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Search Me! ~Early days~

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08 パーシャル










―……バタン……ッ

「……はああ…」

無言でドアを開け入ってきた時生に秀平は答えの分かりきった問いをすることしかできなかった。

「…………おかえりー、…見つかったー?」

時生は重く肩を落とすと首を振った。

「いや…見つかんねえ…」
「……そー……」
「アイツ…祭…なんだよくそ、滅茶苦茶、足速えんだよ…マジで…」
「よくー、転ぶのにねー……京介は?」
「え!?アイツまだ戻ってきてねえの!?」

てっきり先に戻ってきていると思っていただけに時生は驚く。留守番をしていた秀平は呆れた様子で呟いた。

「うんー……例によってー携帯も取らないしー。」
「…世話が焼けんなぁもう、ちょい行ってくるぜ。」
「了解ー了解ー。」

―バタンッ

再び事務所を出て行った時生を見送ると、秀平はゆっくりと瞳を開き、溜息を吐いた。

「…こっちだって、今すぐ飛び出して探しに行きたいんだけどね。」

その瞳が捉えたい小さな背中は、どこで、どんな風に傷ついているのか。

「俺も人がいいな…たく。」




*****




行きそうな所、立ち寄りそうな所。一つ一つ回って探すが、その痕跡は何処にも見当たらず、ついには駅までたどり着いていた。

「……」

電光パネルを見上げると点滅する行き先と時刻。たった今発車した電車があったようだ。耳をすませると微かに車両が上下に振れ線路を走る独特の音が聞こえたが、それもすぐに遠ざかり聞こえなくなる。その時、

「うおーい京介。」
「……」
「見っかったか?」
「…。」

後ろから掛けられた時生の言葉に対し無言で首を横に振った。時生は驚いた様子もなく溜息を吐く。

「京介、一度戻るぜ。もしかしたらよ、頭冷えて戻ってくっかもしれねえし。」
「……」

京介は時生の言葉には何の反応も示さず、踵を返すと駅を後にする。時生は呆れた表情で再び溜息を吐いてその後を追った。

「……正直さ、ちっと油断が過ぎたな。」

道すがら、時生はポツリと零す。

「……」
「俺達3人、揃いも揃って探偵失格だぜ、ドアの外の気配に気づかねえなんて…」
「いや……」

そこで初めて京介は口を開いたが、それは酷く低い。

「しくじったのは俺だ。」
「…は?何言ってんだよ、全員の責任だろうがよ。」
「……」

連帯責任を主張する時生の言葉を、京介は内心で否定した。

今回の件の発端は、依頼の事実から祭を隔離してしまったことにある。そして、それを行ったのは他でもない京介だ。情報から遠ざけ、目隠しをし、耳を塞ぎ、触れさせようとしなかった。
その結果が今ここにある。

「……」

仮定の話をするのを良しとはしない。
だが、もし、最初の時点で依頼のことを正しく告げていれば。
もし、ショックを受けたとしても、納得のいくまで話をしていれば。
もし、あの時、一緒に七絵のことを追っていれば。

あのような表情をさせることはなかっただろうか。

「…京介、あんま自分を責めんなよ。」
「別に。」

責めてはいない。
自分が祭にあんな表情をさせてしまったという純然たる事実を噛みしめているだけ。
それだけだ。

「……」

ただ。
何故、こんなにも考えているかは、わからなかった。

わからないことにしておいた。





*****





―ガチャッ

「…おはようござ」
「っまつりん!?」
「祭くん!!」
「伊奈葉、大丈夫か!?」
「へ…?」

爽やかな朝とは言い難い気分でドアを開けた途端、皆に取り囲まれ祭はポカンとする。周囲の人は一様に心配そうな表情で祭に声をかけた。

「でも、よかったあ、ちゃんと今日も来たな。」
「伊奈葉、ちゃんと眠ったのか、顔色あんまよくないぞ。」
「え…あ、」
「もし眠れないなら、おねーさんが添い寝したげるわよ?」
「あ、ズル!?」
「ズルイ!まつりん、俺が一緒に添い寝し」
「黙れド変態が。」
「………怖っ」
「祭、こんな怖い人はほっといてコッチで」

「祭。」

瞬間、周囲の人々の喧騒がピタリと止む。聞きなれた声の硬いトーンに祭はのろのろと顔を上げた。

「…せんぱい…」
「ちょっとおいで。」

有無を言わさない口調に抵抗するつもりも気力もなく祭は綿森の言葉に従い傍まで行くと、

―パタン…

その後を追って部屋を出て行った。部屋には心配げな表情を浮かべた仲間達が残される。

「…昨日、何があったんだ?」
「え…!?」

人の気配のまるでない階段室で綿森は厳しい口調を崩さず言った。

「僕も、他の皆も、何度も連絡を入れたはずだけど?」
「あ……ハイ、」
「何故連絡を返さなかったんだ。」
「……ごめんなさい。」
「聞いているのは理由、謝罪じゃない。」
「…。」

実は履歴を見たのはなんと今朝になってからのことで昨日のうちの話ではない。昨夜は誰とも関わるのが怖くて、あの後すぐ電源を切ってしまっていた。その一時の感情に任せた自分の浅はかさを悔いるが遅い。

「…自分の立場がわかってるのか?それともまだ、“学生気分”が抜けない?」
「い…、いえ…」
「だったら……いくら時間外でも、連絡がつく状態にはしておけないか?」
「…申し訳、ありません…っ」

ただひたすらに謝って頭を下げる。言い訳のしようがないほど非は完全に自分にあることが分かっていたから。だから瞳も完全に乾ききって涙の一滴もでない。

「……っ」
「…っごめんなさい、…ごめんなさい、俺が、全部、」

悪いんです、と、続けようとした言葉が、

―…ぎゅう…っ

「っ!!?」

急に身体を包み込んだ体温に奪われる。押し付けられた頬に触れる独特の生地の感触と、鼻先を掠めた淡い他人の香り。そして、

「……祭、」
「っ…」

すぐ近くで囁かれた綿森の静かな声で、自分の現状を漸く把握した。

「…祭、つらい?」
「せ…んぱ…っ」
「つらいか?」
「……っ」

つらいって。
何が。

「な…何、が…」
「自分じゃわからない?…そんな顔をしておいて?」
「え…あ…」

抱きしめてくれる腕に力がこもる。綿森は酷く悲しそうな声で絞り出すように言った。

「…ごめんな、」
「先…輩…」
「そんな辛い思いをさせるつもりはなかった、…なのに、」
「…っ」
「……僕が、引き際を見誤ったせいだな。」
「せんぱ…い…?」

自嘲と、自責が滲む、激しい感情を必死で押し殺すように。

「…戻ってくるんだ、祭。」

そう、告げられた。




*****




普段よりも随分静かな事務所には何処か重苦しい空気が漂っている。

「…ちぃっとばかし気になってよ、調べてみたことがあんだよ。」

そんな中、京介と秀平に向かって時生はそう切り出した。京介はデスクに座ったまま視線を向け、ソファに座った秀平はゆっくりと振り返る。

「調べてみたー…ってどれのことー?七絵ちゃんのコトなら、」
「…イーグルパートナーズのことか。」
「ああ、京介が正解な。…どーもこのまま黙って引き下がってくれるとは思えなくてよ、一文の得にもならんが、予防策くらいは講じとけってコトで。」
「何か反撃するにもー、相手のコト知っとかないとねー、それってー昼間までに終わるー?」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing