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Search Me! ~Early days~

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もうどれくらい階段を“駆け上がった”のか、祭の膝は小刻みに震えていた。

「まさかっ、途中で階段…っ付き変わって、とか…っ下、行けな…じゃん…!」

緩急をつけた追いかけっこは当初は祭が有利だった。だが暫く階段を下りるとある階から下がなかった。そこで立場は逆転した。
隠れながら行くことで挟みうちは回避できたが、上へ上へと逃げることを余儀なくされてしまったのだ。

「このまま…行ったって…」

行きつく先は、

「…っ!おい、待て!!」
「っ!?」

―だっ

下から聞こえた怒声に弾かれるように祭は階段を駆け上がった。とはいえ、それもすぐに終わる。
上って上って、上りきって行きつく先は。

―ガチャッ バンッ

「っ!」

―ビュウウウウウ…ッッ

目の前のドアを開け放ち飛び出すと強い唸りを上げる冷たい風にさらわれそうになる。周辺は、濃紺を塗り込めたような青みがかった漆黒。

「…っ屋上…っ」

何時かはわからないが、完全に夜だった。

―ガタガタ…ザワザワ…ッ

「!」

昇降口からざわめきが近づくのが聞こえ、祭の肩が跳ねる。慌てて広い屋上に視線を巡らせどこか別のルートがないか探す。だがまっすぐとコンクリートが広がる屋上には隠れる場所もない。

「…っいたぞ!!」
「っあ!?」

迷っているうちに遂に追手は祭に辿り着く。昇降口から呼吸の上がった男達が数人、バラバラと出てくる。

「クソガキが…っもう逃げんじゃねえぞ!」
「…っく…」
「畜生…本社の命令がなきゃ、ぶっ殺したいところだ!」

凄みながらジリジリと距離を詰めてくる男達から逃れるために祭も後ろに下がる。だが、ここは屋上だ。

―どん…っ

「…っひ…っ!?」

壁にぶつかり、反射的に振り返ると目もくらむような高さ。粒にしか見えない車や人の姿に思わず悲鳴を上げそうになる。顔を上げるともう数メートルの所に包囲の輪は迫っていた。

「手こずらせやがって…」
「大人しくこっちへ来い。」
「…、う…っ」

…何やってるんだ。

―ザリ……ッ

本当に、何やってんだ。

―びゅうううう…

もっと、頑張るって決めた。

「……っ」

なのに、また失敗して

「さあ……っ」
「…っう…っ」


やっぱり、俺は――……















―――……ズガシャアッ

「ぐあっ!?」
「っ!?」

…きつく目を閉じた瞬間、何かがコンクリートに擦れるような音と、呻き声が聞こえた。例えるなら…例える必要もないが、祭が転んだ時に出す音や声と同じだ。でも今のは祭ではない。

―ザア………ッ…

風向きが変わる。今まで痛いほど体を叩いていた風を感じなくなる。
風は…吹いているのに。

ゆっくりと目を開ける。

「……え………?」

そこにあったのは闇よりも黒の深い、色。


「――――――…っっ…う、そ………」

なんで。



「…―――――――――……っ…っ筧さんっ!?」


「………、」

振り返ると、微かに瞳を細めた。






*****




「…っ!?」
「あ、いたー。」

ひょい、と秀平が壁の死角を覗き込むと身体を小さく縮めていた七絵と目があった。七絵は青ざめ逃げようとするが

「っや…っ」
「あー待ってー待ってー、“日野宮さん”。」
「っは…!?何で…」
「あーコッチじゃー初めましてーだねー、祭くんの、おにーちゃんでーす、ポジ的にー。」
「い、伊奈葉くんの?」

祭の名前、と妙に警戒心を抱かせないイントネーション、そして名前を呼ばれたことで七絵の緊張が僅かに緩まる。

「そー、バイト先のー探偵さんですよー。」
「え!?」
「…お、あ!いたいた!!秀平!!」

その時、安曇を伴った時生が秀平に追いついた。

「早かったねー時生ー。」
「まあな。…お、七絵ちゃんだ!大丈夫か!?」
「え…?え、あ…はぁ?」
「時生ーなれなれしー。」
「ばっか、緊張をほぐそうとしてだな俺は」

「…っ七絵“様”!!」
「はあ!?」
「「え?」」

血相を変えた安曇が切羽詰まった声で言って駆け寄ると、

―ザッ…

七絵の前に跪くと恭しく頭を垂れた。その行動に3人は目を“丸く”する。

「あ、あずみさん??」
「どど…っどちら様ですか!?て、私…」
「お会いできて光栄ですが、早々のご無礼をお許しください。時間がないのです。」
「あ…え?」

まるで中世の騎士か何かのような口上と態度は現代としては時代錯誤の筈、なのに何故かまったく違和感なく振る舞う。混乱しっぱなしの七絵を見据え安曇は告げた。

「危機に晒されたフラップシステムズを救えるのは、貴女だけです。」
「っ!!?」
「は!?」
「…っじゃ、…筆頭って…」

「ご命令を、七絵様。」




*****





屋上を吹き荒ぶ強いビル風は一瞬の凪の後、再び吹き荒れ始めた。誰もが表情を歪める中、京介1人だけは視線を緩めることはなかった。

「なん…っ何だてめえは!?」

男の1人が混乱を滲ませ怒鳴る。

「……」

京介は動くことも答えを発することもない。その頃になって漸く状況に思考が追いついてきた祭が恐る恐る口を開く。

「…っか…筧さん、な…んで、ここに…」
「……、」
「ええと…」

彼らに向ける態度と同じく、動くことも答えることもない京介に収まりかけていた混乱が祭を襲う。京介はそんな様子の祭にひたと視線を向け、口を開いた。

「馬鹿。」
「ふえ!?」

妙に刺々しい口調と想像の範疇を思い切り飛び越えた罵倒に唖然とする。そもそも京介がそういうこと言うなんてイメージに無い全く無い無いったら無い。ポカンと口を開いたまま、流し見る視線を送る京介を見上げた。

「仕事を増やすな、この馬鹿。」
「ばっか……って…!?」

2度目の言葉で漸くその意味が理解に追いついてきて遅ればせながら憤慨するが

「事実だろ。」
「…ぐ!?」
「事実。異論は?」
「………………ない、…す…」

祭の反論は異論を許さない京介の断言によって棄却された。京介はその答えに軽く瞳を細めると、男達へと向き直る。そこには混乱から抜け出し殺気を露わにした集団がいた。

「くそ…っ何なんだよ!」
「…とにかく、これ以上の失態は許されねえ、やれ!!」
「………」

そして男の一人が京介達に殺到する。

「…っ」
「下がっていろ。」
「え、ちょ…」

息を呑み身体を竦ませる祭にそう言うと、京介は徐に一歩前に進み、

「…この野郎!!」
「……」

拳を振り上げた男を軽く一瞥し、




―………………どさり……



「え…?」
「は、あ?」
「…な?」
「……」

次の瞬間には男は突然糸が切れたように京介の足元に倒れていた。誰も、何も、何が起こったのか理解できない。

「……」

ただ一人、元凶を除いては。

「ってめえ!!」

―チャキッ

別の男がナイフを取り出し、京介に対峙した。

「…」
「妙なことを……っ何しやがっ……っ」


―カツン……… ………  ……どさ……… …カシャン…ッ

「「!!?」」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing