やはり、貴方には以前会った気がするんですが…」
「俺は記憶にない。」
「そうですよね……、…」

自分自身の記憶と既視感が咬み合わないらしく安曇は渋い表情で唸っているが、京介はまったく何も感じない。何度も言うが一度でも会っていれば多少は既視感にしろ、違和感にしろ何かを感じる筈だ。

「では、そうですね…」
「?」
「今から言うことは論理の無い戯言ですから、聞き流してくれて結構ですよ、……もしかしたら、私は、」

律儀な前置きの後、安曇は硬い声で呟く。

「…貴方ではない、貴方に会ったのかもしれませんね…」
「………。」


その言葉が妙に頭に残った。




*****





ふと、静かな声が聞こえた。

「…なんか、すごい久しぶりね。」
「そっスか?……そっスね。……日野宮さんは、今どうしてるんすか?」

あの事件の後、大方の事情は3人から聞かされた。だが七絵の口から直接聞くのはこれが初めて。

「ちゃんと大学行ってるよ、今まで通り。バイトもね。……安曇さんが…」

そこで声のトーンが一気に落ちた。

「…?」
「……経済学の、スパルタ授業を……」
「………」
「スパルタは…っ副所長だけで…っ十分…っだったのに…!!」
「ひ日野宮さん!気をしっかりもつっスよ!?」
「私は小説編集者になりたくて文学部行ったのにーっ!経済!?何それ美味しいの!?」
「日野宮さーん!?」
「はっ!?ご…ごめん、取り乱しちゃったわ…」

軽くふるふると頭を振るその表情は硬い。やっぱり他人事とは思えなかった。

「で、で、でも、元気そうでよかったっス。」
「ん、元気よ。大丈夫。伊奈葉くんは?今日もバイト?」
「あ…いや……あー……」

何の前振りもなく地雷を踏まれて思わず言葉に詰まる。何故来たか、は祭の進退を決める重要事項でいくら七絵が相手でもおいそれと話すことはできない事柄だった。言いあぐねていると何を想像したのか七絵の表情が途端に曇る。

「も…もしかして、…バイト辞めちゃうの?」
「ういえ!?」

しかもそれが何気に当たらずとも遠からずで。

「え!?ホントに!!?」
「いややややや!!そそ、そういうワケじゃ…っただ、ちょっと…」
「ちょっと?」
「ちょっとっス。」
「ちょっとって?」
「それ、は……」

困る、どうしよう。どう言うべきかオロオロするが七絵の好奇心に満ちた瞳は

「…七絵様?」
「ひぃ!?」
「わ!…あ、れ、安曇さん?」

突然現れた安曇の声で恐怖に彩られた。安曇は一瞬伊奈葉のことがわからなかったらしく、少し驚いた表情をした後ゆっくりと微笑む。

「あ…、こんにちは、伊奈葉さん。……、…よく、お似合いですね。」
「はい?……っえ、ホントっすか!?」
「はい、とてもよくお似合いですよ、かわいらしくて。」
「……………………………………」

誰かカッコイイって言ってよ。

「あ、ああ安曇さん、もう…お話おわ…ったんで…」
「お待たせして申し訳ありませんでした、七絵様。」
「…様は出来ればやめてください…、……もっと話しててくれてよかったのに…」
「?何か?」
「……イエ…、……はあ、…伊奈葉くん、伊奈葉くん。」
「うぐ……、何スかあ?」

なんとかショックから立ち直りつつ、七絵達の方へ振り返る。

「私、そろそろ行くね。次の授業始まっちゃうし。」
「あ、ハイ!がんばるっスよ!」
「伊奈葉くんもね!ちゃんと仲直りしてね。」
「…何の話スか?」
「え?筧さんと喧嘩したんじゃないの?」
「ぶっ!?んな…っ何でそうなんスか!?」

外してそうで何処か的を射ていないこともない七絵の言葉に思わず祭が噴き出すと当の本人はキョトンとした表情になる。

「ちがうの?」
「ちがうっス!だいたい俺は!」
「七絵様、そろそろお時間ですが…」
「う……わ、わかりました……、…じゃあね伊奈葉くん!!」
「ちょ…っ人の話は最後まで聞くっすー!!!」

だがしかし七絵はそのまま手を振ると後に従う安曇とともに去って行ってしまった。後に一人残された祭は肩を落とす。

「もー……、やっぱ言った方がいいっスかねー…俺の方が年上なのに…」
「あら?ナナちゃん帰っちゃったの?」
「あ、緑さん。」
「ごめんねー、ちょっとお客さんが多くて遅くなっちゃった。ケーキどうする?」
「あうー……、…えと、後でいいっス。」

本当は食べたいけど。ここで食べてしまうと色々決意が鈍ってそのまま帰ってしまいそうだ。

「先に皆のトコ行くの?」
「はいっス。」
「……祭くんは、嫌いなモノを先に食べて好きなモノを後に回すタイプね。」
「………何でわかったっスか…」
「わかるわよっ!もう。じゃ、後で“持ってって”あげるわ。」
「ハイ!おねがいしまっス!」

ぺこり、と頭を下げると決意が揺らがぬうちに席を立ち隣のエントランスから入って階段を、

「ん?持ってって?………え!?……っう、も、いーや…。」

訂正し損ねたことに焦るが諦めて階段を上る。もう何度となく上ってきた階段は微妙な段差の幅の違いも判るほどだ。

―コツン……

いつもより時間をかけて上りきり、ドアの前に立つ。いつもはすぐに飛びこむ場所だったのにこの板1枚が遠さを

―ガチャッ

「ひょわあ!?」
「…、………何やってる。」

突然ドアが開き京介が顔を出す。その表情が一瞬驚いたように見えたのは気のせいだろうか。

「か、かかかっか筧さんっ!?」
「………、いいから入れ。」
「はいっス!!」

促されるまま慌てて入ると

「おっ祭…って、スーツ!?」
「えーどうし…ッスーツだ!?」
「うえっ!?」
「…………」

どこかで聞いたような反応をする時生と秀平に嫌な予感が。

「………っ…………え、ええ、えーと、な、何つうの?妙に、似合うな…。」
「似合うねー……妙に。」
「………。」
「に、似合うって…、どういう…方向性っスか?」
「………ええと、その、だな…」
「…照れてる時生ってマジきめぇ…」
「ふえ?」
「かわいいな!」
「にゃ!?」
「ホント、かわいいねー…」
「う、うわーんやっぱりー!?」

ショック。しかもものすごく本気で言われた感じがしてそれがまた。

「だってなあー…………、…やべ、俺めっちゃ、どストライクだぞ…っ」
「祭くーん、時生から半径1キロは離れた方がいいよー。」
「どういうことっすか!?」
「かわいいから。…だよー。」
「うぐっ………うにゅ…っ」
「なあ!かわいいって、な、京介!」
「…は?」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing