Search Me! ~Early days~
同じようにその男も倒れるとそれに数秒遅れて“空中に飛ばされた”ナイフが乾いた音を立てて屋上に落ちる。流石に尋常ではない状況に気付いたのか、男たちはじり、と後ずさった。
「な…ん、なんだよコイツ…」
「…っに…人間じゃねえ…」
「見えねえのに……何が起こっ」
「…アホかぁ、お前らが遅えんだよ。」
「そーそー。」
その時、昇降口から呆れたような馬鹿にするような…京介と祭にとっては聞きなれた声が聞こえた。
「っ楢川さん!羽野さん!」
「………」
「よおっ祭!元気そうで良かったぜ!!」
「けがーなーい?お兄ちゃーんー心配したよー。」
「…無いわけないだろう。」
「何ぃ!?祭ぃケガしたのかよ!!ってお前、額どしたんだ!?」
「え?あ…」
ぺた、と触ってみると擦り剥けたような痕。そういえばちょっと前に転んだんだっけ。
「こらー京介ー!!…どういうことだ。」
「……俺じゃない。」
まるでいつもと変わらない、状況にそぐわない会話を交わす4人に男達は呆気にとられていたが暫くして我に返った。
「な…っんだってめえら!?」
「何だって?オイ何なんだ俺らってよぉ?」
「正義のー味方ー、じゃあないねー。」
「……何でもいい。」
「いや良くないっスよ!?」
全く緊張の欠片も感じられない会話は、その気がなくとも男達のただでさえささくれ立った神経をそれはもう丁寧に逆なでした。
「…っこ……いつら…!!」
「ふざけやがって…!」
「全員でかかれ!!畳んじまうぞ!!」
怒声を上げ、男達は荒れた殺気をそのままに京介達に殺到する。
「………ふう、」
「やれやれ。」
「あーあ。」
溜息を吐いた。
「…っ………っ………うわ……ぁ……」
祭が漸く声を出すことが出来たのは、立っている人間が彼らと自分以外いなくなった時だった。“その間”中、無言と無表情を通し無音で男達を地面に沈めていた京介が、ここで初めて身体ごと振り返る。その表情はいつもとかわらないように見えた。
「……………、伊奈葉」
「は、ハイ!です!」
「大丈夫か。」
「え?…っうんっ…ハイ!…え?あ、多分?」
「……何だそれ。」
呆れた様子で溜息混じりに呟く言葉にはどこか安堵の響きが籠っている。
その頃、時生は倒れたリーダー格の男を適当に叩き起こしていた。
「オラ、起きろよテメエ。」
「う……うぐ……っ」
「ハイおはようさん。…で、コレなーんだ?」
ズイ、と男の前に突き付けたのは奪った彼の携帯。そしてそれはテレビの視聴機能が起動していた。
『…EDPA、国内経済協調同盟はフラップシステムズに対する全面的な支援を表明し、それを受けフラップシステムズはイーグルパートナーズに対し逆買収、所謂、パックマンディフェンスを買収防衛策として採用し、』
「っ!!?」
『この結果を受け、イーグルパートナーズはフラップシステムズに対する買収から手を引く方向に方針を転換するものと見られ、』
「…つーわけだから、お前らのやったコトは無駄になっちまいました、ちゃんちゃん。」
「残ー念ーでーしたー。」
ポン、と携帯を男に放ると時生は京介と祭に向き直る。
「おーい、京介、祭!」
「ふえっ!?あ、ハイっす!」
「そーろそろー、帰るよー。」
「あ…っ!?ちょっと待って下さいっス!」
おいでおいで、と手招く秀平に呼ばれた祭は慌てた様子で3人を止めた。
「…どうした。」
「日野宮さんっス!日野宮さんも俺と一緒に」
「それならー大丈夫ー。」
「へ?」
「さっき、無事に保護したぜ。今はもう、外に出てる筈だ。………まあ…」
「……っよ…かったぁ〜…っふわっ!?」
安心した途端、ガクン、と膝が砕け
―グイ…
「っ!?」
た、所を、京介に腕を引っ張られ、支えられる。
「…気を付けろ。」
「…っあ…ハイ……あ、ありがとっす…っ」
「……別に。」
祭がちゃんと自分の足で立ったことを確認すると京介はそっと腕を放した。その時、先に行っていた時生の焦れた声が耳に届く。
「なにやってんだ2人とも!とっとと帰るぞもたもたすんなぁ!!」
「ああ………、…伊奈葉?」
「ふえ!?」
「…どうした?」
視線を感じ振り返ると、物言いたげな祭と一瞬目があった。だが慌てた様子で視線を外すと、ふるふると首を振った。
「いえ!何でもナイっす!…行きましょ!!」
「ああ。」
「……、…。」
―バタン……ッ
そして、4人は屋上を後にする。
遥か遠くからサイレンの音が近づいていた。
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing